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♪STEAL AWAY

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Steal Away / Charlie Haden & Hank Jones

It's Me, O Lord (Standin' in the Need of Prayer)
Nobody Knows the Trouble I've Seen
Spiritual
Wade in the Water
Swing Low, Sweet Chariot
Sometimes I Feel Like a Motherless Child
L' Amour de Moy
Danny Boy
I've Got a Robe, You Got a Robe (Goin' to Shout All over God's Heav'n)
Steal Away
We Shall Overcome
Go Down Moses
My Lord, What a Mornin'
Hymn Medley: Abide With Me/Just as I Am Without One Plea/What a Friend We Have in Jesus/Amazing Grace

すっかり深まった晩秋の何でもない一日に、ぼんやーりしながら聴いているのは、ピアノとベースの二重奏です。
録音当時76才のハンク・ジョーンズ師と、チャーリー・ヘイデンのデュオ。
このレコードから聴こえてくる、何気ない穏やかな感じがなんともいい感じなのです。
演奏されているのは主に古い黒人霊歌や讃美歌。
なんだか日曜日の教会を思い起こさせるような。
おばあちゃんに手を引かれて礼拝堂に入って、周りの大人たちの普段とは違う神妙な面持ちに少し戸惑いつつも「人間にはいろんな面があるんだな」なんて感じながら見よう見まねでお祈りの言葉を口にする、そんな経験があるわけではないのに、そんなことを思い出すような不思議な感覚になってしまう。
教会の机の木の香り、ひんやりとした空気、ステンドグラスの不思議な色合い、その向こうに見えた大きな木に揺れる緑の葉っぱ、薄い水色の高い空。そんなことを思い出す。確かな記憶かどうかですら定かではないのに、ぼんやりと、けれどはっきりと。

ヘイデンさんのベースの、なんとも包容力のある音が素敵ですね。
あたたかくて丸みを帯びた音。それもただ丸いだけではない。長い年月を経て熟成されて角がとれてきたような丸み、というか。芯のところでは強い意思を保っていて、それが深いコクとまろやかさのある極上の味わいになっているのだと思う。
寄り添うハンク・ジョーンズさんのピアノも実に味わい深い。でしゃばらず、穏やかな微笑みを浮かべながら、楽しそうにピアノを歌わせている。
なんていうか、このお二人の演奏には、敬意が感じられるのです。
音楽への敬意、普通の暮らしへの敬意、普通に生きている人々の日々の営みへの敬意、そういう暮らしを繰り返してきた先人たちへの敬意。
忙しい毎日でついつい忘れてしまいそうな、そういう感覚。
大切なことだと思います。
そういうことを感じさせてくれるお二人の演奏に感謝。



◇カラスの教科書

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駅から仕事場へは徒歩5分くらいなのだけれど、直通の大通りではなく、少し回り道になる裏通りを歩くようにしている。理由は、出勤前にタバコを一本吸っていきたいから。人通りの多い大通りではとても吸えないから。
その裏通りは、夜は飲み屋街で、朝イチにはあっちこっちにゴミが出してあって、そのゴミを狙ってカラスがたくさんうろうろしている。近所には大阪城公園もあるのでねぐらも多いんだろうね。
そのカラスを観察するのが、この裏通りを歩くもうひとつの楽しみで。
カラス見るのって楽しいよね、っていうとちょっと怪訝な顔をされるのが関の山なんだけど、実際楽しいし、よくみるとけっこうかわいいんですよ、カラスって。
おっ、今日も元気に漁ってるな、なんて。

先日東京へ行ったときも、朝から歌舞伎町でカラスの観察して遊んでました。
午前9時を過ぎてまだゴミを漁ろうとしているのは、朝イチのまだ人が少ない大漁の時間帯に食いっぱぐれた若いカラス。カラスにはある程度の社会があって、強い奴から順に飯にありつけるらしい。たくさんでゴミを漁っているように見えてもよーく見ると一羽一羽順につついていることが多いですね。
そして、実はとても臆病。
ゴミの山が積んであっても、ちょっとでも人が通るとさっと飛び立ちます。
電柱の上とか、屋根の上からまずはじっと人間を観察しているんですよね。近づくと逃げられるので、警戒されつつ少し離れた場所から観察。
人通りが途切れると、安全な距離を保ちつつ、ひょこひょこと屋根を伝っていく。目的のゴミに最短距離まで近づいたあと、ふわっと飛んで着地、ぴょこぴょこごみ袋に近づいてゴミをつつく。目的物をゲットしたらさっと屋根の上に戻ってから食べる。
こんな具合です。

①     →②    →③    →④
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①高い看板の上からまずは観察
②人が通り過ぎたら、一段下の看板にぴょん
③テントの屋根へとさらに近づいて
④ひらりと飛んで着地、エサをゲットしたらまたひらり

周囲の様子を観察しつつ、じわりじわりとタイミングを見計らいながら距離を詰めていく技。
カラスの臆病で慎重、かつ計画的な様子がよくわかります。


そんなカラス好きにとってたまらなく楽しいのがこの本。
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カラスの教科書 / 松原 始

著者は大学の助教授で、博物館での研究員の傍らでずっとカラスの研究をしているらしいけれど、随所に現れるカラス愛が素敵。
だからといってべったり持ち上げじゃなくって、時には学術的な視点でクールに、時にはあほくさいくらいのカラス愛まるだしで、そのバランス感覚がとても好感が持てるのです。

カラスというと、ゴミを漁って迷惑、ということで嫌われていますが、そもそもカラスはハイエナなんかと同じで自ら狩りをする能力には秀でていない分、強いものが食べ残した死肉などを食べることを生存戦略としてきた鳥のようです。森林の屍のかわりが、都会の強者である人間が残したゴミ、というわけですね。そこにエサがあるから群れる。カラスとしては昔からやってきた方法が、たまたま都会の環境と一致した、というだけのこと。
墓場に集まって不吉、というのも、お墓は人通りが少なくお供えなどのエサがあるので集まりやすい、ということのよう。
人を襲う、とか、女子供を見分けている、なんてこともよく言われますが、仮に襲うことがあるとすれば、それは子育ての時期に人間が不用意に巣に近づいたときだけなんだそうです。女子供は見分けているというよりは、背が低い相手とのほうが距離感を詰められてもまだ大丈夫、ということによるもののようです。
人間は妙に生き物の行動を擬人化したがりますが、彼らには彼らなりの行動論理があるわけですね。

と、まぁ、この本で得た知識も思い出しつつカラスを観察するとより楽しめます。
あー、なるほど、そーゆーことかー、なんて。
人間がなんだかんだ言っても、カラスたちのやっていることは今日を生き延び明日を生きるためのエサの確保と、子孫を残すための繁殖のための行動。彼らの暮らしている環境は都会であっても野生なんですね。そして野生は毎日がサヴァイヴァル。食うか、のたれ死ぬか、やるべきことはシンプル。
そういう意味でカラスの観察は、都会で野生の行動を観ることができる数少ない機会、生き物とは何ぞや?というヒント、大袈裟に言えば生きるとは何ぞや?ということを考える上でもためになります。

ま、そんなこんなでカラスの観察が毎日のちょっとした楽しみになっているのですが、なんでこんなにカラスが気になるんだろ、なんて思いつつ、この本の最後のページの記事、【あなたのカラス度診断】っていう記事を見てちょっと自分でも笑ってしまった。

【あなたのカラス度診断】
1・ワードローブがなんとなく黒いと思う。
2・何でも食べます。好き嫌い?ダイエット?何ソレおいしいの?
3・「情報通」「物知り」と言われる方だ。
4・結構、器用。っていうかムダに器用かも。
5・周囲に「実はヤバそうな奴」と誤解されている気がする。
6・好きな歌を聞くと無意識に口ずさむことがある。しかも完コピ。
7・群れるのは別に嫌いじゃない。義務感はないけど。
8・気になるものを見つけると立ち止まってチェックしないと気がすまない。
9・でも、石橋を叩いて他人に渡らせるタイプだ。掲示板では半年ROMる。
10・見つけたものは食べてもいいと思っている。

これ、ほとんど当てはまる。
要は、俺、カラスだったんだ、って。
ムダに器用、とか、もうそのまんまですわ(笑)。



♪11月12日 東京

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もはや毎年、秋の恒例行事となっている伊勢のロック・バンド“めれんげ”の東京ライヴ。
もう何回めだっけ、って数えてみたら6回目の参戦、つまりは6年目だった。
なんで毎度毎度わざわざ東京まで行くのか、伊勢のバンドが東京で毎年ライヴ演ってるのか。
実はお客さんのほとんどはVo&Gのkonomi氏がご自身のblogからのつながりで集まるのですよね。
遠くは高知や名古屋、石巻から。僕も京都から新幹線でかけつける。
blogつながりの友人がここでリアルの友達になる。毎年毎年そうやって仲間が増えていく。
なじみの皆さんとの年に一度の再会、そして新しい仲間との出会い。
それがまずは楽しいのです。
インターネットって、ほんとすごいよね。
日常の暮らしの中で、大好きな音楽のことを語る機会っていうのは実際限られているし、意気投合できる人もそんなにはいない。でも、日本中には同じようなものが好きで同じような思いで生きている人たちがたくさんいるんだな、って。
同じようなものが好き、っていうのはね、極端な言い方をすれば、心のある部分がとても近い、とても似ているんだと思うんですよね。だから気が合うのも早い。ずいぶん昔から知っているような気がしてくる。
あ、俺だけじゃないよな、ってね、すごく元気をもらえるような気持ちになれるんですよね。

ただ、“めれんげ”のライヴへ僕がわざわざ遠方から足を運ぶのは、それだけじゃない。
konomiさんが友達だからだけじゃない、50過ぎて仕事とバンドを両立させてい頑張ってる皆さんを応援するためだけじゃない。
彼らのライヴに立ち会うことで感じるものがあるからだ。
何かが動いて、大袈裟に言えばその結果として次の日からの僕の人生の何かが少しバージョンアップするからだ。
“めれんげ”の音には、konomiさんの歌には、そういう何かがあるんですよね。
たぶん、本人もそういうことを感じてほしくてこのライヴに本気で向き合ってるはず。
もちろんそんな風には感じさせないように飄々と能天気を装いながら。そういうとこも大好きなんだけどね。

そんなkonomiさんの人柄に惹かれてみんなが集まってくる。
そこには、魅力的な人柄がにじみでた歌がある。
そして、歌の魅力を受けとめて音にしていくメンバーたちがいる。
「俺はね、ほんと恵まれてると思うのよ。譜面書けないからね、こんな感じ、あんな感じって言うと、それを感じてそういう音を出してくれるのは有難いよね。」
ステージでkonomiさんがこんなことを言っていたんだけど、そういうのが一番のバンドの楽しさですよね。

今聴いているのは、そんな“めれんげ”のライヴ音源集。

無題

あれからもう一週間もたっちゃったんだな。
あの日の熱く、それでいて不思議に和やかな空気を思い出します。

konomiさんの歌があって、それを感じて、音を重ねていく。リズムを合わせていく、観客のリアクションがまたメンバーに伝わっていく。そうしてその場に音楽を真ん中においたひとつの共有空間ができあがっていく。
一方的に歌いたいことを歌っておしまいじゃない、バンドとの空気、お客さんとの空気の中ではじめて完結する歌、それがkonomiさんの歌の一番の魅力で、そういう場の空気が、本当に、普段の生活では味わうことができない楽しさに満ちていて。
そういう楽しさっていうのは本当に宝物みたいにキラキラしてて。宝物っていうより、あるステージをクリアした人だけがゲットできる強力なアイテムっていう感じのほうが近いかな(笑)。
「楽しい」や「シアワセ」は、勇気や元気のエネルギー源で、何かめんどくさいことやめげそうなことがあったとき、一歩踏み出さなくっちゃいけないとき、そういう「楽しい」や「シアワセ」をたくさん持っていればいるほど、バッドな出来事でもポジティヴに向きあっていけるような気がするんですよね。

そんな勇気や元気の源をいっぱいくれる“めれんげ”東京ライヴ。
また来年、でもたぶん、来年なんてあっという間やね。



♪BILL WITHERS' GREATEST HITS

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Bill Withers' Greatest Hits / Bill Withers

Just The Two Of Us (With Grover Washington Jr.)
Use Me
Ain't No Sunshine
Lovely Day
I Want To Spend The Night
Soul Shadows (With The Crusaders)
Lean On Me
Grandma's Hands
Hello Like Before
Who Is He What Is He To You

秋も深まるにつれ、懐の深い歌ものが恋しくなります。
どこか不器用でゴツゴツしていて、でもどこか繊細でやわらかくて、おおらかというか懐が深いというか。
というわけで、ビル・ウィザース。
はっきり言って地味です。
きらびやかさやかっこよさ、いわゆるスターっぽさとは無縁。泥臭くて男臭くはあるけれど、いわゆる親分肌兄貴肌のやさぐれブルース・マン的なワイルドさは微塵もなく、ジェントルだけどキザっぽい男のそれとはまるで違う。まるで黙々と働く職人のように寡黙で、繊細。遠慮がちで自信なさげに淡々としているけれど、こと仕事においてはプロフェッショナル。

ビル・ウィザースはウエスト・ヴァージニア州スラブフォークという小さな田舎町で六人兄弟の末っ子として生まれ、17才のときに海軍に入隊。9年間在籍し、その後飛行機の整備士など数々の仕事を転々とし、デビューしたのは30才を過ぎてから。また、生来の吃音であったという。
いろんな経験をしてきたんだろうな、若気のいたりで調子にのって人を傷つけたこともあったのだろう。そして傷つけられもしたのだろう。そんないろんな経験を踏まえた深みがこの人の声にはある。そしてその深みのある声は、とても優しい。

優しさというのは心の許容量のことだ、って昔誰かが言っていた。
相手のことをどこまで許せるか、どれだけ受け入れられるか。相手のふるまいの背景にあるもの、心の奥にあるものをどれだけ慮ることができるか。
僕は心が狭いから、ついつい「むかつく」だの「許せない」だの「いいかげんにしろ」だのめちゃくちゃ言っちゃってから、ああ、またあんなこと言っちゃったな、って反省してばっかりなんだけど、それでもいろんな経験をして、心の許容量は少しずつだけど広がってきているようには思う。まぁ、周りの人から見たときそれはどうなんだかよくはわからないけれど。
優しいだけの男になんてなりたくはないと思ってきた。嫌われても煙たがられても、自分の主張はするぜ、って。
でも、最近特に思うんですよね。
そんなふうに突っ張ってはみても、やっぱり一人では生きられない。自分と違う立場の人のふるまいを一度受け入れたり、いちいちひっかからずに受け流したり、ってことも大切だな、って。
つまらないことにいちいちこだわるよりも、もっと懐を広くもって余裕があるほうがかっこいいよな、って。
たぶん、小さなことにこだわることが自分自身の証だと思っていたんだと思う。でも、もう、いちいち小さなことにこだわらなくっても、そうそう揺るぎはしないんじゃないか、って。

ビル・ウィザースの懐深くあたたかい声には、ついついそんなことを考えさせられてしまうのですよね。
深まる秋、人生もいつのまにかどんどん秋深くなっていく。
それはそれでいいことだ。
秋には秋の楽しみがあるはずだもの。


♪YOUNG GIFTED AND BLACK

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Young Gifted and Black / Aretha Franklin

Oh Me Oh My (I'm a Fool for You Baby)
Day Dreaming
Rock Steady
Young, Gifted and Black
All the King's Horses
A Brand New Me
April Fools
I've Been Loving You Too Long
First Snow in Kokomo
The Long and Winding Road
Didn't I (Blow Your Mind This Time
Border Song (Holy Moses)

