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♪浮世の夢 -MyVintage(61)-

浮世の夢
浮世の夢 / エレファントカシマシ

Released:1989

同世代のミュージシャンというのはどこか強烈なシンパシーを感じてしまう人が多い。
同学年なら斉藤和義、ウルフルズのトータス松本やソウル・フラワー・ユニオンの中川敬、そしてこのエレカシの宮本君。
少年時代~思春期にかけて、同じようなものを見て、同じようなことに感動したり興奮したりしてきたんだろうな、という気が何となくしてしまうのだ。こちらの勝手な思い込みなのかもしれないけれど。

エレファントカシマシがデビューしたのは1988年。
そしてこの3rdアルバムが出たのが1989年。
その年僕は学校を出て最初の会社に就職して毎日へっとへとになっていた頃だった。
そしてその2年後、僕は次の就職先を見つけるでもないままにふらりと会社を辞めて、3年近くの無職時代を過ごしたのだった。
この無職時代の生活というのが、ある意味気まま、そしてある意味ではどん底の底辺の毎日で・・・。
何しろヒマ。することがない。
四畳半一間の部屋で毎日うだうだゴロゴロ過ごしていた。
一日に何かひとつでも用事を済ませればもうその日の仕事はお終い、って感じで、今日の用事は買い物、今日の用事は洗濯。今日の用事は図書館へ本を返却する・・・みたいな。
天気のいい日は散歩して、河原で寝そべりながら本を読んで、金がなくなってきたら日雇いのアルバイトに出て、たまに学生時代に縁があった劇団の手伝いをしたり、まぁそんな感じの毎日。
丸一日人間とまともにしゃべることがないこともたびたび。
今思い返しても自分が何をしたかったのかまるでわからないのだけれど、不思議とそのうち何とでもなるだろうと思っていた。とにかく飽きるまで何にも目指さないで、何にもしないでいてやろうと思っていた。
その一方で、みんなまともに働いているのに自分はいったい何をしているんだろうかと落ち込むこともしばしば。

 世をあげて 春の景色を語るとき
 暗き自部屋の机上にて
 暗くなるまで過ごし行き
 ただ漫然と思い行く春もある
     (「序曲」夢のちまた

この『浮世の夢』を聴くと、その頃のことが思い出されてしまう。
というか、まんまこんな生活だったのだ。

その後、僕は1994年の秋に今の会社に就職した。
就職した理由は、さすがにそろそろまともに働いてみようか、という気持ちになったこと。
それから、当時長いこと付き合っていた女性に「いいかげん働いてくれないと親にも紹介できへん。」と泣かれたこと(それはつまり、今の奥さん)。
それからなんだかんだと早や20年。
20年っていえばかなりの年月ですぜ。生まれた赤ん坊が成人するくらいの。
自分でも意外なくらいまともにやっているのでびっくりしているのだれど、それはあの茫洋とした3年間があったからこそなのだと思っている。
あんだけプラプラしたのだから、まともに働くことが実に楽しい、っというと変だけれどもそんな感じ。

エレファントカシマシも、このアルバムの後さらにパッとしないアルバムを2作発表した後にレコード会社をクビになり、移籍した先で一念発起、『ココロに花を』というとてもとっつきやすい作品で一気にブレイクしてそれから18年。
すでにアルバムは18枚も出していて、しかも出すごとにちゃんと売れているんですね。
あの珍奇でクレイジーにのたうちまわるような音楽を演っていたエレカシがまともになって離れてしまったファンもたくさんいたけれど(そういう僕ももはや全作追いかけるようなファンではないけれど)、なんとなくわかる気がするんですよね。
まともにやってみたら意外とまともに評価されてしまった。変わり者だと自分では思っていたけれど、あ、こんなふうに力まずにやればちゃんと普通にできるんじないか、みんな喜んでくれるじゃないか、、、今までなんてひねていたんだろうか・・・みたいな気分。
さすがに昔のような棘はなくなってしまったけれど、だからといってまったく日和ったわけでもなく、今も宮本君は宮本君らしい歌を歌っている。それがとてもうれしい。


