クレジットによると、このアルバムではボニー自身はあまりギターを弾かずにヴォーカルに専念したようで、そんな中でボニーのスライド・ギターがじっくり味わえるのが、9曲目のWrite Me a Few of Your Lines/Kokomo Blues。透明感があって味わい深くてかっこいい。これはミシシッピーのブルースマン、フレッド・マクダウェルの作品で、もう一曲古いブルースのカバーが、モーズ・アリソンのEverybody's Cryin' Mercy。 けだるいブルースではあるけれど、悲しいテーマの歌を歌っても悲壮感を感じさせないのがいいのです。 この時代、ボニーはほとんど自分で曲は書かずに古いブルースや同時代のシンガーソングライターの作品を取り上げることが多かったのだけれど、後にリンダ・ロンシュタットも取り上げた、エリック・カズのCry Like a Rainstormや、当時はまだまだ新進気鋭のライターだったジャクソン・ブラウンのI Thought I Was a Child、これも後にブル-ス・ブラザースの名唱があるランディ・ニューマンのGuiltyなど、このアルバムでも多くのシンガーソングライターの曲を歌っている。 I Gave My Love a Candleはジョエル・ジョス、I Feel the Sameはクリス・スミサーという、ともに前作『Give It Up』でも曲を提供している人たち。詳しくは知らないけれど、売れない時代を共にしていた西海岸の音楽シーンの同世代の仲間だったのだろうか。女だてらに男友達の中に紛れてギターをかき鳴らす若き日の彼女の姿が見える気がする。 このあたりの曲の渋さは、本当に当時20代前半の女の子の歌?と思っちゃうような深みがあります。 もちろんこれらの曲もとても魅力的なのだけれど、このアルバムのファンキーさを特徴づけているのが、女性アーティストのカバーの3曲だと思う。 オープニングのYou've Been in Love Too Longは、モータウンのマーサ&ヴァンデラスの1965年のヒット曲で、もっちゃりした原曲を実に切れ味のいいアレンジで演った秀逸なカバーだ。 3曲目のLet Me Inは50年代のヴォーカル・グループ、イヴォンヌ・ベイカー&ザ・センセーションズのカバーで、弾むリズムがめっちゃ楽しい一曲。ここではタジ・マハールがアコースティック・ベースを弾いて、フリーボがチューバを吹いている。このチューバのブォッ、ブォッ、ブォッ、ブォッってリズムがなんとも楽しくて踊りだしたくなります。 そしてB面の一曲目にあたる、Wah She Go Doなんてもう最高だ。これはトリニダード&トバゴのカリプソの女王、カリプソ・ローズがオリジナル。なんだかウキウキしてきますよね。 何度でも繰り返し聴きたくなる。めっちゃご機嫌。ニコニコしてきちゃうよね。
ボニーはこのアルバムの後、レコード会社の要請でブルースっぽい表現よりも歌の上手いシンガー的な部分を全面に出した意にそぐわない作品づくりを求められ、売れないまま徐々に活動は停滞し、86年の9作目を最後にレコード会社から契約を解除されてしまう。 3年間の沈黙と、アルコール中毒からのリハビリを経て、改めて自分らしさを取り戻して復活するのは89年の『Nick of Time』まで待たなければならなかった。 そしてその後は、自分らしさを失わない地に足のついた作品を今も作り出し続けている。 そんな彼女が、まだ最初の挫折をする前の輝きに満ちたこの一枚には、ボニー・レイットのらしさがたっぷりと詰まっている。 生きていることの楽しさも悲しさも滑稽さやおかしさも、全部が湧き出てきてなおかつ肯定的に響いてくる音楽。 こういう音こそをファンキーと呼ぶのかな、というような。
例えば、ジョエル・ゾズの”I give my love a Candle”は、オリジナルよりもずっと聞きやすいです。John Hallも自作をオーリアンズで演奏すると、ギターを全面に出してしまって、何だかな~、となりますが(例えば、Good Enoughなんか)、ボニーは上手なアレンジをして曲として成功してる。
GAOHEWGⅡさん、こんにちは。
ボニー・レイット、特に最初の3枚はいいです。さらっと心地よいブルースが味わえます。4枚目から80年代にかけてはちょっと路線がふらついている感じ、デニムが似合うのに無理に似合わない服を着せられている感じで、移籍後の復活後の「Nick of Time」「Luck of the Draw」は大人の雰囲気がめちゃくちゃ素敵です。
Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。 “日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。 自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。
そうですね、セカンドのジャケットとかふっくらしていますが、ずいぶんシュッとした顔つきになってきていますよね。
ジョエル・ゾスは聴いたことないのですが、エリック・カズの作品なんかでも本人のをあとで聴いて、ボニーのほうがしっくり来るように感じました。
自分にフィットする曲を選択するセンスも高いのでしょうね。後のアルバムでレコード会社に演らされた感のあるデル・シャノン「悲しき街角」なんかは、なんてことないものでしたから。