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♪TALKING WITH THE TAXMAN ABOUT POETRY -MyVintage(76)-

Talking With Taxman About Poetry
Talking With Taxman About Poetry / Billy Bragg

Released:1986

 ひとつの声が国を規定しようとする
 ただ上層部であるというだけで
 奴らだってはっきりとコトが見えているわけじゃない
 人々の声は不自由な耳の上を滑り落ちる
 私たちが選んだ政治家たちはみんな保身に走る

もう30年近くも前にビリー・ブラッグが歌ったこの歌、"Ideology"。
つい先日、この国でも似たようなことがありました。
国の在り方にとって重大な考え方を、内閣の決議だけで解釈を変えてしまうことの危うさ。
コトの中身にも大いに異論があるけれど、それ以上に民主主義な手続きを踏まないやり方に憤りを感じます。
なめられまくってるぜ。
ほんとうにそっちの方向でいいんですか?
だからあの時、ああ言ったんだよ、なんてなことにならなきゃいいけど。

歌はこう続く。

 神は市民サービスを与え給うた
 国家は優雅を倹約する
 私たちが民主主義に期待していたころ
 奴らには笑みがあふれていた
 けれど、私たちの泣き叫ぶ声が大きくなっても
 奴らはいまだ大きな声で笑いっぱなし
 イデオロギーがぶっ壊れる大きな音の上で


ビリー・ブラッグはそんなにたくさん聴いたわけではないし、正直その歌詞の中身を含めて正しく理解できているわけではないけれど、その表現姿勢にはとても好感を持っている。
このアルバムは1986年の3作目。
政治的な歌を激しく、しかもエレキ・ギター1本で歌うことから当時は「パンク・フォーク」とか「一人クラッシュ」などと呼ばれ、曲によってはパーカッションやヴァイオリンやトランペットが入ったりはするものの基本はドラムレスのエレキ・ギター弾き語りだ。
そもそもビリーはパンクに衝撃を受けてRiff Roughというパンク・バンドを結成するものの、見せかけだけのパンクに嫌気がさしてバンドを解散し、古いフォーク・ソングに傾倒していったそうだ。
フォーク・ソングと一言で言ってもいろんな人によってイメージするものは違うのかもしれないけれど、言葉本来の意味でのフォーク・ソング、すなわち民衆の歌。ラジオですらまだ普及されていないような時代に、教会や集会で歌われたような、誰もが一度で覚えてピアノやギターの伴奏だけでみんなで歌えるような歌・・・そんな影響を受けた、ついつい口をついて出てしまうようなわかりやすいメロディーや、どこか懐かしさを感じるような歌もこの人のとても魅力的なところ。
トランペットがかわいらしいThe Marriage、唱歌の伴奏のようなピアノが懐かしさを感じさせるHoney, Im A Big Boy Now、古いカントリー・ソングのようなマンドリンやスライド・ギターが素敵なWishing The Days Away、そしてThe Home frontやトラディショナルのThere Is Power In A Union
また、Levi Stubbs' TearsThe Warmest Roomは実はけっこうソウルっぽかったりもする。
少し異質なのは一曲目、ポップなメロディーのGreetings To The New Brunetteはちょっとネオアコっぽい雰囲気。 この曲には当時ザ・スミスで人気絶頂だったジョニー・マーや、コーラスにはカースティー・マッコールも参加しています。
ゴリゴリとハードで荒々しいヴァイオリンがかっこいい2曲目Train,Trainはパンク・バンド、カウント・ビショップのカバー。
そしてビリーの真骨頂はやっぱりIdeologyHelp Save The Youth Of Amarica みたいなゴツゴツザラザラとした手触りの政治的なメッセージを込めた曲。まさに「一人クラッシュ」の面目躍如。

ジョー・ストラマーのように熱く煽るわけではない。
むしろジョン・ライドンのように皮肉っぽくて、ニール・ヤングのように繊細かつ偏屈。
筋は絶対に曲げない頑固者で、でも実はロマンチスト、そんな印象がある。
頑固者でひねくれものでロマンチスト、っていうのは、結構自分的には大事な要素なのだな。
おそらく僕は思うロックというものはそういうものなのだ。

ちなみに"Help Save The Youth Of Amarica "はこんな歌。

 アメリカの若者に救いの手を
 世界中の若者に救いの手を
 制服を着た少年たちに救いの手を
 そして彼らの母親と彼らを信じて待っている少女たちへ

 死線をくぐる兵士たちの声を聞いて
 生きることのコストについて議論しよう
 彼らを彼らの故郷から連れてくる価格について

他国の戦争に巻き込まれるということはすなわちこういうことなんじゃないか、と、これも30年も前にビリー・ブラッグが歌っていたこと。
ほんとうにそっちの方向でいいんでしょうか。