史上一番の不人気対決と言われたアメリカ大統領選挙は、政治経験0の不動産屋のおっさんが勝利というまさかの展開。。。
某元府知事みたいに威勢のいい言葉ばっかりが先走ってはみたものの、結局は何にもできずに、民衆の期待はやがて失望に変わり、失望が怒りに変わり、最後は退場、、、ってことにしかならないような気がするのですが、あーゆー人が当選するっていうのは、それだけ現状への不満や鬱屈が民衆の中に溜まっているっていうことなんだろうね。

千載一隅のチャンスを逃したヒラリー女史。
揶揄されるネタもいくつもあるんだろうけど、結局のところこの人が多数から支持されなかった最大の理由は、人間的な魅力の乏しさだろうと思います。
会ったこともないのになんで人間的な魅力が乏しいと感じてしまうのかというと、結局のところ「声」に魅力がないのですよね。べちゃっとして少しヒキガエルのようにつぶれた声からは、聡明さや誠実さよりも、ずるさや冷酷さを感じてしまうのです。

「声」っていうのは人間関係において実はかなり重要なファクターだと言われています。人間がまだ言葉を身につける前、声のトーンや大きさ、ニュアンスで感情を伝えていた時代がずっとあった、その名残なのでしょうけど、実際声のトーンやニュアンスというのは、話している言葉の中身以上に相手に伝わるもの、どんなに丁寧な言葉遣いをしても心のこもらない言い方では気持ちは伝わらないし、例えば電話しながらお辞儀したりするのって、見えていないようでも言葉のトーンで伝わるものだったりするのですよね。
人間関係の上で「声」って、思いの外大事です。
好きな人の声ってとても心地よく聞こえるし、嫌いな人の声はすごく耳障りに聞こえるんだけど、ふと思うんですよね。「好きな人」の声だから心地よいのではなくて、実は「声が好き」だからその人を好きになるんじゃないのか、「嫌いな人」の声だから耳障りなのではなくて、「声が嫌い」だからその人を好きになれないんじゃないか、って。

さてさてところで、それではアメリカ大統領にふさわしい声の人って誰だ?というと、個人的には圧倒的にアレサ・フランクリンだと思うのです。
ローリングストーン誌の読者アンケートでヴォーカリスト部門一位になったくらいの上手さと巧さ、技術もパワーも兼ね備えた偉大なるヴォーカリストであることは間違いないのですが、けっして上手さやパワーだけではない、感情のこめ方のせ方が全然違うのですよね。
何ていうんだろうか、敬意とか、尊厳とか、或いは慈愛とか。そういうものの成分がとても高いというか。
よく言われることだけど、男女のよしなし事を歌っていても、アレサが歌うと人類愛の歌のように聞こえるのです。
アレサの数ある作品の中でも特に深いと思うのが、いわゆるニューソウルの触発された70年代初頭・アトランティック後期の作品群で、この「Young Gifted and Black」なんて最高に深み奥行きがありますね。
黒人としての誇りと希望を歌ったニーナ・シモンの表題曲や“Rock Steady”での軽やかなファンクネスや、オーティスの名曲“I've Been Loving You Too Long”でのブルージーさ、ビートルズの“The Long and Winding Road”やエルトン・ジョンの“The Border Song”での崇高なまでのゴスペル度、せつせつと歌い上げる“First Snow In Kokomo”のせつなさ。このアルバムには入っていない同時期のシングルである“Spanish Harlem”や“Don't Play That Song”、サイモン&ガーファンクルの“Bridge over Troubled Water”まで含めて、人類の世界遺産級の素晴らしさです。
人としての尊厳や、慈愛の心、そういうもので心が満たされていく気がして、心のうちからエネルギーが湧いて出てくるような気分になりますね。
やっぱリーダーに必要なのはこういう力強さだと思う。
ゴリ押しやごまかしやハッタリではなく、心のうちから出てくる強さ。
こういうリーダーがいれば、世界はもっと慈愛の心で満たされるんじゃないかと思うのですがね、残念ながらの今回の結果。世界はいったいどう動いていくんだろう。

ちなみにレコーディングのメンツは、あの名盤「Live At Fillmore West」とほぼ同じメンバー、すなわちDr.バーナード・パーディー、B.チャック・レイニーに、G.コーネル・デュプリーという鉄壁の布陣。
他にも、Dr.アル・ジャクソン、B.エリック・ゲイル、G.ヒュー・マクラッケンらに加え、ビリー・プレストンがゴスペル色の濃いオルガンを、ダニー・ハサウェイがエレクトリック・ピアノを弾いている曲もあるし、フルートにヒューバート・ロウズ、コーラス隊にスイート・インスピレーションズ、ホーン・セクションはウェイン・ジャクソンやアンドリュー・ラヴらメンフィス・ホーンズ。パーカッションでDr.ジョンのクレジットもあったり、演奏陣の深みとノリももちろん世界遺産級です。



♪TRACKS ON WAX 4

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Tracks On Wax 4 / Dave Edmunds

Trouble Boys
Never Been in Love
Not a Woman, Not a Child
Television
What Looks Best on You
Readers Wives
Deborah
Thread Your Needle
A.1. On the Jukebox
It's My Own Business
Heart of the City

自分自身は、あれもこれも広く浅くちょこっとずついろんなものを試してみたい性質のせいか、逆に●●一筋!みたいな人には憧れます。
あれもこれもはできないけど、あることに関してはとことんやっちゃう職人気質。
ロックンロールの世界でもこれぞ職人!という人はたくさんいるけど、デイヴ・エドモンズさんはその中でも指折りの職人中の職人、ロックンロール職人かと。

ほぼ全曲3分ちょっとのシンプルなロカビリー/ロックンロール。ストレイキャッツを見いだしたり、グレアム・パーカーやヒューイ・ルイスらの楽曲をいち早く取り入れて紹介したのもこの方。
シンプルかつ飾り気のないロックンロールに、どうにも垢抜けない雰囲気も職人っぽい。

このアルバムは、そんなデイヴさんの4作めのソロなんだけど、実は伝説のロック・バンド“ロックパイル”の非公式デビュー作品でもあるのです。
ニック・ロウがいたブリンズレー・シュウォーツをデイヴさんがプロデュースした縁で、デイヴさんのソロにニック・ロウ、ドラムのテリー・ウィリアムスが参加。そこにビリー・ブレムナーが加わってロックパイルが結成されたのだけど、ロックパイルの名前ではアルバムは一枚しか残さなかったのは、ニックとデイヴがすでにそれぞれソロとして別々のレコード会社と契約していたためバンド名義ではレコードが出せなかったという経緯によるもの。
そのかわり、ニック・ロウとデイヴ・エドモンズのソロ・アルバムをはじめとするいくつかのレコードに、ロックパイルのメンツでのレコーディング作品がお宝のようにたくさん残されている、というわけ。

まぁ、なにしろ楽しいレコードです。
メンバー全員がロックンロール一筋のロックンロール職人なわけで、ポップでキュートで能天気なロックンロールが次から次へとこれでもかーって繰り広げられて、そりゃもうゴキゲンにならずにはいられない、ってもんです。ビシバシと跳ねるリズム隊に、デイヴさんのトヮンギングないなたいギター。ひょうひょうと軽快なヴォーカル。
ずーっとずーっと鳴っててほしいと思っちゃいますね。


♪HEARTS OF STONE

Hearts Of Stone
Hearts Of Stone / Southside Johnny & The Asbury Jukes


Got To Be A Better Way Home
This Time Baby’s Gone For Good
I Played The Fool
Hearts Of Stone
Take It Inside
Talk To Me
Next To You
Trapped Again
Light Don'’t Shine

男っくさいなぁー。
1曲めの“Got To Be A Better Way Home”から、突っ走るリズム隊とあおりたてるホーンでパツンパツン。続く“This Time Babys Gone For Good”、“I Played A Fool”とゴキゲンかつどこか苦みばしったソウルフルなプレイが続いて、ぐっと渋い“Heart Of Stone”へ。

ブルース・スプリングスティーンやマイアミ・スティーヴとともに、ニュージャージーで下積み時代を共にしたサウスサイド・ジョニーさんが率いるアズベリー・ジュークス。
ニュージャージーでのアマチュア時代の背景からどうしてもスプリングスティーンとの比較で語られてしまうのだけれど、実際このアルバムでもスプリングスティーンが“Heart Of Stone”と“Talk to Me”の2曲を、マイアミ・スティーヴが6曲を書き、“Trapped Again”では3人が共作していて、構図としては先にデビューしたスプリングスティーンとスティーヴが遅れてきた兄貴分をサポートする形になっている。
ロックンローラーであると同時にフォーク/カントリー的な感覚も併せもつスプリングスティーンに比べるともっと真っ黒なR&Bがこの人の持ち味で、ソウルフルで、泥臭くて、いかがわしくて、でもなんだか愛嬌があって、ちょっとかわいらしいところもあったりするんだよね。
彼らの曲を、男くささ丸出しでソウルフルに歌うジョニー兄貴。
こんなかっこいい兄貴のためになら、一肌脱いでやろうか、って気にもなろうってもんです。
僕は全然体育会系的なことがダメで、先輩に可愛がられたり後輩を引き連れて偉そうにしたり、というのがどうも苦手で。
でも、だからなのかもしれないけれど、こういう男くさい世界には純粋に憧れがあったりする。
男同士でしかわからない価値観の共有、「オウ!」といえば「オウ!」と答えるような魂の兄弟みたいな間柄。
表面的なことは違っていても、心の底ではしっかりつながっていて、何か困ったことがあれば一目散に駆けつけて助け合う、みたいなね。
そんな、サウスサイド・ジョニーと、スプリングスティーンやマイアミ・スティーヴやEストリート・バンドの面々の中に流れる、同じ釜のメシを食った兄弟分的な関係って、かっこいいよなぁ、と思うのです。

まぁそれはともかくとしても、このソウル臭さは一級品です。
どこかギラリと鈍く光るような“Take It Inside”、ガールズグループが演ってもはまりそうなポップでキュートな“Talk To Me”、男っぽい陰りがかっこいい“Next To You”、緊迫感があってぐいぐいと盛り上げていく“Trapped Again”と捨て曲なしのソウル一直線で、ラストにはぐっと込み上げてくるような“Light Don't Shine”。
シャウトもリズムもギターもホーンセクションも、全部が塊になってくる感じに、テンションあがる、魂煽られる。
スプリングスティーンに比べればまったくのB級バンドだ。古くさいR&Bをいつも同じように演っているだけのローカル・ヒーローだ。
でも、B級ヒーローだからこその我が道を行く感じ、B級だからこその味わいにね、心惹かれるのですよね。


♪MODERN CLASSICS

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Modern Classics / Paul Weller

Out of the Sinking
Peacock Suit
Sunflower
The Weaver
Wild Wood
Above the Clouds
Uh Huh Oh Yeh
Brushed
The Changingman
Friday Street
You Do Something to Me
Brand New Start
Hung Up
Mermaids
Broken Stones
Into Tomorrow

男から見てもかっこいい男、というのがたまにいる。
態度や佇まいに共感できる、好感が持てる、憧れる、といった意味でのかっこよさではなくって、単純にかっこいいとしか言えないようなかっこよさ。渋い、とか、男っぽいとか別の言葉で置き換え可能なかっこよさではなくって、純粋にかっこいいとしか言えないようなかっこよさ。
例えばポール・ウェラーとか。
若い頃にルックスがそこそこいい男は経年劣化が激しいことが時々あるけれど、今年で58になるウェラーはまったく劣化していないのがすごいですよね。髪はすっかりシルバー・グレイで皺も増えたけれど、佇まいのシャープさはまるで変わっていない。

ポール・ウェラーのかっこよさっていうのは、ひとことで言えば、頑固さとスマートさの絶妙のバランスだと思う。
熱血で一本気、やるとなったらとことんやる、とことん貫く。
その一方で、変わるべきこと変えるべきことはさらっと変えちゃう。
そのしなやかさがね、かっこいいんだな。

そういやこのアルバムにもこんな曲がある。

 I'm the changingman, built on shifting sands
 I'm the changingman, waiting for the bang
 As I light a bitter fuse

 俺は変わり続ける男
 さすらう砂でできている
 俺は変わり続ける男
 爆発を待ち望み、しけった導火線に火をつける
      (The Changing Man)

変わり続けることを受け入れるしなやかさと、変わり続けることを変えない軸のぶれないスタンス。
そのことが信頼を作る。その信頼がまたぶれないスタンスをより確かなものにする。そういうプラスのサイクルをまずは信じて、やりきることが大事なのか、と。

僕もあと数ヶ月でいよいよ50になる。劣化したくないよね。
まぁルックス的には劣化するほど元がいいわけじゃないから幸いだし、年食ってから味わいが出るタイプだと自分では思ってはいるんだけど(笑)。
成熟はしなくても構わないし、まぁ今さら立派な人になろうとも思わないんだけど、ここから先、どんどん劣化していくのは嫌だな。
そのためにも、変わり続けるしなやかさを、変わり続けることを変えない頑固さを、持ち続けていたいですね。
ポール・ウェラーのようにはなれないとしても、せめて自分なりには。




♪VOLUNTEERED SLAVELY

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Volunteered Slavery / Rahsaan Roland Kirk

Volunteered Slavery
Spirits Up Above
My Cherie Amour
Search for the Reason Why
I Say a Little Prayer
Roland's Opening Remarks
One Ton
Ovation and Roland's Remarks
A Tribute to John Coltrane: Lush Life/Afro-Blue/Bessie's Blues
Three for the Festival


これはジャズのレコードなのか?というのが、最初にこのアルバムを聴いたときの感想。
のっけからタンバリンとウッドベースのリズムに会わせて野太いコーラスで始まり、テーマを繰返し循環させていくファンキーで力強い演奏の“Volunteered Slavery”、途中ではなぜか“Hey!Jude”のフレーズがはさみこまれる。2曲め“Spirit Avobe”もゴスペルっぽいコーラスとピアノがリードするソウルフルな曲。3曲め“My Cherie Amour”はもちろんスティーヴィー・ワンダーのあの曲で、ボサノヴァっぽいリズムにフルートの音色がかわいらしく、コーラス隊といっしょに歌っちゃう“Searh for the Reason Why”も楽しい。5曲めはバート・バカラック、というよりはアレサ・フランクリンでおなじみの“I Say A Little Prayer”。これもジャズ・ロック的にイケイケのめっちゃ疾走感のある演奏で、アドリブ・パートではぐいぐいとぶっ飛んでいって。
いわゆる典型的なフォービートのジャズとはまるで感触が違う。ジャズというよりはインストのR&B。
でもどこをどう切っても、ローランド・カークという一人の演奏者の生の息づかいが聞こえてくるような音楽なんだな。
B面はライヴなんだけど、ここではテナー・サックスやフルートの他にストリッチやマンゼロなど何本もホーンを加えて一度に吹いちゃうという曲芸まがいから、コルトレーン・マナーのいわゆるシーツ・オブ・サウンド的なロング・トーンを吹きまくったり。
この一筋縄ではいかないアクの強さは、一度はまると病み付きになってしまう感じがあります。
特にB面の“One Ton”なんてもう圧倒的ですね。
何ていえばいいんだろうね。
つばもよだれも垂らしながら延々とソロを吹ききってしまうような馬力や、どことなくおかしみのあるユーモラスさ、それに触れば壊れてしまいそうなとても脆くて美しい叙情や、ドロリととぐろを巻くようなダーティーな感情。
そんな様々な感情が、カークさんの肉声のようなホーンの音色を通じて聞こえてくると、ぜんぶありだよな、って気分になるのですよね。
粋やかっこつけだけじゃない、ため息もうめき声も鼻水もよだれもぜーんぶ込みの「生」。
でも、生きているっていうのはそういうものなんですよね。
ひとつの感情では割りきれない複雑な気持ちが絡み合いながら何とかそれに折り合いをつけていくもの。
おいしいものを食べることも排泄も一人の人間の中に普通にあるもの。涙もよだれも等価なもの。「愛してる」とささやいた唇と同じ唇で罵りの言葉が放たれるもの。
一定の規範の中でそういうものを表に出さないことをよしとする考え方もあれば、そういうことも含めてさらけださなくては生の実感を保つことができない人もいる。それらの配分の在り方は人それぞれにオリジナルであっていい。
カークさんの音楽には、そんな「何でもありだ。」というメッセージがたくさん含まれていると思う。
「常識に縛られるなよ。型通りに満足するなよ。」「感じたことを感じたままにさらけだすことができなければ表現する意味などないんじゃないか。」って。
そして、この自由さとさらけだしさこそがジャズの本質だろう、って思ったりするわけで。


