Beggars Banquet / The Rolling Stones Released:1968
過酷に働く労働者に乾杯
生まれた身分の低さに乾杯
善なるものにも邪悪なものにもグラスを掲げて
地の塩に乾杯しよう
下っ端の兵士たちのために祈りを
背中も軋む彼らの任務に敬意を
妻と子供たちにも祈りを
灯をともし土地に縛りつけられた
顔のない群衆を見ていると頭がくらくらしてきたんだ
灰色と、白と、黒の大衆を見ていたら
それはとんでもなくリアルさに欠け
あまりにも奇妙だ
過酷に働く労働者に乾杯
その他大勢とひとからげにされてしまった人たちに乾杯
揺らめく100万もの人たちについて考えよう
指導者を望んだにもかかわらずギャンブラーを戴いてしまった人たちのことを
棄権する有権者のことも考慮に入れるべきだ
彼の空っぽの瞳に映るのは奇妙な美女たちのショウ
グレイのスーツをまとった汚職政治家たちのパレード
選択肢は癌で苦しむか、骨髄麻痺で苦しむか、ってとこだな
(
Salt Of The Earth )
ローリングストーンズの最高傑作は?という設問があれば、僕は迷わずこの「Beggars Banquet」を選ぶ。50年のストーンズの歴史の中でエポック・メイキングな作品やターニング・ポイントになった作品はいくつもあるけれど、やっぱりこのアルバムだけは別格中の別格だと思う。
こんなグレートな作品に対して一体何を書こうか、なんて途方に暮れながら改めて歌詞を繰っていたときに、この「地の塩」で歌われている中身に軽いショックを受けた。
えっ?これって今の話?
“指導者を望んだにもかかわらずギャンブラーを戴いてしまった人たち”とか“彼の空っぽの瞳に映るのは奇妙な美女たちのショウ”とか、まるで2010年代の日本そのものじゃないか。“過酷に働く労働者に乾杯しよう”とか“下っ端の兵士たちのために祈りを 彼らの任務に敬意を”というフレーズも、原発で働く労働者や集団的自衛権にからむ自衛隊のことを歌っているようにすら聞こえてくる。
“とんでもなくリアルさに欠け あまりにも奇妙だ”と歌われる蠢くようなネットの世論。
ミック・ジャガーっていう人は予知能力者か?
いや、そんなはずはない。
それはつまり、ミックが1968年にロンドンで感じたことと現代の日本で起きていることに大差がない、ということに他ならない。多少テクノロジーが発展したとて、人間のやることや社会を取り巻く問題というものは実はあまり進歩しない、ということなのだろう。ミック・ジャガーは、そういうことを人間の社会の変わらない本質的な病理として、ずばっと描いて見せたのだ。
このアルバムのことは、正直初めて聴いたときはよくわからなかった。
Sympathy For The Devil の圧倒的な迫力と、
Street Fighting Man の攻撃的で反権力的なかっこよさにはしびれたものの、他の曲はどうも地味だな、と。どの曲もアコーステック・ギターがメインのスロウな曲が中心で、正直思っていたイメージのストーンズとは違っていた。
ただ、それらの曲に込められた、なにかとてつもないテンションみたいなものはビリビリと伝わってきて、よくわからないなりにこれは何かとてつもないレコードだと思った。
ブライアン・ジョーンズのボトルネックが美しい
No Expectations 、一転してヘロヘロの嘆き節
Dear Doctor 、いかにも下品でスケベで非道徳的な匂いがプンプンしている
Parachute Woman 、そしてビル・ワイマンのうねるベースがなんともかっこいいダイナミックな
Jig-Saw Puzzle と続くA面。ロバート・ウィルキンソンの古いブルースをカヴァーした
Prodigal Son 、ぬめぬめとよからぬ企みが黒光りしているような
Stray Cat Blues 、再び田舎くさく古ぼけた感じのカントリー・ナンバー
Factory Girl 。そして、
Salt Of The Earth 。
それから幾度となくこのアルバムを聴いてきたけれど、未だにこのアルバムの奥行きの深さは底知れずで、聴けば聴くほどに深みを増していくばかり。いざ何かを語ろうとしても、どこから切り出していいものやらって感じなのですが、ひとつわかったことは、これはストーンズ流のブルース・アルバムであるということ。
当時世間を席巻していた、いわゆるブルース・ロック・・・ブルースの進行をベースにしたインプロビゼーション中心の音楽に対して、彼らなりのブルース観を表現しようとしたのがこのアルバムではなかったか。やみくもに楽器を弾き倒しテクニックをひけらかすのがブルースじゃない、形式だけをなぞったものがブルースじゃない、もっと魂の奥底まで降りていったものだけが感じ、表現することができる魂の形としてのブルースがあるのだ、ということがミックやキースには見えていたのだと思う。いや、そのコンセプトはそもそもはブライアン・ジョーンズのものだったのかも知れないけれど。
デビューから前作までのストーンズには、悪ぶってはいてもちょっ とあどけないような純粋さ、ある種のひたむきさを感じることができる。黒人音楽好きのお兄ちゃんがビートルズに対抗して無理につっぱっているような感じで、今聴けばそれはそれなりにかわいらしく清々しくもあるのだけれど、それに比べてこのアルバムのどす黒さはどうだろう。
ここにはもうかわいらしいブルース好きの英国青年の姿はない。チンピラが本物のヤクザになったみたいな凄み、それこそ、悪魔に魂を売り渡して手に入れたような凄みがここにはある。
そしてこのアルバムでの深い表現を得て、ストーンズは唯一無比のロック・バンドになったのだという気がする。
ビートルズがそれぞれの夢を追いかけた末に空中分解してしまったのとは対照的に、ストーンズはブライアン・ジョーンズという犠牲を伴いながら、ブルースを自分たちのものにすることで、揺るぎない魂を手に入れたのだと思う。
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Factory Girlだけがお気に入りです
今もそうですけど音の隙間だったりゴスペル的な物だったり微妙に合わないなあと思いました
アフリカ的な物だったらManfred Mann's Earth BandやTrafficで事足りてるっていうのもあるかもしれません
間の取り方ならLed Zepplin変態フレーズはAsia,YesシンプルさならThe Vinesといった具合に自分の中でこれってものがないんです
ちょっと悪いですけど