幼い頃から教会でゴスペルに親しみ、ハワード大学ではクラシックを学んだというダニー・ハサウェイの73年の4作目のアルバム『愛と自由を求めて』は、弦楽団を交えたインストの I Love The Lord; He Heard Me Cry (Parts I & II) で始まる。 クラシックを思わせる荘厳で起伏に富んだ調べは、やがて自由への祈りを込めたSomeday We All Be Freeへと連なっていく。(I Love The Lord; He Heard Me Cry (Parts I & II)~Someday We'll All Be Free) いつ聴いても感動する名曲だけれど、ちょっと疲れ気味の晩秋に冷たい空気に触れながら聴くとさらに心が洗われるような気がするんだな。どこまでも伸びていく美しいメロディー、哀しみや憤りの感情を押し留めて願いへと昇華させていく音楽。 美しい。 なんだか泣けてくる。
代表曲であるSomeday We All Be Freeや、ボーナス・トラックとしてラストに収められたLord Help Me の印象が強くて、このアルバムにはゴスペルっぽい重さの印象が強いけれど、各楽曲はダニーの活動の集大成的にバラエティー豊かだ。 コーネル・デュプリーのギターのカッティングがカッコいいフュージョン系のファンクなインスト・ナンバーValdez In The Country、The Ghettoの続編のような重いファンクのThe Slums、ジャズっぽいセッション的感覚もあるCome Little Childrenあたりには、黒人としてのアイデンティティや伝統の継承と発展への意識が強く現れているし、どすんとヘヴィでブルージーなI Love You More Than You'll ever Knowにしてもそう。 ホンキートンク調の弾むピアノやチューバやクラリネットが楽しいMagdalenaではまだジャズが成立する以前に黒人たちに愛された音楽のような懐古っぽさを新しさとして捉えるような雰囲気もあり、ダニーの音楽的姿勢ー根っこのところで人々の暮らしや人が生きる根源的なものをしっかりと持ちつつ、新しいものを取り入れていくーがよく現れているように思う。 一方で、どこまでも伸びていくような晴れやかなメロディーのFlying Easyや、コンガの音がかわいらしいラブ・ソングのLove, Love, Loveは、ビートルズにも通じるようなポップさと高い精神性がある。 そしてオリジナルアルバムでは最終曲にあたるリオン・ウェア作のI Know It's Youでのソウルフルな歌唱。後のブラック・コンテンポラリーにも大きな影響を与えたような洗練されたバラードだけど、これがもう、ものすごくグッとくる。甘いラブ・ソングなんだけど、誰かを好きになればなるほどどこか満たされない気持ちが残ってしまうようなせつなさや淋しさがつきまとってしまうような感覚ってあるよね、なんて思ってしまう、そんな感じ。
Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。 “日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。 自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。
ありますねー、聴いた時期によってその良さが感じ取れたり感じ取れなかったり。
このアルバム、最初はちょっと散漫な気もするかもしれませんが、ひとつひとつの曲はすごくいいです。
今ならきっと気に入っていただけるのではないかと思います。