♪STILL ALIVE AND WELL

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Still Alive and Well / Johnny Winter

Rock Me Baby
Can't You Feel
Cheap Tequila
All Tore Down
Rock & Roll
Silver Train
Ain't Nothing to Me
Still Alive & Well
Too Much Seconal
Let It Bleed

僕が今の部署に来た頃にお世話になった先輩が亡くなられた。
この部署で必要ないろはを最初に教えてくれた人だった。
胃がんだって。
見つかったときにはもうステージ4で手術もできない状態だったそうだ。
入院してからわずか3ヶ月だった。
先輩って言ったって、年はほんのひとつ上、まだまだ働き盛りだ。
どっちかっていうと優しい人ではなかった。いっつも怒っていた印象のほうが強いんだけど、いい商品を見つけた時には「どうや、これ!うまいやろ!」って真っ先に食べさせてくれて、その無邪気な笑顔にはいつも納得させられたっけ。
真っ直ぐなものは必ず真っ直ぐにしなけりゃいけないようなところがあって、そういう部分が苦手な人も多かったみたいだけど、僕はこの方の、熱くなる魂みたいなところが好きだった。
そんなエネルギッシュな人で、病気とも無縁な感じだっただけに、お通夜でお会いした生気の抜けた痩せた顔つきはまるで別人みたいに思えてしまって。
あんなにエネルギッシュだった人が、たった3ヶ月でこんなふうに脱け殻になっちゃうんだな、って思うとなんだかやりきれなくってね。

いつも怒っていて、エネルギッシュで、無骨で・・・例えていうなら、って思い出したのがジョニー・ウィンターさん。
弾きっぱなしで鳴りっぱなしの轟音ギター。
しぼりだすようなシャウト。
熱く若々しいロックンロールというよりは、苦々しく苦しいブルースを、ぶっ飛ばすみたいにエネルギッシュに演るのがジョニーさんの演り方で。
かっこいいよね。
そこらへんのロックごっこ、ブルースもどきとは根っこの部分から違う、加速せずにはいられない、荒々しく叫ばずにはいられない、そんな心の底にへばりついたブルースをぶっ飛ばすためのブルース。
熱くなる魂を抱えたブルース。

いくつか持っているジョニーさんのレコードで一番好きなのはコレだ。
ガツーンとぶっ飛ばす高速ブルースが盛りだくさんで。
中でも大好きなのがタイトル曲の“Still Alive and Well”だ。

 誰もが俺は6フィートも下の
  冷たい土のなかでくたばってると思ってるけど
  お日様が輝いているうちには野原で
 メイク・ラヴしてんのさ
 俺はまだ生きていて
  バリッバリに元気だ
 俺はまだ生きていて
  バリッバリに元気だぜ
 何もかもどんどんハードになっていくけど
 俺は生きていて
 バリッバリに元気だぜ

いろんなことがハードでへヴィーになっていくけど、僕はまだ生きている。
いつどんなことが起きるかなんてわかんないんだけど、まだまだもうちょっと生きていきたいと思っている。
熱くなる魂といっしょにね、もうちょっと生きていたい。





♪親愛なる者へ

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親愛なる者へ / 中島みゆき

裸足で走れ
タクシードライバー
泥海の中から
信じ難いもの
根雪
片想
ダイヤル117
小石のように
狼になりたい
断崖-親愛なる者へ-


「みゆき、って言う名前、そんなに好きじゃないのよねぇ。」
そう言ってみゆきさんは大きくため息をついた。
「狼にー、なぁーりたいぃぃぃー、って叫ぶ歌、あるじゃない。夜明け前の吉野家がどうの、俺のナナハンがどうの、ってやつ。」
「『親愛なる者へ』のB面ですよね。」
「なればいいじゃない、って思うのよ。狼に。なりたいんだったら、なればいいのよ。なれもしないってわかってるのに、なりたいって叫んじゃうのって、一番痛くない?」
「えぇ、まぁ。」
「なればいいのよね、狼に。でもなれないのよ。」
「・・・。」
「そういうところがね、きらいなの。でも、聴いちゃうのよね。聴かずにはいられないの。そんな、聴いちゃう自分、聴かずにはいられない自分がね、嫌なの。」
「・・・。」
「もう一杯だけ飲んでく?あんた何にする?」
「えっと、そうですね、チューハイのレモンを。」
「あたしは焼酎、水割りでね。」

みゆきさんはそうオーダーをすると、また大きくため息をついた。
ノースリーヴのワンピースからのぞく白い肩が少し震えている。

「ならなくていいんじゃないですか。」
「えっ?」
「狼に。」
「そう、、、」

狼になれない悔しさを知っている人のほうが、狼になってしまえる人よりきっと何倍も、ほんとうの優しさを知っているんだと思う、というようなことをみゆきさんに伝えたいと思ったけれど、どうしてもうまく言葉にすることができなかった。

「そうかもね、きっとそうよね。」
「そうですよ。」
そういって僕たちは笑った。
「あんたって、“タクシードライバー”の運転手みたいね。」
「そう?あの人って、ただの空気読めないおじさんじゃないの?」
「ハハハ、そうかも。まっ、そーゆーところも含めてよ。」
「なんか誉められた気がしないなー。」
「誉めたんじゃないのかもね。」
「あ、そうなんだ。」
「ね、『親愛なる者へ』の中ではどの曲が一番好き?」
「うーん、難しい質問。そうやなぁ、最初は“根雪”が好きだったかな。それと“小石のように”。」
「どうして?」
「中学生の頃だったからね、一番わかりやすかったんじゃない?」
「ふふふ、そうね、じゃ、今は?」
「うーん、やっぱり“断崖”かな。」
「どうして?」
「うーん、なんていうんだろ。生きていく覚悟っていうのかな、その宣言っていうのかな、倒れちゃったらガラクタと呼ぶだけだ、とかさ、すっごく悲壮感あるのに、飄々とした感じで吹っ切れたみたいに明るく宣言してるじゃない。音楽的にも、後のロック化していく前兆っぽいところもあるし。」
「なるほどねー。あんたらしく理屈っぽくていいわ、その答。」
「ムッ!」
「そうよね、寒いとみんな逃げてしまうものね。」
「みゆきさんは?」
「ぜんぶよ(笑)。」
「それ、ずるいよ。」
「女はずるくてもいいのよ。さ、お勘定。いろいろ聞いてくれてありがと、おごるわ。」

みゆきさんはそう言って席を立つ。
遅れて僕も席を立つ。
うまく伝えることができなかった言葉はまだそこらへんで宙をさまよっていたけれど、みゆきさんはそれを蹴散らすみたいにはらりとカーディガンをまとった。


♪BOBBY CHARLES

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Bobby Charles / Bobby Charles

Street People
Long Face
I Must Be In A Good Place Now
Save Me Jesus
All The Money
Small Town Talk
Let Yourself Go
Grow Too Old
I'm That Way
Tennessee Blues

秋は日に日に深まっていく。
朝晩は少し肌寒いくらい。空は高く、雲は薄く、風は穏やか。
なんとなくせつなくもあり、少しもの悲しくもあり、でもその感情の動きはどことなく好ましいものであるような気もする、そんな季節に、例えばこんなの気持ちいいよね、って思ったのがボビー・チャールズの1972年のこのアルバム。
流すだけで空気が和む雰囲気と佇まい。このゆるさがとても心地よい。
まるでレイ・チャールズみたいな節回し、黒人みたいに渋い声と、ゆるくて穏やかでいながらもファンキーなリズム。 そのリズムの跳ね方は何て言うか、汗臭く泥臭くファンキーとは少し違って、そうだなぁ、生命のリズムとでもいうかね、生きていることの歓びやせつなさを伝えているような気がするのです。
バックを固める演奏陣はザ・バンドのリック・ダンコ、リチャード・マニュエル、ガーズ・ハドソン、レヴォン・ヘルムに、ドクター・ジョン、ジェフ・マルダー、エイモス・ギャレットといった面々で、彼らの演奏がまた、すごくアーシーというか、生命あるもののあたたかみというか、そういうものに溢れていて。
その何てことはない穏やかな演奏に、癒されていく自分がある。
それこそ“I must be in a good place now”と感じることができるような。

 リンゴの花が咲き乱れている
 とても素敵な場所に僕はいるんだな
 七色に染まった空から降りそそぐ陽の光が
 僕の心に落書きをする
 
 とても素敵な場所に僕はいるんだな
 そう、僕はとてもシアワセなのに違いない
     ( I must be in a good place now)

窓を開けて深く深呼吸をしたくなる。
お酒よりも熱い紅茶だな。
お酒で酔っぱらってしまうのはもったいないくらいの心の平安。

ただ、このボビー・チャールズさん、穏やかなだけではない。元々はR&Bシンガーとしてチェスからデビューしたという経歴の持ち主で、シンガーとしては鳴かず飛ばずだったものの、ビル・ヘイリーがヒットさせた“See You Later Alligator”やファッツ・ドミノの“Walking to New Orleans”の作者としても名をはせた人。なんでもチェスが契約をしたときは声だけ聴いて黒人だと思いこんだ、という逸話もあるくらいで、ルイジアナ出身らしいファンキーさもこの人の持ち味。
ドクター・ジョンと思しきピアノが跳ねる“I'm That Way”なんて、すごくファンキーですよね。

  あんたが俺のものを全部かっぱらっていったとしてもさ、
  気にしない、どうってことない
  座り込んでブルースを歌ったりはしないんだ
  あのドアを開いて、何か新しいこと探しに行くさ
  だいじょうぶ、気にしない
  俺はいつもこんな調子さ
    (I'm That Way)

こういうブルース的な感覚、年を食えば食うほどに、しみてくるんですよね。
次の春にはいよいよ50才、人生の5/8は過ぎた。
残り時間はこんなふうに、「俺はいつもこんな調子さ」って感じでいきたいもんだなぁ。



♪GETTIN' AROUND

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Gettin' Around / Dexter Gordon

Manha De Carnaval
Who Can I Turn To (When Nobody Needs Me)
Heartaches
Shiny Stockings
Everybody's Somebody's Fool
Le Coiffeur
Very Saxily Yours
Flick Of A Trick

ジャズをたくさん聴いたのは20代後半~30代の頃だった、ってのはすでにどこかで書いたっけ。
紹介本なんかも参考にしながら名盤と呼ばれるものを片っ端から聴いていった。
心に残るものもそれなりにはあったけれど、そんなにたくさんでもなかった。
わかったことは、複数の管楽器奏者のアンサンブルみたいなものよりはシングルホーンのカルテットやピアノトリオのように、メインの演奏者の個性がよりわかりやすいもののほうが好きということと、楽器のインタープレイや丁々発止のソロのせめぎあいよりも、音色やトーンやリズムからあふれでる演奏者のメッセージ、すなわちうたごころの部分を聴くほうが好きなんだな、ということ。
デクスターさんの咽び泣くような太くて男らしい、けれどもどこか繊細で優しげな音色は、深まっていく秋の夜長にしっくりきますね。

録音は1965年、デクスター・ゴードンさん(ts)のほか、ボビー・ハッチャーソン(vibes)、バリー・ハリス(p)、ボブ・クランショウ(b)、ビリー・ヒギンス(ds)という揃いも揃って地味渋なメンツが集まって、みんながみんな自分の役割をわきまえた中でデクスターさんの“うた”をサポートするような演奏が実にかっこいいのです。派手なソロもインプロヴィゼーションもまるでない、うたのための演奏。
なんか心安らぐんですよね。

中でも大好きなのは“Everybody's Somebody's Fool”というバラード。
これまでの来しかた、振るまいを反省して、いろんな人に謝りたくなるような(笑)、そんな深みと情緒を湛えた名演奏だと思います。

秋の夜長、いろんなことを思い出しながら、物思いに耽るのも悪くはない。
日本酒だな、こんな夜は。
おつまみには焼いたししゃもとかつおぶしをぶっかけた焼き茄子と、甘い想い出ややわらかい後悔を少しずつ。
空にお月さまがのぞいていればあとはもう言うことないな。


♪ONE FOR THE ROAD

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One for the Road / Ronnie Lane & Slim Chance

Don't Try 'n' Change My Mind
32nd Street
Snake
Burnin' Summer
One For The Road
Steppin' An 'Reelin' (The Wedding)
Harvest Home
Nobody's Listenin'
G 'Morining

フェイセズを脱退したあとにロニー・レーンが残したスリムチャンスとの3枚のアルバムはどれも中古で高値がついていてなかなか手が出ないなぁ、と思っていたら、i-tunesで普通に聴けた。
ネット社会って凄いなー。

ま、それはともかくとしてのロニー・レーン。
なんとも言いようのないせつない気持ちに襲われたときは、いつもロニーの歌に救われる。
なんともやりきれないようなやわらかい後悔と、懐かしいようなくすぐったいような甘い気持ちがいっしょくたになったようななんとも言えない気持ち。

先日、高校のクラスの同窓会があった。
高校時代のことはほんとにいい思い出がまるでなくって、懐かしくもなんともなくって、同窓会なんて誘われたって絶対に行くもんか、ってずっと思ってた。ずっと音信不通でいいや、あいつどうしてるんだか、って思われるくらいでいい、いや、忘れ去られても構わないって思ってた。
多分、5年前ならきっと行かなかったと思う。
会ってみたいなと思う人が幾人かはいるにせよ、30数年もほったらかしにしてきた縁だし、たまたま同じ頃に同じクラスにいたということ以外に特に共通項もない人たちと当たり障りのない会話をしたってきっと虚しいだけだし、ちょっとやそっと話したくらいで、僕が30年のうちにたどってきた思いなんて共有できっこないよ、って。
でも、行ってみてもいいかもな、って気になぜかなってしまった。
なぜそう思ったのかは自分でもよくわからない。
でも、行ってみてもいいかもな、って思ったんだ。
なぜ自分がそう思ったのかに興味が出て来て、実際行くとどんな心境の変化があるんだろう、って思って、それで行ってみることにしたのだ。

自分でも不思議なくらい、楽しかった。
そこに集まっていたのは、それぞれに大人になった、今年で50歳になる大人たちだった。
みんなそれぞれにいろいろあってそれぞれにいろんな思いを抱えながら、それなりの大人になった同い年の人たち。
懐かしさはそんなになくっても、こうしてそれなりの大人になった人たちが、普段のしがらみはいったん置いて、高校生の気分に戻ってワイワイやっている。それってなんだかとっても素敵なことだな、って素直にそう思ったんだ。
この30数年の間にそれぞれでいろんなことがあっていろんな思いがあったんだろうけど、全部ノー・プロブレムだ、全部オーライだ、って素直にそう思えたんだ。
くすぐったいような甘い気持ちと、なんだか意地を張っていた頑なわだかまりがすぅーっと溶けてしまったようななんとも不思議なすっきりした気持ちと、なんだかつまらないことにこだわっていたのかもというやわらかい後悔と。
そんな気持ちをなんとなく心地よく思いつつ、酩酊した。
気がついたらもう終電が出てしまう時間だったのだけれど、でもなんとなくすぐに現実に戻りたくなくって、3次会まで飲んだあと、久しぶりにネットカフェで一夜を明かしたのだった。