このアルバムはまだそういう境地になる前の、偏屈で変わり者の宮本節が全開で、聴くものを選ぶようなところがある。
春に背を向けた暗い部屋の中で暗澹とした気持ちを抱え込んでいるようなうつらうつら、ちょっと自暴自棄にはしゃぎながらほんの少し寂しさが顔を覗かせる上野の山
GT珍奇男の2曲はぶっとびの極地。ふつうこんな曲、メジャーのレコード会社ではレコーディングしない(笑)。
そして能天気な浮雲男は、今もいいお天気の日に空を見ながらタバコを吸っているとふと思い出してしまう。
そう、タバコの煙は雲になるんだよな。

最後の2曲、月と歩いた冬の夜は圧巻。

そして、今妙に心にしみるのはこの曲。

 これも浮世と生きるなら
 生きてゆくなら
 笑顔絶やさず行くもいい
 行くもいい
     (見果てぬ夢

笑顔絶やさず行くもいい、か。




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コメント

[C3432]

ピーチさん、古い記事にコメントいただきありがとうございます。
若さ故の強情というか偏屈というか、そういうことってありますよね。
僕も後で知ったんですが、宮本さんは幼い頃合唱団にいて、才能を買われて童謡歌手としてレコーディングまで経験しておられるそうで、元々歌の才能は折り紙付きだったんですね。
いろいろ巡って、今回昭和の歌のカバーアルバムを出したというのもなんとなく納得です。
そのまま真っ直ぐ育っていてもきっとどこかで行き詰まったんでしょうし、結果的には回り道が歌の味になったのでしょうね。
  • 2021-06-21 21:48
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3431]

こんにちは。私は3月に毎日新聞で宮本氏のインタビューを読んでから、どういう人なのか関心を持ちました。話題のカバーアルバムはとても良かったですが、YouTubeで聴いたエレファントカシマシの初期の曲は私にはとても聴きにくくて、おまけにライブはかなり緊張感あふれるものだったことを知り驚きました。テレビ出演では落ち着きの無い人に見えました。良い曲もたくさんありますから、なんだか理解できなくてロッキング・オン・ジャパンの「風に吹かれて」や続編のインタビュー集を買って読んで宮本氏の人物像や考え方がだいぶわかりました。
でも今回、goldenblueさんのご自身の経験を踏まえた記事と解説を読んで、初期の聴きにくさの秘密がとてもよくわかりました。最初からもっと素直に
は出来なかったのですね、宮本氏は。レコード会社の契約解除がなかったら
才能開花もなかったでしょうし、一般的な社会人をして生きるのは大変そうなので、契約解除で気がついたことは良かったのですね^^; 長々と失礼しました。とてもよく理解できたので、うれしかったものですから^^
  • 2021-06-18 13:16
  • ピーチ
  • URL
  • 編集

[C2208]

mono-monoさん、ご無沙汰です。お元気そうで。
そうそう、宮本君のヴォーカルの迫力もすごいけど、バンドの音、シンプルでぶっきらぼうな演奏だけど荒々しくてかっこいいですよね。
mono-monoさんとエレファントカシマシというのは意外な気もしますがわかる感じもします。

うーん、それにしてももう25年ですよ。どーしましょー(笑)。

[C2207]

このアルバム大好きですごい聴きました。
それからもう20年前たつなんて。
びっくりです。

フェスで彼らを偶然みて、宮本さんが客とののしりあってるのを見て、カッコイイ!、と思いこのアルバムを手にしました。
ボーカルのレベルにボリュームを合わせて聴いてると、グワーってバックの音が上がってくるのにはビックリしました(笑)。

[C2206]

名盤さん、毎度です。
女の人の涙には勝てません、というとかっこいいですが(笑)、奥さんの記憶の中では泣いたことは「なかったこと」になっているかもしれません。
まぁいいきっかけだったとは思います。
潮時を逃していたら今も無職でのたうちまわっていたかも、と思うこともあります。若気の至りで辞めてちゃんと再就職できたのはラッキーでした。

[C2205]

プロ志向のバンドマンだった僕は、就職する気など全くない大学生だったのですが、当時付き合ってた彼女に泣かれて就職してしまいました。
音楽は続け、結局その会社はわりとすぐに辞めてしまったのですが。
泣くんですよね、女ってそういう時。

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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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