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♪FRAGILE -My Vintage(73)-

Fragile
Fragile / Yes

Released:1971

イエス、ピンクフロイド、キングクリムゾン・・・10代後半の頃、ひと通りプログレを聴いた。
ハードロックやヘヴィメタルもたくさん聴いた。
その頃はとにかく、音圧が高くて圧倒的な音楽ならなんでも大好きだった。気分で言えばとにかく「打ちのめされたかった」のだと、今になってそう思う。打ちのめしたかった、のではない、打ちのめされたかったのだ。
圧倒的な音楽の前で、自分がちっぽけな存在であることを確認したかったのだろうか。
今、そういう音を聴いてもあまり心に響くことは少なくて、つまりは十代特有の一過性の熱病のようなものだったのだろうと思うのだけれど、そんな中で今でもイエスだけはちょっと別格。

なんといってもRoundaboutだ。
繊細でクラシカルなスティーヴ・ハウのギターで幻想的に始まり、手数の多いクリス・スクワイアのゴツゴツしたベースが入ってきて、透明感のあるジョン・アンダーソンの歌。ワン・コーラス終わった後ぐいぐいと加速していくビル・ブルーフォードのドラム、スペイシーな音色でキラキラした合いの手を入れるリック・ウェイクマン。曲はブリッジのリフを越えてどんどんと熱を帯びながら強度を強めていく。3分20秒過ぎからの怒涛の展開、ギターとキーボードのリフの応酬とジョン・アンダーソンの歌はまるで暴風雨とそれに翻弄される小舟みたい。5分過ぎ、穏やかな凪の後、さらにパワフルなリフとソロのインプロビゼーション、そして再びテーマ。
トータル8分半の長尺を、息もつかせずぐいぐいと引き込んでいく圧倒的な演奏。これはもう完璧としか言いようがない。
で、聴き終わったあとはとてもスキッとした気分になれる。
モヤモヤと沈殿した澱を強い風と水で洗い流すみたいな感覚、心の排水管清掃、みたいな。

このアルバム、この見事なバンド・アンサンブルが聴けるのは、Roundaboutの他、Southside of the SkyLong Distance RunaroundHeart Of The Sunriseの4曲のみ。他の曲は各メンバーそれぞれのソロ・プロジェクト的な楽曲が1曲ずつ収められている。
リック・ウェイクマンによるブラームスの交響曲の多重録音のCans And Brahms、ジョン・アンダーソンのコーラスが幻想的なWe Have HeavenFive Per Cent For Nothingはビル・ブルーフォードによるジャズ・ロック的なリズムの小品で、The Fishはクリス・スクワイアの主導によるもの。そしてスティーヴ・ハウのスパニッシュ趣味がよく出たMood For A Day
これら各メンバーのソロ的な曲がたくさん収められていることが、緊迫した世界観が続いて息が詰まりそうになることの多いこの手のアルバムに全体として山あり谷ありの起伏をもたらしていて僕は好き。
これらの曲はそれぞれのプレイヤーが際立った個性と卓越した技術を持ったを持った強者たちである証。
けれど、技術だけでは人が感動する音楽は生まれない。そこに何かがスパークしたときにだけ宿るある種のマジック。
これらの小品からは、そういう音楽が持つマジックのタネを少し垣間見るような気がするんですよね。

それにしても、まさに打ちのめされるような、圧倒的な存在感の音楽だな。
この快感は何ていうんだろうか、少なくとも何らかのメッセージへの共感ではない、そして暴力的な衝動の代行消化でもない、敢えていうならば工学的な快感とでもいうべきか。
この快感に近いのはロックではなくむしろジャズに多くて、チャーリー・パーカーやエリック・ドルフィーやウェザー・リポートを聴くときの感じに近いかな。、或いはブレッカー・ブラザースの「ヘヴィ・メタル・ビ・バップ」や、パット・メセニーとオーネット・コールマンの「80/81」や「ソングX」あたり。
ジグザグ型の波形を描きながら乱高下する旋律とも呼べないような旋律と、大地を揺るがす地鳴りのようなリズム。
まるででっかいブルドーザーやローラー車がどんどんと土を削り、クレーン車が鉄球でビルをたたき割ったり器用に鉄骨を運び上げたり、そういうものをワクワクしながら眺めている少年のような気分になる。重機による圧倒的な破壊力の快感、そして緻密で繊細な作業をこともなげにやってみせるスリル、それを眺めている心地よさ、みたいな感覚。
普段よく聴くタイプの音楽家が、パン屋さんや料理人みたいなものだとすれば、彼らは工事現場の腕利き職人みたいな感じだろうか。
そんな卓越した技術による圧倒的な演奏の渦の中に包まれるスリルと充足感。
音楽にはそういう種類の快楽も確かに存在するのだと思う。




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コメント

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ハウのエレキギターは個人的には世界一です
先日来日した時Roundaboutをやってましたがやっぱりすごく良かったです
最もハウに関してはAsiaでの分かりやすくポップなプレースタイルが1番好きなんですけども
鍵盤のジェフ・ダウンズが大好きなのもあると思いますが

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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