I've had my friends
All them that come and ate with me
All them that come and drunk with me
I've had my friends
And there's been loads
All them that said they would stand by me
All them that said they could see what I could see
I've had my friends

And it's one for the road, yes it is
One for the cat's eyes, yes and
One for the white line
That's taking me back home
(One for the Road)

ロニー・レーンはいいな。
澄んだアコースティック・ギターの響きが、澱みを濾過してくれるように優しく響く。
遠く離れてしまった場所へ、優しく呼び戻してくれる。
全部赦すから、僕のことも赦してくれるかな。
そんな気持ちに優しく響く。




♪VOODOO LOUNGE

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Voodoo Lounge / The Rolling Stones

Love Is Strong
You Got Me Rocking
Sparks Will Fly
The Worst
New Faces
Moon Is Up
Out Of Tears
I Go Wild
Brand New Car
Sweethearts Together
Suck On The Jugular
Blinded By Rainbows
Baby Break It Down
Thru And Thru
Mean Disposition

90年代以降のストーンズについてはいろいろと賛否両論があるようで、94年のこのアルバムも評価は様々なようですが、僕はこれ、けっこう好き。
当時のストーンズは、ストーンズ本体よりもソロ活動が充実していて、キースのエクスペンシヴ・ワイノーズでのファンクぶりもかっこよかったし、ミックの『Wondering Spirit』も非常にいい出来映えだっただけに、ちょっと肩透かし感というか、60年代70年代80年代それぞれの自分たちのいい感じのところをなぞってみたような既視感は否めないとは思う。「俺たちって、こんな感じだったよな。」みたいにストーンズらしく仕上げたような。
70年代的なアナログな音を得意とするドン・ウォズをプロデューサーに持ってきたこともあって、やや音の質も古くさい。
でもね、それの何が悪いんだ、って(笑)。

確かに60年代~80年代、ロックという音楽は進化するものだった。
50年代にブルースとR&Bから進化したロックンロールは、カントリーもフォークもクラシックも取り込みながら進化を繰り返してきたし、ストーンズ自身もファンクやレゲエなんかも取り込みながら常に新しい表現方法にチャレンジしてきたバンドだけれど、一方でストーンズは、ハードロックやプログレやパンクやオルタナティブには見向きもせず、ブルースとR&Bのトラディションを根っこのところでずっと守り続けてきたバンドでもあって。
この当時、ストーンズのメンバーは50代前半。
新しいものを取り込んでいくよりも、自分たちの中に蓄積されてきたエッセンスをぎゅうっと凝縮させたようなものを作りたくなったとしても不思議ではない。
実際、曲も演奏も粒揃いだと思うよ。

中でも大好きなのは、ミックとキースのハモりが絶妙にかっこいい“Sweetheart Together”だな。
ストーンズっぽい曲ではないけど、カントリーっぽいほっこりした感じがいいよね。ミックとキースの少年時代からの絆をひしひしと感じるような感じがいい。
ファンクな“Stuck On The Jugular”やハイテンションのロックンロール“You Got Me Rockin'”や“Sparks Will Fly”もいいんだけど、このアルバムに関して言えばスロウ~ミディアムな曲の方が断然かっこいいな。
“Miss You”を少し意識したような“Love is Strong”でのミックのブルージーな歌い方とかハープとか、淡々としているようでタフで奥深い味わいが醸し出されてくる“Brand New Car”とか。バラッドなら“Blinded By The Rainbow”や“New Faces”、キースの歌う“Thuru and Thuru”と“The Worst”。あとはロカビリーっぽい“Mean Disposition”みたいなオールド・スタイルなやつね。
一般的にはストーンズはロックの王者で、いつまでも新しいことにチャレンジしてハードなロックンロールを演り続けてほしいという期待の方が高いんだろうし、このアルバムの不評を受けて次作以降はハードな曲のウェイトが高まったけど、あの2作はなんだかちょっとサイボーグ化したような感じがしていまいち深くのめりこめなくって。
個人的にはこのアルバムみたいに年相応に枯れていくようなストーンズがもっと聴きたい。
年相応に老け込んでいく中で年相応に表現されるロックンロールのスピリットに興味があるのだ。
ハードな音でなくてもにじみ出てくるロックンロールのスピリット。
進化よりも純化っていうか。
俺もこんなふうに渋いジジイになりたい、と思わせてくれるようなのがね。
だって、若けりゃいいってもんじゃない、新しければいいってもんじゃないでしょ。




・・・てなことを思いながら書きかけの記事を手直ししていたら、ストーンズ、ニューアルバム発表のニュースが!
しかもハウリンウルフやジミー・リードらのブルースをカヴァーしたアルバムだそうで。
またまた賛否が割れそうな中身だけど、僕は大歓迎!
12月2日が待ち遠しいです。



♪にんじん

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にんじん / 友部正人

ふーさん
ストライキ
乾杯
一本道
にんじん
トーキング自転車レースブルース
長崎慕情
西の空に陽が落ちて
夢のカリフォルニア
君が欲しい

何て言うんだろうか、この友部さんの声の持つ独特の感じは。
歌はけっして上手くはない。声質はひょろっとして軽く、声量だってないし、音程だって時々怪しいところがある。
でも、この人の歌には、この人が歌うからこその味わいがある。ひょろひょろしているのに芯があって、おどおどしているようでドスがきいている。
味わいなんて軽いものじゃないか、この人の歌にはこの人が歌うからこそ届いてくる感情がある。この人だけが持つ世界がある。宇宙がある。それは、日常に感じる具体性を持った悲しみや怒りや嘆きや淋しさとはまるで違って、もっと宙をつかむように抽象的な感覚なのだ。
そういうところが、同時代にたくさんいたディラン・チルドレンやフォークシンガーとはまるで違っていて、この人が例え具体的な事柄に対して怒りを歌っていても、具体的な怒りの告発の歌には聞こえない。淋しさを歌っていても、ただ“淋しいよー”と嘆くだけの歌にはならない。
そこにあるのは、強烈な「独り」の感覚とでもいうか。
それを“孤独感”と言ってしまうと違うような気がするんだな。社会からつまはじき、のけものにされたような孤独感とは明らかに違う。集団からはみだしてしまった疎外感ではなく、生まれたときから背負っているような「独り」であることの意識。独りであることが空気のように当たり前な感じ、っていうか。

「あんまり長くひとりぼっちでいて 唇もこんなに傾いてしまった」
「北風は狼のしっぽをはやしあぁそれそれって僕のあごをえぐる」
「あぁ中央線よ空を飛んで あの娘の胸に突き刺され」
「僕は夜のスカートに首を締められ 塩っ辛い涙流してる」
「人待ち顔の退屈な毎日だ のっぺらぼうの肉の腕だ」
「たわしの言葉をのどに押し込み ギターのしっぽに火をつける」

とても深いようでいて、ひょっとしたら深い意味などないのかもしれない抽象的な言葉が、友部正人の口から出ると、途端にものすごく深い陰影を持ち、聴き手のイマジネーションをかきたてる。そのイメージされる光景は時にはとてもグロテスクでさえあるのに、質感としては決して重々しくはない。絶望的に孤独感を感じる歌にさえ、どこかひょうひょうとした佇まいがある。
それは、友部正人の引き受ける“孤独”が相対的なものではなく、最初から当たり前の絶対的なものとしてあるからのような気がする。

このひょうひょうとした、淋しくはない孤独感や怒りを告発しない怒り、おどおどしながらドスがきいて懐の座った感じ。
残り30年を、こういうものを手にいれるために費やせたらいいのにな、とふと思った。
どっちにしても最後は、一人で向こう側へ渡っていかなきゃいけない。或いは大好きな人が一人で向こう側へ行くのを見送らなくっちゃいけないことだっておそらくある。
そのとき、友部正人のような一人でいることをひょうひょうと身にまとうようなやり方は、きっと役に立つんじゃないかって、ふと思ったんだ。



♪シングルマン

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シングルマン / RCサクセション

ファンからの贈りもの
大きな春子ちゃん
やさしさ
ぼくはぼくの為に
レコーディング・マン(のんびりしたり結論急いだり)
夜の散歩をしないかね
ヒッピーに捧ぐ
うわの空
冷たくした訳は
甲州街道はもう秋なのさ
スローバラード

 電車は動き出した
 豚どもを乗せて
 僕を乗せて

ひどく疲れが残っている朝、虚ろな目をしばしばさせながらつり革につかまって流れていく景色を見送りながら、ふと清志郎の歌が頭の中に浮かんでくる。
実際、ひどく疲れている。

飲酒運転で検挙された同僚の処分が発表された。
諭旨解雇。懲戒解雇ではないにしろ、平たく言えばクビ、ってことだ。
毎日遅くまで残って仕事を片付けていた彼は、その日も終電に間に合わないことがわかっていて無断で車で出勤していた。夜になって飲んでいた上司から呼び出されて酒を飲み、しばらく眠ったあと、車を運転して帰ろうとして、事故を起こして、飲酒運転で検挙された。
彼に同情はしない。やってはいけないことをやってしまったのだ、当然の報いとまでは言わないが、運が悪かったとは言わない。
弱い奴からこうやって穴ぼこに落っこちてしまうんだ、ってこと。
ただ、そのことと僕のひどい疲れには、きっと関係があるのだと思う。
どうしようもなくやりきれない気分だけが、ただただまとわりついている。
頭の中で“ヒッピーに捧ぐ”がぐるぐると回る。
“甲州街道はもう秋なのさ”の清志郎の叫びがぐるぐると回る。
ウソばっかり
ウソばっかり
ウソ
ウソ
ウソ

1976年、ドン底時代の清志郎。
このアルバムには、このアルバムにしかない、ヒリヒリとした痛みの感覚がある。
弱い奴からこうやって穴ぼこに落っこちてしまうんだ。
穴ぼこに落っこちてしまった仲間と、幸いにもまだ穴ぼこに落っこちていない僕の差は、いったいどれほどあるっていうんだろう、って清志郎が歌っているような気がした。
紙一重だ。
でも、ほんの紙一重であれ、強さを持ち合わせていたい、ちゃんとまっとうに生き延びたい。
そのための強さを。ふてぶてしいまでの強さを。
ふりきってしまえ。
そんなことを清志郎が歌っているような気がした。



♪GRACELAND

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Graceland / Paoul Simon

Boy in the Bubble
Graceland
I Know What I Know
Gumboots
Diamonds on the Soles of Her Shoes
You Can Call Me Al
Under African Skies
Homeless
Crazy Love, Volume II
That Was Your Mother
All Around the World or the Myth of Fingerprints

文化というものは「純化」と「洗練」を繰り返していくものだ、というのは誰の言葉だったか。
純化と洗練。
例えば感動をどう伝えるのか、っていうと一番深く感動したことっていうのはもはや言葉にすらならなくって純粋にただ「おぉーっ」みたいな感嘆の言葉になるのだと思うのだけど、「おぉーっ」ではそれがどのようなことでどう感動したのかまるで伝わらない。そこで人は言葉を駆使してその感動を表現する。こういう表現はより技巧を凝らして、例えば詩や俳句みたいなものが生まれたりする。これが「洗練」。
洗練された表現というものはしかし一方では定型化類型化に陥りやすくなる。技巧のための技巧が重ねられた結果、最初の表現衝動に駆られるような感動が残らなくなったりする。これでは本来の感動が伝わらないと、構築された形式をあえてはずして原点に戻すような表現方法の揺り戻しが「純化」。

ロックという音楽も歴史をたどれば純化と洗練の繰り返しだったわけで。
そもそもの始まりをずっとたどればロックのルーツはブルースやジャズやカントリーに行き着くけれど、当時洗練され成熟しつつあったこれらのジャンルの音楽をぶっこんで原初的な衝動をビートのある音楽に乗せて「純化」させたのがロックンロール。ロックンロールは満たされないティーンエイジャーたちの爆発的な支持を得て一躍時代の音楽になったけれど、これは商売になると踏んだ白人ポップスシンガーにそのスタイルを取り込まれて初期のパワーを失ってしまう。これもひとつの洗練で、これを再び純化したのがビートルズやローリングストーンズらイギリスの若者たちだった。しかしこれもやがてサイケデリックやプログレ、ハードロックといった方向に分化する中で、それぞれの技巧が優先され、当初あった初期衝動は失われていった。これを再度純化したのがパンク。けど、それもやがて洗練された表現にすり替えられていく。
ジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスが今も輝きを失わないのは、洗練されすぎる前にその活動を終えてしまったからだろう。
ジョン・レノンは、ビートルズ時代に振りすぎた洗練への針を戻すためにソロになり、その後は一貫して自らの表現を純化することに力を注いでいた。
レッド・ツェッペリンやイーグルスは、洗練の果てに方向を見失って解散し、ソロになったロバート・プラントやグレン・フライは、自らの原点に回帰するようなソロ作品をリリースしている。
もちろん洗練が悪いわけではない。ブルースから出発したボズ・スキャッグスは洗練の果てに素晴らしい音楽を生み出したし、スティーリー・ダンやポリス、ロキシー・ミュージックら洗練の極みとも言える傑作を遺している。

そうした純化と洗練はある意味必要なもの。
さて、ここからが本題なんだけど(⬅前振り長っ!)、こういう相反するような純化と洗練を自らの表現の中で同時に包括できるアーティストはあまりたくさんはいなくって、その数少ないひとりがポール・サイモンだと思うのです。
自身が最初に表現したいと感じた衝動と、音楽的な洗練を同時に抱えながら表現できる数少ないアーティスト。もちろんポールも作品の中で時代によってブレもムラもあるけれど、この『Graceland』なんかはまさに純化と洗練が同居した素晴らしい作品ではないかと。
南アフリカの音楽に出会ったとき、ポール・サイモンはそこに、少年の頃に夢中になった50年代ロックンロールのエネルギーを感じたのだと思う。同時にポリリズムや複雑なコーラス・ワークによる研ぎ澄まされた音楽的洗練を見つけ、これをなんとか取り入れたいと考えたのだと思う。自分の歌をこういう音楽にのせることができたら、と。
そして、それが見事に成し遂げられたのがこのアルバムだ。
アルバムの中でまず際立つのは、“Graceland”や“I Know What I Know”、“Gumboots”、それに“That Was Your Mother”、“All Around The World or the Myth of Fingerprints”といったプリミティブで音楽そのものの楽しさに満ちたシンプルな楽曲たち。サイモンの歌も心なしか弾けている。
レディ・スミス・ブラック・マンバーゾのコーラスが気持ちいいのが“Diamonds On The Soles.of Her Shoes”や“Homeless”。
“Boy In The Bubble”は「奇妙で不思議な日々、だけど泣いちゃいけない」と、ポール・サイモンらしいペシミスティックな言葉が繰り返されるけれど、能天気なオルガンや踊り出したくなるようなベースのうねりがその言葉の根底にある力強さを湛えたニュアンスに響かせてくれる感じがするし、大ヒットした“You Can Call Me Al”にしろポップな“Crazy Love Vol.2”にしろ、いつものサイモン流メロディーでありつつ、うねるリズムが気持ちよくって。
ひとつひとつの音をいかに魅力的に響かせるのかという音楽的洗練と、自身の表現したい世界観をどれだけ生のまま閉じ込めておくことができるのかという、両立させるのがとても難しいテーマをつなぐ鍵が、アフリカのリズムとコーラスだったのだな。

文化だけではなく、仕事や、或いは人生全般の中でも純化の時期と洗練の時期がある。
純化にこだわりすぎて自滅しないように、洗練にこだわりすぎて袋小路に入り込まないように、そのバランスを上手にとっていけるための、プリミティブなエネルギーやリズムみたいなものって、何なんだろうな。


♪魂こがして

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魂こがして / ARB

ウイスキー&ウォッカ
ユニオン・ロッカー
I'm jumping
BOYS & GIRLS
STANDING ON THE STREET
トラブルド・キッズ
BAD NEWS (黒い予感)
赤いラブレター
乾いた花
魂こがして
喝!

