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♪BEGGARS BANQUET -My Vintage(105)-

Beggars Banquet
Beggars Banquet / The Rolling Stones

Released:1968

 過酷に働く労働者に乾杯
 生まれた身分の低さに乾杯
 善なるものにも邪悪なものにもグラスを掲げて
 地の塩に乾杯しよう
 下っ端の兵士たちのために祈りを
 背中も軋む彼らの任務に敬意を
 妻と子供たちにも祈りを
 灯をともし土地に縛りつけられた

 顔のない群衆を見ていると頭がくらくらしてきたんだ
 灰色と、白と、黒の大衆を見ていたら
 それはとんでもなくリアルさに欠け
 あまりにも奇妙だ

 過酷に働く労働者に乾杯
 その他大勢とひとからげにされてしまった人たちに乾杯
 揺らめく100万もの人たちについて考えよう
 指導者を望んだにもかかわらずギャンブラーを戴いてしまった人たちのことを
 棄権する有権者のことも考慮に入れるべきだ
 彼の空っぽの瞳に映るのは奇妙な美女たちのショウ
 グレイのスーツをまとった汚職政治家たちのパレード
 選択肢は癌で苦しむか、骨髄麻痺で苦しむか、ってとこだな
        (Salt Of The Earth

ローリングストーンズの最高傑作は?という設問があれば、僕は迷わずこの「Beggars Banquet」を選ぶ。50年のストーンズの歴史の中でエポック・メイキングな作品やターニング・ポイントになった作品はいくつもあるけれど、やっぱりこのアルバムだけは別格中の別格だと思う。
こんなグレートな作品に対して一体何を書こうか、なんて途方に暮れながら改めて歌詞を繰っていたときに、この「地の塩」で歌われている中身に軽いショックを受けた。
えっ?これって今の話?
“指導者を望んだにもかかわらずギャンブラーを戴いてしまった人たち”とか“彼の空っぽの瞳に映るのは奇妙な美女たちのショウ”とか、まるで2010年代の日本そのものじゃないか。“過酷に働く労働者に乾杯しよう”とか“下っ端の兵士たちのために祈りを 彼らの任務に敬意を”というフレーズも、原発で働く労働者や集団的自衛権にからむ自衛隊のことを歌っているようにすら聞こえてくる。
“とんでもなくリアルさに欠け あまりにも奇妙だ”と歌われる蠢くようなネットの世論。
ミック・ジャガーっていう人は予知能力者か?
いや、そんなはずはない。
それはつまり、ミックが1968年にロンドンで感じたことと現代の日本で起きていることに大差がない、ということに他ならない。多少テクノロジーが発展したとて、人間のやることや社会を取り巻く問題というものは実はあまり進歩しない、ということなのだろう。ミック・ジャガーは、そういうことを人間の社会の変わらない本質的な病理として、ずばっと描いて見せたのだ。

このアルバムのことは、正直初めて聴いたときはよくわからなかった。
Sympathy For The Devilの圧倒的な迫力と、Street Fighting Manの攻撃的で反権力的なかっこよさにはしびれたものの、他の曲はどうも地味だな、と。どの曲もアコーステック・ギターがメインのスロウな曲が中心で、正直思っていたイメージのストーンズとは違っていた。
ただ、それらの曲に込められた、なにかとてつもないテンションみたいなものはビリビリと伝わってきて、よくわからないなりにこれは何かとてつもないレコードだと思った。
ブライアン・ジョーンズのボトルネックが美しいNo Expectations、一転してヘロヘロの嘆き節 Dear Doctor、いかにも下品でスケベで非道徳的な匂いがプンプンしているParachute Woman、そしてビル・ワイマンのうねるベースがなんともかっこいいダイナミックなJig-Saw Puzzleと続くA面。ロバート・ウィルキンソンの古いブルースをカヴァーしたProdigal Son、ぬめぬめとよからぬ企みが黒光りしているようなStray Cat Blues、再び田舎くさく古ぼけた感じのカントリー・ナンバー Factory Girl。そして、Salt Of The Earth

それから幾度となくこのアルバムを聴いてきたけれど、未だにこのアルバムの奥行きの深さは底知れずで、聴けば聴くほどに深みを増していくばかり。いざ何かを語ろうとしても、どこから切り出していいものやらって感じなのですが、ひとつわかったことは、これはストーンズ流のブルース・アルバムであるということ。
当時世間を席巻していた、いわゆるブルース・ロック・・・ブルースの進行をベースにしたインプロビゼーション中心の音楽に対して、彼らなりのブルース観を表現しようとしたのがこのアルバムではなかったか。やみくもに楽器を弾き倒しテクニックをひけらかすのがブルースじゃない、形式だけをなぞったものがブルースじゃない、もっと魂の奥底まで降りていったものだけが感じ、表現することができる魂の形としてのブルースがあるのだ、ということがミックやキースには見えていたのだと思う。いや、そのコンセプトはそもそもはブライアン・ジョーンズのものだったのかも知れないけれど。
デビューから前作までのストーンズには、悪ぶってはいてもちょっ とあどけないような純粋さ、ある種のひたむきさを感じることができる。黒人音楽好きのお兄ちゃんがビートルズに対抗して無理につっぱっているような感じで、今聴けばそれはそれなりにかわいらしく清々しくもあるのだけれど、それに比べてこのアルバムのどす黒さはどうだろう。
ここにはもうかわいらしいブルース好きの英国青年の姿はない。チンピラが本物のヤクザになったみたいな凄み、それこそ、悪魔に魂を売り渡して手に入れたような凄みがここにはある。
そしてこのアルバムでの深い表現を得て、ストーンズは唯一無比のロック・バンドになったのだという気がする。
ビートルズがそれぞれの夢を追いかけた末に空中分解してしまったのとは対照的に、ストーンズはブライアン・ジョーンズという犠牲を伴いながら、ブルースを自分たちのものにすることで、揺るぎない魂を手に入れたのだと思う。



