ビリー・ブラッグはそんなにたくさん聴いたわけではないし、正直その歌詞の中身を含めて正しく理解できているわけではないけれど、その表現姿勢にはとても好感を持っている。 このアルバムは1986年の3作目。 政治的な歌を激しく、しかもエレキ・ギター1本で歌うことから当時は「パンク・フォーク」とか「一人クラッシュ」などと呼ばれ、曲によってはパーカッションやヴァイオリンやトランペットが入ったりはするものの基本はドラムレスのエレキ・ギター弾き語りだ。 そもそもビリーはパンクに衝撃を受けてRiff Roughというパンク・バンドを結成するものの、見せかけだけのパンクに嫌気がさしてバンドを解散し、古いフォーク・ソングに傾倒していったそうだ。 フォーク・ソングと一言で言ってもいろんな人によってイメージするものは違うのかもしれないけれど、言葉本来の意味でのフォーク・ソング、すなわち民衆の歌。ラジオですらまだ普及されていないような時代に、教会や集会で歌われたような、誰もが一度で覚えてピアノやギターの伴奏だけでみんなで歌えるような歌・・・そんな影響を受けた、ついつい口をついて出てしまうようなわかりやすいメロディーや、どこか懐かしさを感じるような歌もこの人のとても魅力的なところ。 トランペットがかわいらしいThe Marriage、唱歌の伴奏のようなピアノが懐かしさを感じさせるHoney, Im A Big Boy Now、古いカントリー・ソングのようなマンドリンやスライド・ギターが素敵なWishing The Days Away、そしてThe Home frontやトラディショナルのThere Is Power In A Union。 また、Levi Stubbs' TearsやThe Warmest Roomは実はけっこうソウルっぽかったりもする。 少し異質なのは一曲目、ポップなメロディーのGreetings To The New Brunetteはちょっとネオアコっぽい雰囲気。 この曲には当時ザ・スミスで人気絶頂だったジョニー・マーや、コーラスにはカースティー・マッコールも参加しています。 ゴリゴリとハードで荒々しいヴァイオリンがかっこいい2曲目Train,Trainはパンク・バンド、カウント・ビショップのカバー。 そしてビリーの真骨頂はやっぱりIdeologyやHelp Save The Youth Of Amarica みたいなゴツゴツザラザラとした手触りの政治的なメッセージを込めた曲。まさに「一人クラッシュ」の面目躍如。
Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。 “日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。 自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。
>フォーク・ソングの、その最も鋭く、最も強靭な、民衆の武器たるスピリッツを抽出
そうなんですよね。めっちゃわかりやすい解説、ありがとうございます。
そもそも歌は、瓦版的情報伝達の手段のひとつであり、民衆の力であり救いであったということを、ブルースやジャズ方面ではなくもっとさかのぼって掘り下げていった人だと思います。
60代云々の件については、僕は、あの世代が闘いの敗北を自分たちの世代の青春といっしょに完結させちゃって次の世代に残さなかったことが、シラケの70年代・ケーハクの80年代をつれてきたととらえています。
僕たちの世代は、思いそのものがクサいものダサいものとしてフタをされてきましたから、もちろん自省も込めてですが、闘いには厳しい環境だったと思います。
60代への揶揄は、既得権益にしがみついて自分たちだけ逃げ切ろうとしないで、若い頃の思いがホンモノならば今一度声をあげてほしい、というあの世代へのうらやましさの裏返しのひねくれた愛情や期待だと思ってください。