ある日の駅からの帰り道、下り坂をとぼとぼと歩いていると、反対側から髪の毛をツンツンに立てたパンク・ファッションの痩せた男が坂を登ってきた。
背中にはベース・ギター。スリムなブラックジーンズと鋲のついたライダース。
すれ違った後、男が振り返ってこう言った。
「ぐっちゃん?」
は?そんなニックネームで俺を呼ぶこいつは?と思ってからすぐに反射的に思い出した。
あ。
「ミノル?」
その色すらっとした、しかし奇妙に白い顔、ひょろひょろの体型、どこか焦点のあわない細い目。
小学校・中学校と同じ学年だった、ミノルだった。

ミノルとは特に仲がよかったというわけではない。
色白でガリガリに痩せたミノルは、勉強もスポーツもまるでできないクラスのお荷物みたいな男の子だった。
ミノルは坂の途中にある集落で、長屋みたいな平屋の小さな家で暮らしていた。子供から見てもその暮らしぶりは明らかに貧しくて、いつも襟首がよれよれになったシャツを着ていた。僕が生まれ育った町は都心から電車で30分の近郊都市、いわゆるベッドタウンで、電鉄会社が田んぼを買い占めて埋め立てたような場所に建て売りの一戸建てがいくつも並んでいるような所。それなりの企業に勤めている親がそれなりの出費でローンを組んでマイホームを手に入れた小金持ちの子供たちがクラスの主流で、ミノルは明らかにそこから外れていた。
社会科で大地主と小作農のことを習っているときにクラスの男子の誰かが 「ミノル、お前んとこ小作農やろ。」と冷やかしてクラスのみんなが嗤うのをミノルは真っ白な顔を赤くして口を真っ直ぐに閉じて黙っていた。
僕は小さい頃から小柄で、運動やスポーツが苦手だった。小学生の頃というのは勉強ができる奴よりもスポーツが得意な奴がクラスのヒーローになることができる。そういう点では僕もクラスの中では主流ではない落ちこぼれ組だった。マサルっていうでっぷりしたガタイの乱暴な男がクラスを仕切っていて、そのまわりには腰巾着のような取り巻き連中がいくつかいて、僕もミノルもそいつらのいいなりだった。マサルやその取り巻きたちがふんぞりかえって無理難題をふっかけてくるのを僕はヘラヘラ笑いながらやり過ごしていた。小馬鹿にされることもあったけど、それでもミノルよりはまだましだと思っていた。人は、自分より弱い奴に対して、自分がやられたことをやり返す。僕とミノルの関係はそんな感じだったということを反射的に思い出して僕はうつむいた。

「今、バンド演ってるんだ。」
「ベース?」
「そう、ピストルズとかアナーキー、あとARB。」
「えっ、まじかよ。さっきARB聴いてたとこやわ。」
「えっ、ほんま。ARB知ってんねや。あれ、聴いた?『魂こがして』。」
「もちろん。かっこエエわ、最高やな、あれ。」
「バンドとか演らへんの?」
「いやー、俺、センスないし。」
「また遊ぼうや。」
「おう。」

そう言ってミノルと別れた。

僕は弱い男だった。
きっと弱かったから、パンク・ロックに憧れたのだと思う。
自分の弱さを、ノイジーなギターが、わめきちらすようなシャウトが、まるで卓袱台をひっくり返すように一撃で逆転してくれるのがパンク・ロックだった。

それからミノルと一緒にパンク・バンドを始めた、なんてことがあれば青春の物語としては上出来なのだけれど、それ以来ミノルと顔を会わせることは一度もなかった。ミノルがその後、どんな青春を送って今どんな大人になっているのか。或いはこの世に生きているのかどうかさえ知らない。ミノルも僕のその後を気に留めることすらきっとなかっただろう。
あのとき僕は、コイツには勝っていると見下していた奴に思いっきり先を越されたような気がしてうろたえた。ミノルのくせに、とムカついてしまった。それだけが真実で、そのことは、どこかに刺さったまんまのトゲのように今もチクチクと疼いたりする。


ARBの「魂こがして」。
おそらく高校時代に一番たくさん聴いたレコードだと思う。
“狂いたくても狂えないヤツ!笑いたくても笑えないヤツ!泣きたくても泣けないヤツ!すべてのロックンロール・キッズに贈ります!”
石橋凌がそうシャウトして田中一郎がギターを弾かせる“BOYS & GIRLS”。
今聴いても背筋がゾクゾクするな。
高く拳を突き上げる。
モヤモヤが一気に吹っ飛んでいく。






♪EVERY PICTURE TELLS A STORY

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Every Picture Tells A Story / Rod Stewart

Every Picture Tells A Story
Seems Like A Long Time
That's All Right
Tomorrow Is A Long Time
Maggie May
Mandolin Wind
(I Know) I'm Losing You
(Find A) Reason To Believe

 ときどきひどく劣等感にさいなまれてさ
 鏡の前に立っていろんな髪型にしてみたって
 どうしたところで代わり映えしない
 親父はこう言ったね
 「世界を見て回りたいのなら、まぁ止めはせんけどな。
 ただ、調子よく言い寄ってくる女にだけは気を付けるんだな。」

そんな調子で始まる“Every Picture Tells A Story”は、ロッド自身が若い頃にヨーロッパを放浪した経験を元に歌われたものらしい。
「パリは雲隠れするには最適だって聞いたけど、フランスの警察は俺をほっておいてはくれなかった。」とか「ローマはあんまり楽しめなかった。若者がいきいき過ごせる街じゃないねー。」とか「北京から上海への道中で切れ長の目の女と恋に落ちた。最高に尽くしてくれる女だったぜ。」とかなんとか、あっちこっちで若気の至りのやんちゃな振る舞いをつらつら語る歌。
がしゃがしゃと叩きつけるようなアコギのリズムにロン・ウッドのギターとイアン・マクレガンのピアノがからんでいくのがかっこいい。バタバタと粗っぽいドラムスはジェフ・ベック・グループでも叩いていたミッキー・ウォーラーだ。

この曲で始まるアルバム『Every Pictures Tells A Story』は1971年のロッド・スチュワート3枚目のソロ。
このアルバムには、タイトル曲の“Every Pictures Tells A Story”をテーマとして、2曲目以降はそれぞれの旅先で感じたことを綴ってみた、そんなコンセプトが含まれているような気がする。
おなじみ“Maggie May”、バリバリのブルース・ロックに仕上げたテンプテーションズの“I'm Losing You”、プレスリーで有名なアーサー・クールダップの“That's All Right”といった曲でのやんちゃで向こう見ずなはじけっぷりは、旅先の陽の部分。どうせ一度っきりの旅なんだから、やりたいことやりたいように全部やっちゃえ、って感じのブッ飛ばしぶり。
その一方でティム・アンダーソンの“Seems Like A Long Time”、ディランの“Tomorrow Is A Long Time”、ティム・ハーディンの“Reasons To Believe”という3曲のホーボー・ソングでのロッドは、旅先でぽつんと孤独をかみしめているみたいで。さんざん好きなこと思い通りにやってきたつもりだけど、それでも残るこのなんともいえない虚しさは何なんだろう。俺は何をやってきたんだろう。そんな気持ちの奥底をかきむしるような。
でも、旅っていうのはそういうもんなんだよな。
どこまでも突き進んでいくエネルギーと、独りになって思索する時間と、その両方があって旅は深い意味を持つのだと思う。
そして、ひととおり旅の物語を歌ったあとにロッドが呟くフレーズがとてもいかしてる。

 まぁいろいろあるけどさ
 結局のところ肝心なのは、自分自身
 誰の手助けも当てにしちゃいけない
 俺なんてかなりまともな奴だって思ったよ
 どんだけとんでもない奴らがいるんだってさ

全部を一度リセットするつもりで旅に出て、いろんな奴らに出会って楽しく過ごしたつもりでも、結局のところ最後に出会うのは、自分自身だってこと。
で、そんな風にまとめてみたあと、ちょっとシリアスになりすぎた自分への照れ隠しみたいにロッドはこんな風に歌う。

 旅で耳にしたことで
 君がこれから歩んでいく上で役に立つような言えることがあるとすれば
 ディケンズやシェリーやキーツなんて引用しない
 そんなの言い古されているからね
 「笑っちゃうしかないようなひどいことにも
 いろんな教訓が含まれてる」ってことくらいかな
 じゃあどんな、なんて言われても困るんだけどね

 ま、どの写真にも物語があるってこと
 どんな場面にもそれなりの思い出があるってこと

あっちへいくのか、こっちを選ぶのか。さんざん思い悩んだあと、シリアスになりすぎた自分を笑うように、最後は全部冗談めかして笑っちゃう。
そんなロッド・スチュワートがかっこいいと思う。





♪SOLITUDE STANDING

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Solitude Standing / Suzanne Vega

Tom's Diner
Luka
Iron Bound / Fancy Poultry
In The Eye
Night Vision
Solitude Standing
Calypso
Language
Gypsy
Wooden Horse (Casper Hauser's Song)
Tom's Diner

 朝、街角にあるダイナーで。
 カウンターの隅に腰かけて、コーヒーが注がれるのを待っているの。
 半分くらいまで注いだところで、マスターは窓の外に目をやってそのままコーヒーを出したのよ。
 文句を言ってやろうかと思う間もなく、誰かがお店に入ってきたわ。

 「いつもありがとう。」とマスター。
 入ってきたのはきれいな女の人。
 傘を降ってしずくを切っている。
 マスターと彼女がキスを交わすのを、私は目をそらしてをして、コーヒーにミルクを注いだ。

 そうして新聞に目をやる。
 酒に溺れて死んでしまった俳優の記事、でも、誰だか聞いたこともないわ。
 それから何かおもしろいことでも載ってないかと、星占いの記事を読んだ。
 そのとき、ふっと誰かの視線を感じたのね。
 そしたら、窓の向こうに女の人が。
 私のことをのぞきこんでるの?
 そうじゃないわ。自分の姿を鏡に写してたのね。
 気づかない振りをしたわ。
 だって、彼女、スカートをたくしあげてたんだもの。
 それから、ストッキングを引っ張りあげて。
 彼女の髪には雨。

 まだまだ降り続くのね。
 朝からずっと雨音を聴いてるような気がする。
 大聖堂の鐘が鳴っている間、
 不意にあなたの声を思い出していたわ。
 ずっと昔の、真夜中のピクニック。
 まだ雨が降り始める前のこと。

 さぁ、コーヒーを飲み干して。
 電車に乗る時間が来たわ。
       (トムズ・ダイナー)

都会のありふれた、さりげなくもどこか脆くて危うい日常の風景が、さりげなく歌われるこの“Tom's Diner”。
主人公に何があったのかは具体的に語られてはいないけれど、主人公がかつてはよき時間を誰かと共有し、そして今はそれが失われてしまっていることは誰でも察しがつくはずだ。
物語の語られない部分が、聴き手が個人的な思いをたぐりよせることができるすき間を生む。多くの人が思いをたぐりよせることができるからこそ、歌は膨らんでいくのだろう。

一雨ごとに涼しさがまし、いよいよ秋本番。
なんとなーくふっと寂しくなりますよね、乙女でなくても。
そんな風情で聴きたくなるのは、物憂げで控えめで静かな音楽。
水彩画のように淡い情景描写と、か細い声、でもどこか芯の通った意思の強さを感じる声。

声の質っていうのは大事ですよね。
どんなにテクノロジーが進歩しても、人間の声にある、その人にしか出せない、誰もとって代わることのできない魅力っていうのはあって。ボーカロイド?ありえねー。音楽にとって感情/情感は切っても切り離せないもの。
上手かろうが下手くそだろうが、その人がその人の声で歌うからこそ伝わるものっていうのがある。







♪KING OF HEARTS

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King Of Hearts / Roy Orbison

You're the One
Heartbreak Radio
We'll Take the Night
Crying
After The Love Has Gone
Love in Time
I Drove All Night
Wild Hearts Run Out of Time
Coming Home
Careless Heart

その人の声が聞こえてくるだけで、景色が変わる声、というのがある。
景色が変わる、世界の見え方が変わる。
ロイ・オービソンさんはそんな希有な声をもった数少ないひとりだと思う。

“Only the Lonely”“Oh Pretty Woman”“Crying”といった60年代の数々のヒット曲も大好きなんだけど、スプリングスティーンやトム・ペティ、ジェフ・リンらに引っ張り出されてシーンに復帰した80年代後半の作品がまたとっても素敵なんです。
スプリングスティーンやコステロやボノが参加し、ハートブレイカーズの面々やジム・ケルトナーがバックアップした88年の「Mystery Girl」。残念ながら本人はこの作品が陽の目を浴びる前にわずか52才で亡くなられてしまったのだけど、さらにその4年後にリリースされたこの「King of Hearts」がまた素晴らしい作品で。残されたヴォーカル・テイクに後から演奏を乗っけたものらしいけど、本人がこれを聴いたらびっくりしただろうね。この作品のつくりだけでも、ロイさんがどれほど後進のミュージシャンたちに慕われ、愛されていたかがわかる。
昼メロみたいに甘くも哀愁感の漂う“You're the One”に始まって、少年時代にラジオからロックンロールが聞こえてきたときのドキドキを思い起こさせるような“Heartbreak Radio”、クラレンス・クレモンスの咽び泣くようなサックスがかっこいい“We'll Take The Night”。K.D.ラングのハーモニーが素敵な“Crying”のセルフ・カヴァー。そして極上にせつない気持ちにさせてくれる“After The Love Has Gone”と“Love In Time”。シンディー・ローパーが歌っていた“I Drove All Night”も、バディ・ホリーみたいなリズムの転がり方とぎゅっと心をつかまれるような、過ぎていった夏の熱をまだ少し体に残しながら、クールな夜風に吹かれているみたいなヴォーカルがかっこいいんだよなぁ。

景色、変わるよね。
甘く、せつなく、青春の熱さとチクチクするような傷みを思い出すみたいな。
わけもなく感傷的に、そして少しばかり優しい気持ちになれる。

いつの間にか過ぎていった夏。
まだまだ昼間は暑いけれど、夜の空気はすっかり秋。
空には、雲の切れ目にぽっかりと中秋の名月。

心が少しギスギスしてきたら、ロイ・オービソンを。
澄んだ空に煌々と輝くまぁるいお月さまを心に思い浮かべて。


♪GOODBYE GENTLE LAND

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Goodbye Gentle Land / Echoes

Hello Again
Bulldog
GENTLE LAND
Bazzar
Tonight
One Plus One
Air
Sandy
Let’s Party
Red Sun
Good-bye Blue Sky

