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♪THE AMAZING BUD POWELL -My Vintage(68)-

Amazing Bud Powell 1
Amazing Bud Powell 1 / Bud Powell

Recorded:1949-51

20代の頃、ジャズなんていうのは、おしゃれな人たちがおしゃれな格好をして得体の知れないカクテルか何か飲んでいるバックで流れているどうでもいいような音楽だ、と思っていた。
タイクツなフォー・ビートとお決まりのソロ・パート、自分にはまるで刺激のないどうでもいい音楽だ、と。
そんな僕の目からうろこを落としたうちの一人が、バド・パウエルだった。
なんじゃこりゃ?
今まで思っていたジャズとはまるで違う、なんていうんだろうか、このゴツゴツとした質感は。
それぞれの楽器が好き勝手に自己主張していてぶつかりあっているバトル感、荒々しさ。でもいわゆるフリー・ジャズのように前衛のための前衛のようなめちゃくちゃな演奏ではない。一本シュッと通ったラインに導かれるように全員がぶつかりながら疾走している感じは、むしろロック!それもパンク!
そういうエネルギーの塊に一気に惹かれた。

なんといってもUn Poco Locoだ。
ハイテンションなドラムにのせて、のたのたとせわしなく動き回るベース、それに独特の野暮ったい口調で歌うようなピアノ。これ、わけわからんけどすげーな、と。
ピアノ・ソロのIt Could Happen to Youだって、ただの華麗なピアノ・ソロではない。ゴツゴツと不器用で、あっちへ転がりこっちへ転がりする独特のタイム感。
そしてA Night in Tunisiaでは、後ろでお経のような呻き声が延々と聞こえる。
最初は何かのノイズだと思っていて、どうして消去できなかったんだろうと思っていたのだけれど、これがパウエル自身の声が漏れているものと知って、このクレイジーなピアノ弾きのことがますます好きになってしまいました。

この作品集「Vol.1」には1951年5月1日のセッションと、1949年8月9日のセッションが収めらていて、この3曲は51年のもの。メンバーは、バド・パウエルとカーリー・ラッセル(b)、マックス・ローチ(ds)のトリオ。
マックス・ローチ、すげえな。
そして残りの49年のセッションでのメンバーは、トミー・ポッター(b)、ロイ・ヘインズ(ds)と、ファッツ・ナバロ(tp)、ソニー・ロリンズ(ts)。
まずはファッツ・ナバロのトランペットや、トミー・ポッターのベースの疾走感がかっこいいWail
それから「異教徒の踊り」というタイトルどおりにエキゾチックなDance Of The Infidelsや、混沌と喧騒の中で突っ走る52nd Street Theme、全員が走りまくってる。
Bouncing with Budみたいなハッピーな演奏も悪くはないけれど、僕的にはこれはまとまりすぎていてもうひとつ面白みを感じないかな。

バド・パウエルのピアノ、とにかく音への魂の込め方が半端ない。
全身全霊を込めて弾く。まるでピアノに乗り移ったみたい、いや、ピアノそのものになりきっているようですらある。
ピアノという楽器のイメージとしては繊細で流麗でどこか上品なイメージをいつの間にか持ってしまっているけれど、ピアノの本当の名称は「ピアノ・フォルテ」、音楽記号のpとf、つまり弱さと強さの両方を兼ね備えた楽器なのであって、パウエルのピアノの音には、この楽器の本来の名称通りの弱さと強さがとても大きな幅で存在しているのだ。
じとっと汗が噴き出してくるような暑苦しさ、密室感、息のつけない緊張感。しかし、それと同時にどこか不思議な清々しさがある。やりきってる感、とでもいうべき、全身全霊を込めた開放感。エネルギー。
ジャズは、歌や歌詞がない分、そして定型がない分、尚更に「人間」がむき出しになる音楽なんだな、ということを存分に思い知らされた一枚でした。



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コメント

[C2259]

GAOHEWGⅡさん、こんにちは。
ロックやパンクとの親和性、あくまでも個人的印象ですが(笑)。パンク贔屓ですし。
ジャズのピアノといえば、キース・ジャレットやチック・コリアみたいに華麗なフレーズをテレテレ弾くものだと思っていたから、ぶっ飛びました。
  • 2014-06-02 22:56
  • goldenblue
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  • 編集

[C2258]

golden blue様 こんばんは

自分はビル・エヴァンスのワルツ〜などからジャズに入門しました。

なるほど、バド・パウエルがロックやパンクと親和性があると言われると説得力がありますね。斬新。

これがあるから
ドラッグで指が(本作ほど)動かなくなった「the Scene Changes」の存在感も引き立つのでしょう。

[C2257]

わんわんわんさん、こんにちは。
そんなにたくさん聴いているわけではないのですが、バド・パウエルの存在感はワン&オンリーだと思います。
他がいくらボロボロでも、いくつかの天才的な閃きと圧倒的な迫力があればOK。
そういう意味でもこの人の演奏はパンクに近いと思います。
  • 2014-06-02 08:13
  • goldenblue
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[C2256] Re: アメイジング

deaconblueさん、こんにちは。
海外の文学にもセロニアス・モンクにもいまいち疎いのですが、おっしゃることはなんとなくわかります。
ゴツゴツしたむき出しの表現、今これをやり通すのは難しいでしょうね。

  • 2014-06-02 08:08
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C2254]

バド・パウエルもまたドラッグにおぼれた一人で、しょーもない録音と神懸った録音の差が激しかったといわれております。
これはまさにタイトル通りの神懸ったアメイジングな録音ですよね。
  • 2014-06-01 21:38
  • わんわんわん
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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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