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[C2295]

nyarome007さん、こんにちは。
>フォーク・ソングの、その最も鋭く、最も強靭な、民衆の武器たるスピリッツを抽出
そうなんですよね。めっちゃわかりやすい解説、ありがとうございます。
そもそも歌は、瓦版的情報伝達の手段のひとつであり、民衆の力であり救いであったということを、ブルースやジャズ方面ではなくもっとさかのぼって掘り下げていった人だと思います。

60代云々の件については、僕は、あの世代が闘いの敗北を自分たちの世代の青春といっしょに完結させちゃって次の世代に残さなかったことが、シラケの70年代・ケーハクの80年代をつれてきたととらえています。
僕たちの世代は、思いそのものがクサいものダサいものとしてフタをされてきましたから、もちろん自省も込めてですが、闘いには厳しい環境だったと思います。
60代への揶揄は、既得権益にしがみついて自分たちだけ逃げ切ろうとしないで、若い頃の思いがホンモノならば今一度声をあげてほしい、というあの世代へのうらやましさの裏返しのひねくれた愛情や期待だと思ってください。

[C2294]

Okadaさん、こんにちは。
僕は“Marmeid Avenue”は未聴なのですが良さげですよね。
僕の持っているのはこれと、この次に出た“Don't try this at home”、それから2008年の“Mr.love&justice”。
“Don't try~”は80年代の英国ポップ風でパンク度・フォーク度はうすめ。
“Mr.love&justice”はぐっとルーツっぽくて渋いです。僕の中では、例えばボビー・チャールズなんかといっしょにおいておきたい感じの落ち着いた好盤です。

[C2293]

ビリー・ブラッグは、80年代当時、パンクやノイズから最も遠いところにあると思われていた
フォーク・ソングの、その最も鋭く、最も強靭な、民衆の武器たるスピリッツを抽出し、
良質なメロディに乗せ、実はそれらが地続きの関係性にあったことをぼくたちに教えてくれた
稀有なミュージシャンであったと思います。
ぼくは、ポール・ウェラーの「レッド・ウェッジ」運動を通じて、ビリーを知りましたが、
スタイル・カウンシルで一世を風靡していたポールと比べ、ビリーの日本での取り上げられ方は、極めて地味であったように記憶しています。

コメントに異論をはさむようで恐縮ですが、
「学生運動やってた今の60代は・・・」というより、最も唾棄すべきは、
80年代に政治を忌み嫌い、軽薄こそ善というバブリーな風潮に流されまくった、
ぼくらの世代のような気がします。

[C2292]

ビリー・ブラッグがウィルコと作ったアルバム、『MERMAID AVENUE』が好きなので、ビリーのことはずっと気にはなっていたんですが、まだアルバムは聴いたことがないんです。『MERMAID AVENUE』はウディ・ガスリーが遺した未発表の歌詞に音楽を付けたアルバムですね。
ビリー・ブラッグ、ぶっきらぼうだけど良い声ですよね。
近いうちにアルバム聴いてみようと思います。

[C2291]

GAOHEWGⅡさん、こんにちは。
まったくね、選挙くらいしか民意を示せないというのは歯がゆいですね。
民主主義には時間がかかる。
今回これを踏み込んだ首謀者は、選挙民が次の選挙の頃には忘れてることまで折り込み済みなんでしょうね。

イギリスはサッチャー時代にかなり若者に政治的な不満が溜まったようで、ポール・ウェラーなんかもかなり踏み込んだことを歌ってます。
いまの日本では難しいでしょうね・・・学生運動やってた今の60代は何をしとんねん!という思いはありますけど。

[C2290]

golden blue様 こんにちは

自分は後追いで英ロックを聴いていたのですが、
80年代は割と抜け落ちていて、この方も初めて知りました。こういうメッセージ先行型のミュージシャンってイギリスには珍しい気がします。貴重な存在だったのでしょう。

最近、日本はキナ臭い状況で、こういう音楽が出てくるには十分な土壌だと思うのですが、出る杭は打たれる風潮と、アイドル全盛という状況もあり、難しいかな。

憲法を解釈だけで変えよう、というやり方は良くない、という人たちは多いのですが、現状の日本の民主主義では、次の選挙で投票するぐらいしか国民の役割って無いんですよね。

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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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