シオンやレッド・ウォーリアーズのことを書きながら、もうひとつ大好きだったバンドのことを思い出していた。
エコーズ。
辻仁成の今のメディアでの取り扱われ方を考えると、大きな声で好きだったというには少し照れがつきまとうのだけれど(笑)。
いや、当時からそうだったかもね。エコーズが好きだ、ということは友達にも大きな声で言えるようなことではなかった。♪給食のパンを届けにくる君だけが頼り、だとか♪パパママ忘れないでね、隣で寝ている僕を、なんていうポツンと取り残された気弱で孤独な少年の歌なんてのを意気がり盛りの年頃に友人たちと共有できるわけもなく、独りでこっそりとポツンとした気持ちで聴いていたのだ。
今聴いても、どうも気恥ずかしさの方が先立つ感じだな。決してかっこいいサウンドではない、分厚めで、中途半端にポップで、妙に古くささを感じる音。血湧き肉踊るような興奮や快感があるわけではないし、ほっこり癒されもしない。ブルージーにセンチメンタルに心地よく浸れるわけでもない。
むしろ、聴いていて感じるのは、あんまり思い出したくない感情だ。ポツンと独り取り残されたようなみじめな気持ちばっかり。
高校生の頃の、クラスの奴等のくだらないのりについていけずに斜に構えていたこととか、バブリーで軽薄な時代のばか騒ぎについていけなかったシラケた気分とか、毎日パン屋のトラックで小さな商店街の中の小さいスーパーを回っては八百屋上がりの息の臭い店長にねちねち小言言われたこととか、小学校の体育の授業でひとりだけ逆上がりができずに校庭でみんなの前で笑われたこととか。

このアルバムはエコーズの4作目で、エコーズのアルバムの中でもピカイチの完成度だと思う。
ニューウェイヴっぽい硬い質感で頑なに尖った感のあるファースト、ややスプリングスティーン的な要素が加わってストリート感と熱っぽさが増したセカンド、サードと比べると、ぐっと引いた感じの作風。
売れ残ってしまうペットに自分を投影してしまうペットショップで働く女の子(Bulldog)
「クリーニングしたいのは自分のハートさ。制服の汚れを落とすこの俺は誰だ?」と自問自答する、クリーニング工場で勤める男(Tonight)
アルバイトがいつの間にか本職になって高層ビルの谷間でありんこになったと嘆く営業マン(Air)
プロデューサーからの主役の座の代償としての性的な求めに応じることができなかったバレリーナなど、ずる賢く立ち回ることができずに隅っこへ追いやられてしまう人たち(Good-Bye Blue Sky)
などなど、全編を通じて都会で独りぼっちで悪戦苦闘している少年少女の物語をカットアップして語っていくテーマがある、いわゆるコンセプト・アルバム的な作り。ラストの“Good-Bye Blue Sky”のあとに再びオープニングの“Hello,Again”のルー・リード風のカッティングが始まるところなんかもかっこよかったな。
いろんな夢と現実のギャップに軋む感じと、それでもタフにクールにやっていくんだ、という静かな決意と。
やっぱり10代後半や20代前半の頃のどうしようもない気分が甦ってくる。
今はそういった気持ちを経験しての今の自分だ、と肯定することはできる。けど、やっぱりチクチクヒリヒリとした痛みは今もあって、そういうかさぶたを剥がされるような気分になってしまうんだよな。
でも、だからこそ、エコーズが好きだった自分というのは時々思い出してやらなくっちゃいけないのかも、とも思う。
供養みたいなもの、とでもいうかね。辛かったよね、心配すんなよ、だいじょうぶだからって。



♪CASINO DRIVE

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Casino Drive / Red Warriors

CASINO DRIVE
I MISS YOU
OLD FASHIONED AVENUE
OUTLAW BLUES
MORNING AFTER
JOHN
MONKEY DANCIN'
FOOLISH GAMBLER
WINE & ROSES

80年代の後半に多感な時期を過ごせてよかったな、と思うことのひとつに、日本人による日本人のためのロックンロールが一気に花開いた時期にリアルタイムで立ち会えたということがある。
ビートルズとストーンズをベースにエアロスミスやらピストルズやらクラッシュやらの影響と、RCを始めとするストーンズ・タイプのR&B型ロックと、シナロケ、ルースターズ、モッズ、ARBらビート系、それにアナーキーやスタークラブ、スターリンやINUらパンク勢など、日本の先駆者たちのロックからの影響を等距離で受けた、僕より6、7つくらい上から同世代にかけての連中が、今までのどこか借り物的だったロックとは違う、もっとリアルな質感を持ったロックを演りはじめた。それが80年代半ばの日本のバンド・ブームの入口だ。
ストリート・スライダーズ、ブルーハーツ、レッド・ウォーリアーズ。シオン、プライベーツ、シェイディー・ドールズ。ラフィンノーズ、ウィラード、有頂天。ザ・ブーム、レピッシュ、ユニコーン。ローザ・ルクセンブルグ~ボ・ガンボス、ニューエストモデル~ソウルフワラーユニオン、アンジー、エコーズ、ヒートウェイヴ、ザ・グルーヴァーズ、エレファントカシマシ、・・・。
そんな中でも誰が一番好きだったんだろう、どのバンドを一番よく聴いたんだろう、と思い返していくと、ブルーハーツとプライベーツを除くとその次は実はレッド・ウォーリアーズだったような気がする。
スライダーズはちょっとかっこよすぎて、っていうか、かっこつけすぎ、スタイリッシュすぎて、共感よりも、ただただうなるって感じだったかな。レッズはその点、かっこ悪かった。そのかっこ悪さがかっこよかったのだ。

当時はバブルの絶頂期、おしゃれでスマートで、手入れの行き届いた箱庭のように人工的に快適なものが幅を利かせていた時代で「ロックンロール!」なんて叫ぶこと自体がとってもダサいことだったのだけど、そんな時代の風潮に、剛速球のストレート一本で真っ向勝負に挑むようなロックンロールで勝負をかける姿がこのバンドの真骨頂だ。
ブレイク寸前にレベッカをクビになって、あいつらを見返してやるんだぜ、っていうエピソードにも共感したし。
ロックンロールを嗤う時代へのロックンロールな態度での返答っていうかな、存在そのものがどこか痛快で。
ストーンズというよりはエアロスミス?一歩間違えばダサダサのオールド・ファッションなロックンロール。
金と女、セックスとバカ騒ぎだけで構成された世界観。
正直共感はしないし、きっと本人たちだってバカバカしいと思ってる。
でもそのバカバカしい世界観を思いっきり本気で演る。
ただのジョークと紙一重の、時代錯誤とも言われかねないシンプルでストレートなロックンロールをメいっぱいマジで、時には自分たちを嗤う余裕すらみせつつ、スケールのでかいロックをプレイする。
すると、それがとてもかっこいいことみたいに錯覚を生むんだよね。
そんなパラドックスこそがロックンロールのキモなんじゃないかって思ったんだ。

 Just to win わずかな金と オンボロの車 転がして
 やっとのことで この街にたどりついたばかり
 最後の夢を この手に握りしめる為に これからここで
 イチかバチかの賭けさ Oh yeah!
   (Casino Drive)

ハハハ、一獲千金を夢見て上京したバンド・マンのありがちなストーリー。
10年前に永ちゃんがこういうのを歌った頃はこの「夢」って言葉にはまだリアリティがあった。
でも、この頃なんてもはや「夢」なんて悪い冗談でしかなかった。
そのことをわかった上であえて歌う。そこがかっこよかった。

で、この続きのフレーズがすごく好き。

 どうせ ダメでも元々さ
 くだけ散るのも 悪かねえ
 でもイカサマ野郎にゃ負けやしねぇぜ~

負けやしねぇ、なんだよな。
最初から勝つ気もないし、勝てる気だってしていない。僕たちはきっとそういうふうに育った世代だと思う。
でも、負けやしねぇ、なんだよな。
お前らの好きにはさせない、ほんのちょっとでもいい、お前らに一撃を食らわせてやる。
他人から見たらどうだっていいような、けっこうくだらない意地みたいなものかもしれないけど、自分にとってはけっこう大事なこと。そういうものを心の底に抱き続けておくことが、いつかほんの一瞬でも世界を逆転させることができるんだと思う。
かっこ悪さをかっこいいにひっくり返してしまうパラドックス。
そういうの、あり、だろ、って。



♪STRANGE BUT TRUE

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Strange But True / SION

役立たずの風車
からかうなよ
Once Only Love
好きで生きていたい
Machiko
花売り
カーテン
気にすることはないさ
Please Look At Me
天国の扉 (KNOCKIN’ON HEAVEN’S DOOR)

サラサラ
もの悲しい風
気にすることはないさ
カーテン
好きで生きていたい
こんな大事な夜に
記憶の島
お前だけ見られたら
What Makes You So Blue
まっさかさま
花売り

ブルースを演るわけではないけど、佇まいとしてのブルース・マンっぽさがぷんぷん匂いたっているのがシオン。
今でこそずいぶん落ち着いたおっさんになって、日常のとりとめのない出来事を歌っているけれど、デビュー当初の強烈な存在感は圧倒的だった。ホームレスみたいな小汚ない風体で噛みつくように吠えまくる姿は、そこらへんのパンクスよりももっとパンクだったし、そこらへんの自称ストリート・ロッカーよりももっとストリートにへばりついていたし、そこらへんのフォーク・シンガーよりもリアルにどん底の生活感があった。
1988年のこのアルバムは、そんなシオンが、ちょっとだけまっとうな大人に一歩踏み出したようなアルバム。
地べたをはいつくばってきたどん底からちょっとだけましになった暮らしの実感と、それでもやっぱりつきまとうやるせなさや虚しさと、それでもほんのちょっと見えてきた希望というにはやや大げさかもしれない展望みたいなものがいろんな歌から染みでてくるような。
そう感じるのは歌の内容だけではなくて音楽的な充実もあってのこと。デビュー当初のディラン的ぶっきらぼう、或いはトム・ウェイツ的にがさつな弾き語り~スプリングスティーン的疾走系から一歩踏み込んだ音楽的充実というか。
StrangeSideと名付けられた1枚目のディスクでは、ラウンジリザーズのエヴァン・ルーリー率いるタンゴ・バンドに全編を委ねた、バンドネオンを中心に据えた独特のサウンドが展開されていて、これがもうしびれるくらいにかっこよくって、シオンの歌にめちゃくちゃばっちりはまってる。
一方のTrueSideは松田文ら当時のライヴでのバンド“NOIS”を従えたラウドなロック。StrangeSideでバンドネオン・アレンジで演っていた曲のアレンジ違いなんかもあって、あー、この曲がこんな風になるんだ、ってなところもかっこよかったな。

ずいぶん久しぶりに聴いたけど、やっぱり染みるな。
シオンの歌が実際にリアルだった、25歳や26歳の頃の自分の思いがふっと甦ってシンクロする。
若気の至りで調子に乗って会社を辞めて、ヒゲぼうぼうの小汚ないツラで、とんでもなく貧乏で、建設現場の日雇い人夫の仕事でちょこちょこと食いつなぎながら、何をするでもなくぶらぶらしていた頃。
気分はシオンだったんだ。

♪いらっしゃい、行き止まり
 酒でもやりながら
 ようこそ、行き止まり
 明日でも待つさ
    (気にすることはないさ)

なんてうそぶきながら粋がっていた若造。
ちょっとだけヤバそうなところにも足を突っ込みかけて、こりゃさすがにヤバいだろ、みたいなことも幾つかあったし、うーん、今でこそそれなりにまっとうだけど、一歩踏み外してしまえば永遠にどん底スパイラルのエッジの上にいたんだな、って思い返してぞっとすることも時々あったり。
幸運だった。いろんな幸運がたまたま僕を今の場所に連れてきてくれたんだと思う。そこには自助努力なんかひとつもない、ほんとうのたまたま。風向きや、タイミングがたまたまよかっただけ。
ただね、若い頃のほんの数年そういうダークサイドな経験をしたことはいいことだったと思う。
ひょっとしたらずっとあっち側だったのかも知れない、と考えると今の立場がいかに恵まれているのかと実感できるし、この先いろんな風向きが変わったとしても“どーせ最初っからここが居場所だったんだぜ”って思えるような気もするから。明日娘がグレても、明日離婚届を突きつけられても、明日会社をクビになっても、あんまり怖くはない。いや、強がりも半分以上あるけど(笑)、ただ半分は自分で蒔いた種だったりもするんだろうからさ(笑)。

♪気にすることはないさ
 殺されるわけじゃない
 別にこれが初めてというわけでもないし
 いつかのツケだかバチだか知んないが
 たぶんそんなもんがまた回ってきたんだろ

なーんてね、思える気がする。
シオンだってきっとそんな感じじゃないのかな、なんて。




♪LIVING PROOF

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Living Proof / Buddy Guy

74 Years Young
Thank Me Someday
On the Road
Stay Around a Little Longer
Key Don't Fit
Living Proof
Where the Blues Begins
Too Soon
Everybody's Got To Go
Let the Door Knob Hit Ya
Guess What
Skanky

ブルースっていうのは、南部の綿花畑やなんかで奴隷として重労働を強いられてきた黒人たちが、週末にジュークジョイントに集まっては音楽を聴いて心の憂さを晴らすような機能を持ちながら発展してきた音楽。主には報われない暮らしの嘆きやなんかを歌うのだけれど、その歌のスタイルは当然、奴隷として連れてこられた黒人たちの故郷であるアフリカにルーツがある。
西アフリカには今もグリオと呼ばれる吟遊詩人がいて、彼らは歌にのせて王族の物語を滔々と歌うのだけれど、ブルースにもその「物語を歌う」ということがそもそものDNAとして組み込まれている。

バディ・ガイの2010年のアルバム『Living Ploof』、ジャック・ダニエルズを模したジャケットと“生存証明”なんていうかっこいいタイトルだけでもすでにノック・アウトなんだけど、歌われている物語がまたかっこいいのです。
1958年のデビューから実に50年以上もブルースを演り続けて来たジジイだからこそ歌える物語っていうか。

 ルイジアナのド田舎の綿花農場でのことさ
 小さな小屋の中
 中坊の頃だった

 たった二本の弦の木製のギターを
 どうやったら上手く弾けるのかいろいろやってみたさ
 毎晩家族みんなにとやかく言われたけど
 俺はこう言ってやったんだ
 「いつか俺に感謝することになるぜ。」って

 姉ちゃんは金切り声を上げたさ
 「あんた、いい加減にしなさいよ。
 目を覚ましなさい!家族を怒らせないで!」

 たった二本の弦の木製のギター
 そいつをどうやったら弾きこなせるのか、俺はつかんだんだ
 「考え直しなさい、バディ」って姉ちゃんは言う
 「うるせえよ、いつかあんた、俺に感謝することになるぜ、って言ってるだろうが。俺の言うことを聞いてくれよ。」

 それが60年前のことだ
 もう母ちゃんも父ちゃんもとっくに逝っちまった
 姉ちゃんたちや兄弟、それに孫たちといっしょに暮らしてる

 俺はチビたちにギターを買い与えてやった
 そしてこう言うのさ
 「ええか、目を閉じて弾いてみな。周りのことなんて気にしなくていい。いつかお前さん、俺に感謝することになるぜ。」
       (Thank Me Someday)

バディ自身の自伝的な内容なんだろうけど、貧しい農民からギター一本で叩き上げてきたって感じがすごいよね。しかも、親兄弟だけでなく孫にまで感謝させるというオチまでちゃんとあって(笑)。

どちらかと言えばバディ・ガイっていう人はそんなに得意な方ではなかったのです。
キーンと甲高い声と、暑苦しいスタイルのギター、アルバート・キングやアルバート・コリンズもそうなんだけど、ウギャギャギャギャギャギャーンって弾きまくるスクイーズ系のギタリストはあんまり好みではなかった。でも、たまたま中古屋で見かけたこのアルバム、これがもう予想に違わずかっこよくって。
圧倒的な貫禄に加えて、70を越しても尚バリバリの現役感。
そして、貫き通した頑固ジジイだからこそ歌える物語。
1曲め、アコースティックの枯れた感じから入って中盤ズギャギャギャギャーンと唸り出すギター。これ一発でもう参りましたっ、て感じなのに、70越してる感を全然感じさせないド級のブルースがこれでもかと大連発。“On The Road”や“Too Soon”なんかのテンションの高さや、インストの“Skanky”のタイトさは、ブルースというよりも60年代末~70年代のブルース・ロックに近い感覚。
一方で、BB・キングと共演の“Stay Around a Little Longer”や“Everybody Got To Go”といったスロウ・ナンバーがもう円熟の極みというか、ジイサンならではの深みというか。

