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♪CLOSING TIME -My Vintage(96)-

Closing Time
Closing Time / Tom Waits

Released:1973

どんより曇り空の休日、11月。どんどんと冬っぽくなってきました。
冬、寒いのは苦手で心も体も縮こまってしまいがちなんだけど、ひとつだけ晩秋~冬にかけて楽しいのは、お酒が旨いこと。真夏のクソ暑い日にうぃ~っ、と飲み干すビールもそれはそれで旨いんだけど、やっぱり本当においしいと思えるお酒は晩秋~冬です。焼酎、ワイン、日本酒。薀蓄垂れられるほど詳しくはないのだけれど、おいしいお料理とともにじっくりと味わうお酒はやはり格別です。
五臓六腑にしみわたる、っていうんですかね。
おいしいお酒のシチュエーションとして、たくさんの仲間でわいわいやるのも悪くはないんだけれどこれはビール的なうぇーい感であって、ほんとうにいいなぁ、と思えるのは気心知れた数人の仲間で飲むか、ひとり酒。
そしてできればいい音楽が鳴っていてほしい。
そういう意味で、お酒のあてにぴったり、特にひとり酒に最適なおつまみミュージックが、トム・ウェイツです。
後期のギターやホーンが唸りアコーディオンが叫ぶアヴァンギャルドな録音も好きなんだけど、やっぱりどれかに絞るとなるとこのファースト・アルバムなんですね。

Ol' '55
I Hope That I Don't Fall In Love With You
Virginia Avenue
Old Shoes (& Picture Postcards)
Midnight Lullaby
Martha
Rosie
Lonely
Ice Cream Man
Little Trip To Heaven (On The Wings Of Your Love)
Grapefruit Moon
Closing Time

真夜中の裏通りのバー、酔いつぶれた男。転がった酒瓶。煙草の吸い殻。
気怠くやるせないミュート・トランペットが響くVirginia AvenueMidnight LullabyLittle Trip To Heaven (On The Wings Of Your Love) あたりのジャジーな楽曲もあれば、Old Shoes (& Picture Postcards)みたいにディラン風のギター弾き語りもありで、ピアノ・マンの印象が強いけれど実はヴァラエティーに富んだ曲たち。
明け方の薄い灯りの中でひとり車を走らせるOl' '55、バーでの出会いを歌った小粋なI Hope That I Don't Fall In Love With You Rosieなんか意外にもギターがいい味を出しているし、唯一のアップ・テンポのナンバーでのガサツな感じにはIce Cream Manなんかは後のアヴァンギャルドさの片鱗が垣間見えたりする。
で、そんな曲の中で一際グッと来るのは、やっぱりピアノ弾き語りのMartha Grapefruit Moon
いやぁ、いいなぁ。五臓六腑にしみわたる。
切ないねぇ。
悲しみや、怒りや、嘆きや諦めやため息。
そういうものも含めて、過ぎてしまった過去の過ちを後悔したり、今の自分の姿を嘆いたりという歌が大半であるにもかかわらず、この音楽は美しいのです。
悲しみや怒りや嘆きや諦めを歌いながらも、どこかにそれでいいんだぜ、と肯定する視座がある。
いろんなことがあるけれど、全部ひっくるめて、それでいいんだよ、みんな大変なんだ、でもそれでいいんだよ、そういうもんなんだ。そんなことはおいといて酔っぱらってしまおうや。一夜明ければそんな苦い思いも消えてしまうさ。どんなことも、やがては赦せるようになるもんさ。
年老いた酔いどれのじいさんに、そんな風に諭されているような気持ちになれる。
あぁ、きっとそうなんだろうな。やがて何もかも赦せるようになる。だから俺のことも赦してくれよな、なんて気持ちになって、すっと肩の荷を降ろせるような感じになれる。

赦せるようになる。
音楽とお酒の素晴らしい共通点はそこなのかもね。
音楽は赦してくれる。そしてお酒も赦してくれる。
しんどい世の中で、赦してもらえる、存在を肯定してもらえることっていうのはとてもありがたいこと。
今はまだもう少し無理なんだけど、そんなふうに赦せる人であれたら、きっと思い残すことなく酔っぱらったまま天国へ行けるのかな。
そんなことを思いながら、もう一杯。
チリ産の安い赤ワインに、おつまみはホテイの焼き鳥缶。
安上がりでいいだろ(笑)。




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コメント

[C2393]

GAOHEWGⅡさん、こんばんは。
朝晩は冷えますね。先日コタツで初うたた寝をしたら汗びっしょりかいてしまいましたが。

お酒、普段はあんまり飲みません。
でも、言いたいことを無責任に言えなくなってくたせいでしょうか、だんだんお酒の機会が増えてきてしまっています。
いい音聴いて気持ちよい程度に飲んで(人と外で飲むとつい飲みすぎて愚痴っぽくなる)いい気分になれるならそれもよし、という感じです。

Marthaは泣けます。
40年ぶりの昔の恋人への電話。っていうシチュエーションだけで泣けます。
  • 2014-11-04 00:32
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C2392]

golden blue様 こんばんは

数日前、普通にストーブを付けてしまいました。
(ちなみに千葉県在住です)

自分はお酒は一人では飲まないのですが
(味わからないので)

トム・ウェイツを聴きながら飲むって
たしかに素敵な感じですね。

仕事終わりの晩酌のお供って感じでしょうか。

Martha 、ひさびさに聴きましたが
『Ol'man River』みたいな哀愁がたまりませんね。


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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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