そして、このアルバムも1964年のリリースだから、今年で50年。 My Vintage50枚目というこじつけもあって(笑)。 ビートルズのアルバムで一番好きなものを選べと言われれば、断然これを選ぶ。 前作『A Hard Day's Night』では全曲オリジナルだったのに今回はカバーが6曲も入っているとか、レノン=マッカートニーの曲も練り込み不足で過渡期的だとか、そもそも大ブレイク中の超ハードスケジュールの中でクリスマス商戦に間に合うようにやっつけ仕事で録音されたから雑で中途半端だとか、全体としては「地味」「いまいち」という評価が多いこの作品。 ビートルズの価値を「明るく元気で健康的な少年たち」とするならばこのアルバムの感触は違和感があるだろうし、「レノン=マッカートニーの作り込まれた楽曲や革新的実験的なサウンド」に置いた場合にはまったく物足りないだろう。 実際、中期以降の革新的な作品は別にしたとしても、アルバムトータルの出来としては前作やこの後の『Help!』の方がバランスがいい。 けど、僕は逆にこのアルバムのとっちらかり方や作りこまれていなさ感が好きだな。 ロック・バンドとして脂がじゅうぶんにのった快活さと、各メンバーの個性がぐっと発露されてきた感じがまぜこぜになっている幅の広さがいいのだ。 そして、過去3枚の「明るく健康的」なイメージを否定するような重苦しさとふてぶてしさが見え隠れしているところ。
いきなりのコーラスに続いてアコギのカッティングから始まるNo Reply 、ボブ・ディランからの影響が指摘されるI'm A Loserのレノン作品2曲は、明らかに今までの楽曲とは異質なずしっと重い感触がある。続くBaby's In Blackも、ポールとの共作ながら、その印象はざらざらとして苦々しい。 アルバム後半のジョン作のI Don't Want To Spoil The Partyとポール作のWhat You're Doingでも不機嫌で内省的な感じが窺える。 「もうあいつらの要求に合わせるのはやめだ!」「やってらんねー!自分たちのやりたいことをやりたいようにやらせてくれよ。」「いつまでも笑うてへんでー。」と。 暗く不機嫌な顔つきでカメラに収まったジャケットにもそういう態度が表明されている感じ。
一方、たっぷり6曲も録音されたカバー曲は、チャック・ベリー、リトル・リチャード、バディ・ホリー、ドクター・フィールグッド&ジ・インターンズ、そしてカール・パーキンスが2曲。 ここには当時ライブ・バンドとして確かな演奏力を発揮していたビートルズの姿が刻まれている。ファーストやセカンドでいくつか取り上げていたガール・グループも中途半端なスタンダード曲(Taste of HoneyとかTill There was You、ね)もなしで、ウケを狙わずに彼らが本当に大好きでずっと演り続けていたような曲が選ばれたのではないかという気がする。 ジョンのRock and Roll Musicはパワーといいキレといい圧巻。それに負けず劣らずなのがポールのMedley: Kansas City/Hey, Hey, Hey, Heyで、この頃まではポールもロックンローラー的なノリをばんばん前面に出していたわけで、これがもうめちゃくちゃにかっこいい。 リンゴが歌うHoney Don'tとジョージが歌うEverybody's Trying To Be My Babyは共にカール・パーキンスの作品で、リンゴのカントリーっぽさ、ジョージのロカビリーっぽさが二人のキャラにしっかりはまっていていい感じ。 ジョンのシャウトがあきれるくらいにかっこいいMr. Moonlight。これと対をなすようにオールディーズっぽく配置されているI'll Follow The Sun は僕はずっと長いことカントリーの古い名曲だと思っていたのだけれど、実はポールの作品だと知って驚いた。 そしてもう一曲のカバーは、バディ・ホリー&ザ・クリケッツのWords Of Love。このかわいらしいメロディーと美しいハーモニーは、一般的なビートルズっぽさの原型になった感じがあって、その雰囲気を持ったオリジナルはEight Days A WeekとEvery Little Thingの2曲、ということになる。この辺りはまぁファン・サービスというか、本来シングル用で準備したもののI Feel Fine/She's a Womanに軍配が上がってこの位置、という感じだろうか。 Every Littele Thingなんかは、もし「赤盤」に拾われていればかなりの人気曲になったような気がするけど、このアルバムから「赤盤」に収録されたのはEight Days a Weekのみ。そのことがこのアルバムの地味さを象徴しているし、「表」のビートルズでないのは確かなんだろう。 けど、極端なことを言えば、この4作目が愛想笑いを振りまくような作品だったとしたらその後のビートルズはなかったんじゃないか。アイドルとしてファンの求めるものにおもねるのではなく、やりたいことをやりたいようにやる、そういう意識がここにはある。
まぁそれはともかく。 僕がビートルズを最初に聴いたのは、ラジオからだった。 ジョンが射殺された1980年、中学2年の頃、ジョンを悼んであっちこっちのFM局でビートルズ特集をやっていたのがきっかけで、最初はご多分に漏れずYesterdayやLet It BeやHey!Judeを気に入って、カセットテープに録音したFM音源をテープが伸び伸びになるまで聴いて、ベスト盤を聴いて、そのうちビートルズなんて甘っちょろいと遠ざけるようになって、やがていろんなバンドを聴いた後でやっぱりビートルズってすごいんだ、とアルバムを1枚ずつ遡って聴くようになって。 今の若い人たちがどのようにビートルズに出会うのかはよくわからないけれど、かっぱえびせんやガーナチョコレートみたいに、「懐かしさ」ではなく「基本形」として、これからも万人から支持され続けるような存在であり続けていくような気がする。
LA MOSCAさん、毎度です。
このシリーズ、自分的にはど真ん中を投げてるつもりなのですが、どうもちょっとボール球くさい選択になっていることが多いみたいですね。。。まぁよく言えば渋い選択?
これ、いいと思うんだけどなぁー(笑)。
でも、中学生が少ない小遣いから買い揃えていこうとするとやっぱり後回しになるんでしょうね。
Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。 “日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。 自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。
このシリーズ、自分的にはど真ん中を投げてるつもりなのですが、どうもちょっとボール球くさい選択になっていることが多いみたいですね。。。まぁよく言えば渋い選択?
これ、いいと思うんだけどなぁー(笑)。
でも、中学生が少ない小遣いから買い揃えていこうとするとやっぱり後回しになるんでしょうね。
最初イマイチと思ったものが、年とって再聴するとめっちゃよかったりすること、よくあります。
「サージェント・ペパーズ」あたり、今聴くとすごくいいのかも、という気がしてきました。