 ママはよくこんなこと言ってたな
 「いつの日にかあなたにもわかるでしょう。辛い日々もずっと続きはしない。
 毎日は神からの授かりもの。しっかりと眼差しを向けて日々を歩むのよ。
 誰もがいつかあの河を渡るのだから。」

 誰もが故郷に帰りつく あの空のはるか向こうの天国へ
 誰もが旅立っていく 優しく手を振って

 兄貴が死んだ日、 あの歌のことを思い出したんだ
 ママがよく歌ってくれた歌
 救世主イエスが子供たちを呼んでいる歌
 誰であろうとおかまいなく 誰もが旅立っていく

 誰もが故郷に帰りつく あの空のはるか向こうの天国へ
 誰もが旅立っていく 優しく手を振って

 もう俺は若くはないけれど、 若かった頃を思い出すことがある
 真実からはぐれてさまよっていた俺を救い出してくれた幾人かのこと
 もはや死ぬことなんて恐れはしない
 いつか俺の番もやってきたら、きっとあんたに会えるんだろうな

 誰もが故郷に帰りつく あの空のはるか向こうの天国へ
 誰もが旅立っていく 優しく手を振って
       (Everybody Got To Go)

バディ・ガイがこんなにもまともなことを、しかもゴスペリーにソウルフルに歌っているなんてね、「誰もが旅立っていく」「もはや死ぬことなんて恐れはしない」なんてことを70過ぎたジイサンが歌うと、説得力ありますわ。

ただ、このジイサン、この歳でも全然枯れないのがまたすごい。
なんせこんな歌も豪快に歌っておられます。

 俺は今74歳。けどまだ何にも成し遂げちゃいない若造だ
 屈辱も受けたし、泥棒猫みたいにずるいこともやってきた
 女の尻を追いかけもしたし、それなりの足跡も残してはきた
 けど、まだまだ楽しめる
 だって74歳の若造だからな
       (74 Years Young)

ハハハ、74歳の若造ってね。
こんな脂っこいジイサンが身近にいたらきっと困るんだろうけど、本物のブルース・マンの矜持っていうかね、それこそバディ・ガイの生きざまそのものが物語になってきてる感じですよね。
願わくは、このまま100歳くらいまでぶっちぎってほしいものです。



♪MY TRUE STORY

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My True Story / Aaron Neville

Money Honey
My True Story
Ruby Baby
Gypsy Woman
Ting A Ling
Be My Baby
Little Bitty Pretty One
Tears On My Pillow
Under The Boardwalk
Work With Me Annie
This Magic Moment / True Love (Medley)
Goodnight My Love(Pleasant Dreams)

典型的なファッションの人って、個人的には何だかな、って思うところがあって。
革ジャン・鋲・ブラックジーンズ・長髪でビシッと決めたメタル好きとか、ベースボール・キャップにダブダブのシャツのヒップホッパーとか、ボッサボサの髪にチェックのシャツと銀縁メガネのオタクとかね(笑)、いかにもってのが好きじゃない。ひとつの価値観にずっぽり全部染まってる感じがね、ひとつの世界観だけでいっちょあがりな感じがどうも、それでいいのかよと突っ込みたくなる(笑)。
パッと見と実態のギャップが大きい人のほうが魅力的ですよね。
化粧っ気も少なくてさらっとした感じの女性がすごくおしゃれな小物を身につけているとか、バリバリのヤンキー・ルックなのにすごく博学とか、普段はおとなしい無口な女の子が週末はパンク・ロッカーとか、めちゃくちゃいかついおっさんがものすごくスイートな甘い声で歌うとか。
アーロン・ネヴィルさんはこのタイプ。
このいかつい見た目と歌のギャップ、あのごっつい体といかつい風体からどうしてこんなにも甘い歌声が出てくるのか?それだけでもう深みを感じます。
2006年のソウル・クラシックのカヴァー集“Bring It On Home”も、そのあと出たゴスペルっぽい南部臭さの詰まったアルバムも大好きだったんだけど、さらにその上を行くのが2013年のこのアルバムです。
ドン・ウォズがプロデュースでキース・リチャード全面参加というだけでも色めきたつ上に、ドゥー・ワップのカヴァー集っていうのがまたそそられるんですわー。
のっけからクライド・マクファターの“Money Honey”でビシッと決めて、ドリフターズにインプレッションズ、クローヴァーズ、ジャイヴ・ファイヴ、リトル・アンソニー&インペリアルズ、ハンク・バラード&ミッドナイターズ・・・ニュー・オリンズ・ファンク風に味付けされた“Be My Baby”はご愛嬌か。

アーロンさんのヒョロヒョロしたヨーデル唱法は慣れないとなんだかへんてこりんにも聞こえるけれど、その奥にあるソウルに触れると病みつきになってしまうんだな。
ソフトでシルキーな肌触り、どこか懐かしく、あたたかいものに包まれているような感覚になる、っていうか。
元々はティーンエイジャー向けだった60年近くも前の古い楽曲が、熟成されて深みを増して、とても芳醇な香りを漂わせてくれる。
そこに、アーロンさんの人生の深みを感じるのですよね。
つるんとのっぺりした若僧にはとても歌えない。かといって枯れてしまって昔の栄光にすがっているだけの爺さんではこの色気は出ない。若気の至りも、思慮浅はかな失敗も、或いはとても甘美な秘め事も、せつなくなるようなロマンスも、そんな過去を愛おしく胸に抱きつつ、あるがままをしっかり受け止めて大人になった人だけが出せる味わいというか色気というか、そういう感じがとても素敵です。
通りいっぺんの型にはまった典型的な人にはこういう味わいや色気はまず出せないよね。

気温はまだまだ高いけど、すうっと涼やかな風。秋の匂いが漂い始める夏の終わり。
あったかいお茶を飲むように、ホッと一息癒されて。



♪「びじゅチューン」と世界平和

久し振りに京都駅の伊勢丹に行く機会があって。
ここにはNHK Eテレのグッズショップがある。
実は昔からEテレ(っていうか、教育テレビ、ね)の子供番組は大好きで。「0655」「2355」はもちろん、「ピタゴラスイッチ」「日本語であそぼ」「コレナンデ商会」「ごちそんぐDJ」などなど、実に奥が深くておもしろい番組が目白押しなのだけど、娘ともども一番はまっているのが、日曜日夕方5時55分からの「びじゅチューン」という番組だ。

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以前にこの枠でやっていた「むしまるQ」と同じく、歌で知識を学習するコンセプトのこの番組。古今東西の美術作品を独特の歌とアニメで紹介するのだけど、この歌とアニメがなんとも不思議な魅力があるのです。
歌と作画をともに手掛けるのは井上涼さんという人。
どう不思議かというとなんとも説明が難しいのがけれど、例えば狩野永徳の「唐獅子屏風図」の唐獅子の巻き髪がバッハに似ているという理由だけで唐獅子たちが音楽家であるという設定にしちゃったり、「ムンクの叫び」の登場人物をめちゃくちゃ旨いラーメンを食べたときの言葉にならない叫びを発していると見立ててラーメン屋の店主にしちゃったり、「モナリザ」は会社のお局様だったり、「五弦琵琶」が転校生だったり、インドの「タージ・マハル」が色白でぽっちゃりしている憧れの先輩女子だったり、「太陽の塔」が保健室のカウンセラーだったり、「最後の晩餐」でサンバを踊ったり。まぁよくぞそーゆー大胆な発想ができるもんだと思うようなものばっかりで。
時にシュール、時にほっこりしつつ、人生のある一瞬の機微を見事に切り取ってくる感じは実に奥が深いです。このぶっとびかた、歴史ある美術作品の権威などものともしない自由さはある意味パンク的だし、先人の遺産をどう解釈して再構築するのか、という点ではヒップホップ的でもあるとも思う。楽曲的にはリズムは打ち込みだけどベースなどかなりファンキーで、メロディーは複雑かつ独特。ジョリー・ラジャースというコーラス・グループ入のバージョンもいい味出している。
すごくおもしろい作品が山ほどある中で一番好きなのは、「貴婦人と一角獸」を題材にした“貴婦人でごめユニコーン”かなー。
貴婦人の、貴婦人であるが故の至らぬ点を執事的な役割のユニコーンがひたすら謝りまくるだけの歌なんだけど(笑)、このユニコーンがめちゃくちゃかわいい。そもそも“ごめユニコーン”などという無理のある造語を構わず使っちゃうというだけでも、恐るべしセンスだと思いません?

ところで、京都駅といえば、原子爆弾の最初の投下予定都市の第一候補は実は京都市だった、ということをご存知でしょうか。
今日も世界中からの観光客で賑わう金閣寺も清水寺も、ひょっとしたら原爆で影も形もなくなっていたかもしれないのです。
投下目標は京都駅近辺。
今いる場所が爆心地だった可能性を考えるだけで背筋が寒くなりました。
アメリカ軍が京都を第一候補に提案した理由は、原子爆弾の効果がどの程度なのかを科学的に測定するためで、そのために地政学的な見地から導かれたもの。つまり「3マイル四方の平地かつ奥に山があり、爆風の影響が最大限得られること。」、加えて「まだ空襲の影響を受けず都市が保全されていること」「人口が100万人以上」ということが効果測定という点で重視されたそうだ。
しかし当時の陸軍長官スチムソンはフィリピン提督時代に京都を訪れたことがあり、「京都はダメだ」と却下。一度は京都は投下目標から外される。戦後に、「京都に空襲がなかったのは京都に無数にある文化財をアメリカは保護したかったからだ、さすが西洋人は美術の価値を大切にする」というアメリカ賛美の言説が定説になったけれど、実態はそうではなく、スチムソンが京都への原爆投下を認めなかったのは「京都は天皇が住んでいた古い都で、そこを原爆で跡形もなく破壊してしまうと、さすがに日本人の反米感情が高まりすぎるリスクがある。戦後に日本が反米国家化してソ連側につかれるのは困る」というものだったそうだ。文化財を保護した、というのは後付けの理屈だったようで、軍は一度は京都案を引っ込めはしたものの、広島市、小倉市、新潟市とともにずっと候補地には残っていて、日本がそのまま降伏しなければいずれ、という準備がなされていたそうです。
・・・ため息が出るような話ですよね。
爆弾が投下された、その下で暮らす人間一人一人のことなど一切考慮されない、政治的な思惑とさじ加減だけで何十万もの命の行方が左右される。非常に利己的な判断で運命が変わってしまう。
爆弾を落とす側にそんなふうに人の命の行方を決める権利なんて絶対にないはずなのに。

ちなみに“貴婦人でごめユニコーン”の歌詞には、「我が唯一の望みはみんなで静かに暮らすこと」というフレーズが出てきます。それは誰もの望みであり、爆弾はそんな望みを一瞬で、或いはじわじわと、破壊するものである。
びじゅチューンは、古今東西の美術作品のことを扱う番組だけど、その奥底に「人間の暮らしへの慈しみが美術作品には込められている」というメッセージがある気がするのです。ひいては人間の暮らしへのリスペクトがある、と。
爆弾とは対局の論理としての美術作品。
美術にはそういったメッセージがあることを、へっぴり腰でへなへなの超脱力系の井上涼くんが教えてくれる。
爆弾よりも美術作品を。武器よりも楽器や絵筆を。

そんなことを考えた、夏の終わりの京都駅だったのでした。


※「びじゅチューン」、井上涼さんの作品は、NHKのこちらのサイトでご覧いただけます。
CDとDVDも出てますよー。

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びじゅチューンCD EAST / 井上涼
びじゅチューンCD WEST / 井上涼


♪麗蘭

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麗蘭 / 麗蘭

ミッドナイト・ブギ
待ちわびるサンセット
アメリカンフットボール
今夜R&Bを…
真夜中のカウボーイ
さみし気なパイロット
ユメ・ユメ
月の夜道でマンボを踊る友人の唄
ハイキング
ココナッツバター
がらがらへび(P・Greenに捧ぐ)
ハーモニー(挽歌)
ミュージック
夏の色調

もう一本、貴重なライヴを経験したのだなぁ、と思い返すのは麗蘭です。
ご存知RCサクセションの仲井戸“CHABO”麗市と当時活動休止中だったストリート・スライダーズの土屋“蘭丸”公平が組んだまさかのユニット。まさかの、っていうのは、当時二人ともとても社交的とは言えない感じ、まさかバンド外での活動なんて想像もつかない者同士だったから。

1991年だった。
この年、僕は2年と少し勤めた会社を辞めて無職になった。
何かやりたいことがあったわけではない。
むしろ、何にもしないということをやりたかった。
今の時代ならね、入った会社をさっさと辞めちゃうってのはなかなか勇気がいることだけど、当時はまだバブル景気の残り火で仕事なんて高い条件さえつけなければいくらでもあったのだ。
勤めていた会社はスーパーマーケット~コンビニへの時代の変化に乗り遅れて業績は下降一方、バブルの恩恵なんてなーんにもなし、働き続けたところで何の展望もないし、おもしろくもなんともない、沈んでいくとわかっている船にしがみつくのはやだな、って辞めてやった。辞める時の朝礼の挨拶で「お先に失礼します。」って言ったら、後で上司にマジで怒られた(笑)、ハハハ。若かったのだ。

まぁ、それはともかくとしての麗蘭。
大阪のなんとかいうホールと、京都・磔磔と、確か2回観た。
チャボがね、とにかく楽しそうでね。
ふっきれたっていうか、ぶっとんだっていうか。
ハツラツとギターを弾いて、楽しそうに歌ってた、そんなライヴだった。
それまでの僕のイメージでは、チャボはいつも怒ってて不機嫌な印象があったから、尚更そのステージで観た楽しそうなチャボの姿はインパクトがあったのだ。
当初はライヴツアーだけの予定、一年限定の活動の予定が、結局アルバムも作って、翌年以降もたびたび組んで、ってなっていくのは、よほど二人とも、この二人だから出せる音の世界が心地よかったのだろう。

一曲め“ミッドナイト・ブギ”から麗蘭らしさが炸裂。楽曲のベースはチャボががしゃがしゃかき鳴らすアコギ。ここに蘭丸が縦横無尽に弾きまくる、或いは逆に蘭丸のリフがあってそこにチャボが絡んでいくという構図。いずれにせよ基本はその二人によるグルーヴで、それを補強するように配置された早川岳晴のうねうねしたベースとZUZUのパーカッション。
ギター中心の人力グルーヴ、というのは麗蘭結成当初の大きなテーマだったのだと思う。チャボの歌もあえて言葉の語感やリズム、グルーヴを重視した作りが伺えて。かっこいいよねー、“ココナッツ・バター”とか“アメリカン・フットボール”とか。♪おさらば、今夜の有象無象~、とかね、四字熟語や漢字の語呂のリズム感の引き出し方なんかも文学青年のチャボらしくてかっこいい。

グルーヴってのはこんな風にギター2本でも出せるんだ、ってことに目からウロコだった僕は、一緒に見に行ったギター弾きの友人といっしょに麗蘭みたいなユニットを演ろうぜ!って盛り上がって“エレクトリック・プランクトン”っていう名前のユニットを結成して、奴の四畳半の部屋で日々練習したのだけれど。ハハハ、やっぱりチャボみたいには到底演れっこなくって。
まぁどうってことないそれだけのことだけど、麗蘭と言えば僕の中ではこの“エレクトリック・プランクトン”がセットになって思い出されて、それはちょっと夏の終わりの気分なんだよな。
自由な解放感と、とりあえずは気持ちだけの情熱と、でもその夏のような若さが時にはすごくうっとおしくもあり、ジリジリと苛立ったり、そして過ぎてしまえば気恥ずかしくもあり、懐かしくもあり。