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コメント

[C2911]

まともに聴いたのはこのアルバムだけです
Factory Girlだけがお気に入りです
今もそうですけど音の隙間だったりゴスペル的な物だったり微妙に合わないなあと思いました
アフリカ的な物だったらManfred Mann's Earth BandやTrafficで事足りてるっていうのもあるかもしれません
間の取り方ならLed Zepplin変態フレーズはAsia,YesシンプルさならThe Vinesといった具合に自分の中でこれってものがないんです
ちょっと悪いですけど

[C2484]

名盤さん、こんにちは。
日常的に聴く機会が多いのは“Some Girls”と“Emotional Rescue”なのですが、ストーンズ50年の一番のピークはやっぱり68~72年、誰も異論はないと思います。
「地の塩」、僕は最初ピンと来なかったんですがジワジワと響いてきました。キース、出だしのヴォーカルも渋いですが、サビのコーラスもかっこいい。そして、このアルバム全編に渡ってアコギの音がすごくいいですよね。
  • 2015-02-13 08:40
  • goldenblue
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[C2483]

ストーンズは『ベガーズ・バンケット』から、正確にいうとこのアルバムの前に発売されたシングル「ジャンンピン・ジャック・フラッシュ」から化けたと思います。
ここから『メインストリートのならず者』までのオリジナル4作はもう僕にはたまらなく最高のロックです。
「地の塩」初めて聴いたとき、最初のキースのヴォーカルにとてつもなくグッときたのを今も覚えています。

[C2482]

LA MOSCAさん、こんばんは。
そう、おっしゃるとおり、特別ですよね。
初期、70年代、80年代、それぞれに大好きですが、これだけは別格だと思います。Let it Bleedももちろんかっこいいと思うしコンセプトとしては近いようで、でもどっか違うんですよ。気迫というか、魂というか、深度というか、うまく言えないけどそーゆーものの深みが違ってて、やっぱり別格です。
  • 2015-02-11 23:54
  • goldenblue
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[C2481]

mono-monoさん、こんばんは。
このアルバムの凄みというか迫力というか、やっぱりこれがストーンズの最高傑作ですよね。
80年代初め、Start me upとかUndercover of the nightとかで最初にストーンズを好きになった頃はもっとルーズで適当なワルっぽさが好きになったのですが、このレコードでのストーンズは本気で気合い入ってて、かなりビビりました。


  • 2015-02-11 23:48
  • goldenblue
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[C2480]

deacon_blueさん、こんばんは。
おっしゃるとおり、ストーンズはブルースに葬られずに転がっていった。それくらいミックやキースはしたたかだったということだと思いますよ。
したたか、というのはストーンズにとってはじゅうぶん誉め言葉だと思います。
  • 2015-02-11 23:36
  • goldenblue
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[C2479] 同じく

俺もコレが一番です。
というか、コレだけ特別だと思う。
『レット・イット・ブリード』と姉妹作みたいな雰囲気もあるし、
部分的にはそうも思うんだけど、やっぱりコレだけ他の作品と違う気がする。
「悪魔」が入ってるからって訳じゃないけど何かに憑かれてるカンジ。
曲は流れも含めてひとつ残らずサイコーだと思います。
  • 2015-02-11 22:18
  • LA MOSCA
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[C2478]

どうも。

Beggars Banquet、最高です。
このアルバムを大学の時に聴いてストーンズにのめりこみました。
ストーンズのイメージが変わりました。
結局、これとLET IT BLEED、メインストリートのならず者ばかり聴いてしまいます。

[C2477] 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

[C2476]

ezeeさん、毎度です。
ストーンズに関してはいろんなとこでいろんな人がいろんなこと言っているので、どっかの受け売りかも知れませんが(笑)、ほんと、世の中がお花畑だった頃にあえて泥まみれのブルースにむかっていったのがスゴい!と思います。
ここらで一発かまさなきゃ俺らもヤバいかも、っていう気迫も、誰もここまできわどくはでけへんやろ、っていう根性もビシビシ感じます。


  • 2015-02-10 23:48
  • goldenblue
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[C2475]

まいどどす。
考察が深いっすねー 流石❗️
私もコレとエモーショナル・レスキューを、多分一番聴いてます。
フラワーとか、ヘチマとか言わずに、ここで泥塗れになってくれて良かった〜
  • 2015-02-10 20:11
  • ezee
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[C2474]

ひるのまりさん、こんばんはー。
実はこの記事、書くことに決めてから2ヶ月以上かかってました。書きかけては何か違うなぁー、みたいなことを繰り返して(笑)、超名盤ですから、何を書くのか、なかなかまとまりませんでした・・・
地味ですが、ほんまにどエライ作品だとつくづく・・・


  • 2015-02-10 01:38
  • goldenblue
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  • 編集

[C2473] 手をこまねいているうちに・・・

私も3週間ほど コレ聞いてます。
「悪魔を憐れむ歌」以外は 案外地味ということに
共感。
カントリーっぽい曲や ブルースっぽい曲が多く
ロッケンロールが少ないことに驚きます。
でも 現在の私は このほうが しっくりくるし
今が聞きどきなんだな~と思ってます♪
中身の濃い記事に ますます とりあげずらくなりましたよ。
  • 2015-02-09 20:55
  • ひるのまり
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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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