♪だったら浮き世の窓をおまえに開けて
 風にのせてこの歌 口ずさんで送ろう
 だから夜空の窓を俺に開けて
 風にのせてこの歌 すぐに歌い返せよ
       (ハーモニー)

あぁ、夏の終わり。何だかしみるなぁ。
なかなかせつないよ。このアルバムは。
期間限定だからこその完全燃焼感っていうかな、今この瞬間に、コイツと一緒にいられるわずかな時間で、コイツと一緒に出来ることを全部やりきってしまうんだ、全部出しきってしまうんだ。そんなチャボの熱い思いがいっぱい詰まっている。
過ぎていく夏の終わりに、ちょっと感傷的になってみるのも悪くない。悪くないよ、な。




♪BO GUMBOS LIVE at 磔磔 1988

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BO GUMBOS LIVE at 磔磔 1988 / Bo Gumbos 

BO & GUMBO DISCO
泥んこ道を二人
どうしようかな
君の家は変な家だなあ
魚ごっこ
誰もいない
Sleepin’
メリーゴーランド
もしもし!OK!!
ダイナマイトに火をつけろ
助けて!フラワーマン
見返り不美人
ボガンボラップ

1988年の夏は、人生の中で一番遊んだ夏だ。
大学4回生、学校には行ってもろくに授業には出ずに学食でだらだらして、夜は毎晩誰かの家で飲んでいるか、どっかのライヴ・ハウスでご機嫌になっているか、金はあんまりなかったけど、ひまはたっぷりあった。居酒屋のバイトを深夜に終えてからなぜか盛り上がって行き当たりばったりで鳥取砂丘まで行ったりもしたっけ。夜中にクルマぶっとばして5時間、明け方砂丘に着いてだらだら過ごしてその日の夕方にはまたバイト、とかね。
タフだった。体力あった。眠らなくても遊べた(笑)。
就職活動とかまともに取り組んだ記憶がないし、卒業論文だってちゃんと書いた記憶がない。それでもなんとかなるもんなんだなー(笑)。

そんな1988年の夏、一番熱かったのはボ・ガンボスだった。
ローザ・ルクセンブルグを解散させたどんとが、ローザの永井、元ブレイクダウンの岡地さん、そしてマルチプレイヤーのKyonと組んでニューオリンズやその辺りの泥臭いファンクを演ってるってんで、周りの音楽好きの間でもずいぶん話題になって、ローザ好きのバイト仲間の子と行ったんだったっけ、磔磔。
まぁ、なんちゅーか、すごいエネルギーだった。細部は全然覚えてないけど、すごいテンションの高さにやたらハイになったという記憶だけ残ってる。
どんとさんが亡くなってもうずいぶん経つけれど、思えばこの頃が一番どんとさんの溢れる才能がマックスに高まっていた時期だったんだな。そういう場に立ち会えたというだけでもすごい経験だったんだな、って今更ながらに思います。

ローザでデビューしたときから、どんとさんはとても異質な存在感を放っていた。今まで聴いたことがないような独特の言葉と節回しの歌がたくさんあった。
どちらかといえば童謡に近いような言語感覚。どこか人をなめたようなテキトーなスタンス、特に一生懸命何かをやっている人を嗤うような、時には人が傷つくようなことも平気で歌う。かと思えば、とても叙情的な歌がするっと出てくる。思ったことを思ったまんま歌にしてしまう感じは天真爛漫な子供みたい。或いはとても現世の人とは思えないような浮世離れ感とでも言うべきか。
しかもそれを、スタジオでもステージでも100%以上のテンションで演りきってしまう、その圧倒的な熱量の高さ。
民俗学では「ハレ」と「ケ」という概念があって、日常生活は全体の規則や規範に沿って抑制、節制して暮らすかわりに、節目での「ハレ」の日にはあらん限りのエネルギーを放出して日常の暮らしで溜まった澱のようなものをすべてはきださせる。昔はそうやって社会全体で精神のバランスをはかっていた。それはまた、現世とあの世を結びつけるような行為でもあった。日常もあの世もいっしょくたにして世界中をひとつにまとめてしまうことで生まれるエネルギー。
音楽にも「ハレ」の音楽と「ケ」の音楽があって、労働歌や子守唄なんかは「ケ」の世界の音楽。お祭りなどで太鼓を打ち鳴らして踊りまくるのが「ハレ」の音楽。「ハレ」の音楽を演る人間は当然、人を熱狂させるだけの熱量を自身が発し、何かが憑依したかのようにあらんかぎりのエネルギーを放出できる人が選ばれるのであって、芸能というのはそういう選ばれた人が演るものだったのだけれど、どんとさんはまさに選ばれた「ハレ」の芸能の世界を持った人だったのだと思う。

「このビートは幸せを呼ぶビートといって、このリズムに合わせて手をたたいて踊れば、どんな不幸な奴でも笑ってしまうという不思議なリズム。それでは皆さん手を合わせて、このビートに合わせてちょーだい!」
アンコールでどんとさんが叫ぶ。
お祭りならではのグルーヴにはきっとアフリカ人もブラジル人も踊りだす。大人も子供もおじいちゃんも。1988年の僕も、2016年の僕も踊る。


Appendix

プロフィール

golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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51NacLGHbDL.jpg Musical Romance 81Jiymj05iL__SL1417_.jpg Ramblin Bob Amazing Bud Powell 1 I'm Jimmy Reed 91nimun-gdL__SX425_.jpg The West Coast Sessions 51N428T8D2L.jpg 71Y7cZxniBL__SL1098_.jpg Ella & Louis Chicago Bound アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション+1 51RNkrRkrKL.jpg ベスト・オブ・バディ・ホリー 51Y1W0GNK4L.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 51r1Jn3KysL.jpg 418FMPHEH8L.jpg 41BMZZ4644L.jpg 91gRh3dMZCL__SL1500_.jpg 41D5N5A2NPL.jpg 71rf2SLpdpL__SL1000_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 41D7S4CZWBL.jpg 41+QbmWm7aL.jpg VERY BEST OF Man & His Music A1DhxQZCjXL_SL1500_.jpg marvin-fellow.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg The_Rolling_Stones-1964-The_Rolling_Stones.jpg Beatles for Sale My Generation: Deluxe Edition 51AcnSJcHyL.jpg 51bNj+ULpSL.jpg 51DHQC61ZWL_SX425_.jpg 41o9XeUuZjL.jpg 20 G.H. Live in Europe tomt 51cKCqaKQxL__SY355_.jpg 81DCRuSH25L__SL1500_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg MI0002782768.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg soulman_original_alb.jpg 51FGtOkImKL_SX300_.jpg west_side_soul1.jpg Beggars Banquet エヴリ・ワン・オブ・アス+1 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 71otoVzhCuL__SL1105_.jpg 413AMGT7SFL.jpg 51ds00OKe-L.jpg 616osu5m8iL_SX425_.jpg 305a1614.jpg 81pMwMtFveL__SL1345_.jpg 81f2DLVCzJL__SL1300_.jpg 51uOzyp+Z6L.jpg 71eG2rIxazL__SL1046_.jpg 51ZJJGM2ZZL.jpg Fire and Water 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg Fragile 715IJ+j9EuL__SL1131_.jpg Music Muswell Hillbillies 71ctdmsHsJL__SL1084_.jpg 71PD4tBKioL__SL1116_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 61XXWX6tmCL.jpg 61NAZCOWDDL__SL1100_.jpg セイリン・シューズ(紙ジャケットCD) 71eNbpCI6UL__SL1077_.jpg 511-tyxVUpL.jpg 91gT9fqhZ3L_SX425_.jpg I'm Still in Love With You 414HP65MBKL.jpg 51X8dY66CsL.jpg 愛と自由を求めて 51RXYQ9OO3L.jpg Takin My Time Closing Time There Goes Rhymin Simon 明日に架ける橋(紙ジャケット仕様) ひこうき雲 GP Moondog Matinee 716rGZASCKL__SL1425_.jpg 41SSP93BHWL.jpg 51zJyUc+r6L.jpg 51jCzIh4qRL__SS280.jpg 61-8DQVxWjL__SL1050_.jpg 61dZdC6t62L__SY355_.jpg 71aWAFuF6BL__SL1050_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 51JbSP69QaL.jpg 渚にて 5197RcTXXnL.jpg 81A5c2hHeyL__SL1425_.jpg 81qgW6uhF1L__SL1500_.jpg Born to Run Nils Lofgren 61BdFFiXniL__SX425_.jpg スネイクス&ラダーズ(ベスト)(紙ジャケットCD) ROCK 'N' ROLL 61ijQ7n04TL__SL1065_.jpg 31vqqUxOjnL.jpg 612tlGtI4sL_SX425_.jpg Malpractice c674c8d38b834d1a46f26cee2f0381b7.jpg 71f0CPCXaJL__SL1050_.jpg 71s7uOgUVBL__SL1092_.jpg 81-hcf-9GdL__SL1228_.jpg In Concert: Best of Pretender 3112T4QJV9L.jpg Equal Rights Songs in the Key of Life “1976” 6184mADL6LL.jpg Ronnie_Lane_-_One_For_The_Road_-_LP_RECORD-57899.jpg Brinsley_Schwarz_Surrender.jpg 51sDSqlWYbL.jpg マーキー・ムーン Ramones L.A.M.F. - The Lost Mixes Never Mind the Bollocks Here's the Sex Pistols マイ・エイム・イズ・トゥルー+1 New Boots & Panties 7139dYLoG8L__SL1050_.jpg 21EXZVPG4AL.jpg 51fnZ7zzuUL.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 4129-Q6sVHL.jpg 61NLoHBAYAL.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg Black Woman Chaka Briefcase Full of Blues 616WAJF3SGL.jpg 91U+8UJ1+vL__SL1500_.jpg 80 51Cm3YGmDQL.jpg 51JKKZA9W4L_SX425_.jpg 518Vq58mgUL.jpg 41VQXG3BFML.jpg 31V0AVW674L.jpg Long Run 71Y9bXH9D+L__SL1412_.jpg labour_of_lust_nick_lowe.jpg Into the Music London Calling マラッカ(紙ジャケット仕様) Rickie Lee Jones 81zR19Ga9VL__SL1079_.jpg 41cLeG0ZrFL.jpg The River 91nimun-gdL__SX425_.jpg Emotional Rescue THE ROOSTERS Woman and I...OLD FASHIONED LOVE SONGS(紙ジャケット仕様) RHAPSODY 41Tcvs70ZPL.jpg 51tRgx3mLgL.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg Poet 91nimun-gdL__SX425_.jpg A00003808.jpg 800.jpg 51au3oRpDSL__SS280.jpg Heart Beat 61rH90dDhtL__SL1050_.jpg 71gHPyBVGqL__SL1050_.jpg milk_hi.jpg 女の泪はワザモンだ!!<デラックス・エディション>(紙ジャケット仕様) Pipes of Peace 51QeHiRUz8L.jpg JOAN20JETT202620THE20BLACKHEARTS20I20LOVE20ROCKN20ROLL.jpg 62805277.jpg 71WCRrbfr5L__SL1500_.jpg 51YJOxD55iL.jpg 51SSVnYVsJL.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 812JxniX3jL__SL1500_.jpg 41o+TOhThhL__SL500_.jpg 嘉門雄三 51wXhNgjs4L__SS280.jpg 510RsGZt0KL.jpg 71fefvSZXFL__SL1076_.jpg 71sCe7ReLUL__SL1273_.jpg Innocent Man 91nimun-gdL__SX425_.jpg 51ipQpNEBPL.jpg 51b+kbtwmZL__SX355_.jpg Uh-Huh (Rpkg) Learning to Crawl North of a Miracle 510NH8D9RTL.jpg 61gyVhU1QCL.jpg Ocean Rain インナ・ビッグ・カントリー<30周年記念デラックス・エディション>(紙ジャケット仕様) LIGHTS OUT 41uaexamSNL.jpg 819qdTNLMxL__SL1500_.jpg 616vZDe-wFL_SX425_.jpg 51Nh3RjwObL.jpg 31219QDNA0L.jpg Live in Italy YELLOW BLOOD(紙ジャケット仕様) 0831oyamatakuji.jpg 51xUBB5IDXL.jpg 51W5vbzNSoL_SX425_.jpg This is the sea Southern Accents Centerfield Rose Of England Poor Boy Boogie 51KQnRGfZkL.jpg 61P1R84YZTL.jpg THE仲井戸麗市BOOK 81xvZZeDEqL__SL500_.jpg 71uNe1yRlOL_SX425_.jpg 41BiuimcyaL__SL500_.jpg 71mWhnbZlBL__SL1045_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 51Uv2AegNJL.jpg Lone Justice Shake You Down 71qx7rhRauL_SL1247_.jpg Talking With The Taxman About Poetry 71PrfBnIAlL__SL1417_.jpg 51JC0ZVZ2JL.jpg 41FRDVE5HHL.jpg 51MCNZnwnYL.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 41kyWjIskxL.jpg 61pfESgIsfL.jpg 51161GGhY3L.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 81341iLwJBL__SL1500_.jpg 41G391YlKQL.jpg 41H2ZNKB5BL.jpg RogerTroutmanUnlimited517753.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 71+LokGlumL_SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 51vj8mxfgpL_SX425_.jpg 61r6gn5Zw7L__SL1050_.jpg 81KoDrysvWL__SL1402_.jpg 81CONxXc05L__SL1425_.jpg MARVY Dream of Life 41P61852YRL.jpg First of a Million Kisses covers.jpg 51WXla6D4UL.jpg 51iMxsNHHpL.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg MONKEY PATROL If I Should Fall From Grace With God Lou Reed NY アメリカ ナポレオンフィッシュと泳ぐ日 浮世の夢 51lOB6A0QuL.jpg 31TRAKHBS3L.jpg 41HETTEDKEL.jpg 61WRTiXKDxL__SX425_.jpg 71XidOygo4L__SL500_.jpg 71VhTv2GwpL__SL1079_.jpg 61GF12GYFTL.jpg 41CX6E9PEDL.jpg 29b546020ea0dffa61f19110_L.jpg thEJUVZLEV.jpg 71sLT+3QzeL__SL1000_.jpg 51EXCEcq9XL.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 51Cu2Y3de7L__SS280.jpg album-worldwide.jpg 416RTFVCTCL.jpg 愛があるから大丈夫 71-OO+VcMTL__SL1400_.jpg STICK OUT 91nimun-gdL__SX425_.jpg Through the Fire 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg album-four-chords-several-years-ago.jpg Mitakuye Oyasin Oyasin/All My Relations king-cake-front.jpg 81nBa9cn4ML__SX425_.jpg 71mdoTOXk2L__SL1084_.jpg 51zRUTKe5SL__SX425_.jpg 51AeVTRTGL.jpg 51uHHCgmeUL.jpg New World Order Sound of the Summer Running 41PFEPPAEHL.jpg 615 61umgDYJ83L_SS500_SS280.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg Home Girl Journey All That You Can't Leave Behind 91nimun-gdL__SX425_.jpg 31ARJGY84EL.jpg 31BGVPYMTKL.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 日々のあわ Soulbook 廻る命(DM008) 41mNSDBqy6L__SX355_.jpg Dance-With-My-Father-by-Luther-Vandross-J-Rrecords.jpg 81XonM-Wu4L__SX355_.jpg Okinawauta.jpg 41JYS3WjE6L.jpg 81DSuwZXaxL__SL1400_.jpg cover32.jpg 61gyVhU1QCL.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg yjimage.jpg

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