Never Mind the Bollocks Here's the Sex Pistols / Sex PistolsReleased:1977
1984年、もう30年も前になるのだな。
この年は、僕の中で一番ヘヴィでどん底の年だった。
大阪の端っこの田舎町の高校に通う、大学受験を控えた高校3年生だった。
何だか何もかもに嫌気がさして億劫で、毎日ずっとイライラしていた。
全部ひっくり返してリセットしたいような気持ち。
何か決定的に嫌なことがあったというわけではない。ただ、いつもニコニコへらへらしていることが突然嫌になったのだ。
どちらかといえばそれまでは、ずっと真面目ないい子だったのだと思う。次男だったから兄貴が叱られてきたようなことは全部上手に切り抜けてきたし、勉強だって嫌いではなかった。友だちもたくさんいたし、まぁ女の子にはもてなかったけどそんな奴らはたくさんいたから、それは大きな問題ではなかった。
今思えばやっぱり「受験」というもののプレッシャーだったのか。いや、プレッシャーとは少し違うな。周りの物事全てが「受験」というシステムに振り回されていることにとてつもなく違和感を感じたというか、嫌気がさしたというか。
「ここ、よく試験で出ますから、押さえておくように。」という教師たち。知りたかったのはそんなことじゃなかったんだ。
「テストの結果で人生が決まってしまうから」と、そのことに疑問すら感じずにせっせとノートを取る友人たち。どうしてそんなに従順なんだ。おかしいと思っているのに従うなんて馬鹿みたい。
その一方で、友人たちはみんな自分のやりたいことを見つけて、それに向かってちゃんと努力して輝いているようにも思えた。
ジブンヒトリダケガナンニモデキナイシドコニモゾクシテイナイ・・・
エラソウナコトイッタッテナンニモデキナモシナイクセニ・・・
あいつら馬鹿だ。
ソウオモイナガラソンナヤツラニタダアワセテイルジブンハモットバカダ・・・
80年代の前半はまさにバブル前夜の浮かれた時代で、とにかく軽くて明るいことが絶対的な善だった。
真面目なことが「ダサい」とされ、少しでも心の内を明かして熱い思いやいろんな悩みを口にすれば「クサい」と言われ、本当の心の内や悩みを吐き出す場所なんてどこにもなかったのだ。
僕のモヤモヤはそうやって僕の心の中で封印され、人前ではいい奴ぶってばかりいた。媚びていた。独りになるのが怖かった。正直に悩みを打ち明けて嘲笑されるのが怖かった。みんなもっとまともで、自分だけがおかしいんだと思っていた。
そんなモヤモヤの中で、僕はロックに熱中していった。
ヒットチャートを賑わしていた英米のロックを聴き漁りつつ、古いロックの名盤と呼ばれるものを片っ端から探求していった。
ビートルズ、ストーンズ、ジミヘン、ドアーズ、ジャニス、ツェッペリン、ディープパープル、クイーン、エアロスミス。
で、そんな中で、なかなか手が出なかったのがセックス・ピストルズだったのだ。
今じゃピンと来ないかもしれないけれど、当時ピストルズは“極北”だったのだ。あそこまでいくとアブノーマルだ、というような。
何しろハードロック/へヴィーメタルの全盛時代だったから、友人たちがこぞって「かっこいい」と叫ぶのは、早弾きギタリストや早くたくさん叩けるドラマーやハイトーンでシャウトできるヴォーカリストのいるバンドばかり、つまり技術の巧さこそが絶対の評価基準だったから、パンクなんて箸にも棒にもかからないゴミみたいな扱いを受けていたのだ。下手くそ、雑音、ゴミ。パンクを聴いている、というだけで指を刺され磔獄門の刑に処されるような。
だから、パンクを聴くことはとても勇気がいることだった。
「おまえ、パンクなんて聴いているのか?」と後ろ指をさされる覚悟が必要だった。
たかが聴く音楽くらいで大袈裟な、と思う方もいるかも知れないけれど、10代の、まだ何も依るべきものを持たない少年にとっては大問題だったのだ。
夏が過ぎ、秋も深まり、どんどんと鬱屈してくる僕の中の何か。
そして冬のある日、意を決してレンタル・レコード屋で、あのレコードを選びとったのだった。
ショッキング・イエローの派手なジャケットの、これを。
カウンターに持って行くのを何度か躊躇いながら、意を決して。
正直、本屋でエッチな本を買うとき以上に恥ずかしかった。
無言で自転車をぶっ飛ばして、誰にも会わないように家へ帰った。
誰かにばったり出会ってレコードの中身を見られたら、刺し殺してしまうかもしれなかった。
そして、ピストルズの爆音を、ヘッドフォンで大音量で浴びた。
Holidays In The Sun Bodies No Feelings Liar God Save The Queen Problems Seventeen Anarchy In The UK Submission Pretty Vacant New York EMI スゲエ。
やっぱりコレだっ!
音のカタマリ。
やぶれかぶれ。
ただの爆音ロックンロール。
めちゃくちゃ痛快。
こんなかっこいいロックンロールをヘタクソだなんて、耳腐ってんちゃうか。
澱のように溜まっていたモヤモヤを、ジョニー・ロットンがぶっ飛ばしてくれる。スティーヴ・ジョーンズが蹴散らしてくれる。
こんなもん聴いていたらまともな人間になれなくなってしまう、ってゾクゾクした。
こいつらみたいに、誰に遠慮することもなく、やりたいと思ったことをやりたいようにやればいいんだ。
誰に媚びへつらうことなく、周りからの見られ方なんて気にすることなく、思った通りにやればいい。
そんなふうに思えるようになってからは、生きることがずいぶんとラクになった気がする。
自分で自分を凝り固めていた殻を、ダイナマイトのような音の爆弾がぶっ飛ばしていったみたいだった。
今でも、モヤモヤが溜まったときにはコイツが一番。
全部ぶっ飛ばしてくれる。
コイツが効くうちは、まだまだダイジョウブだ、と思わせてくれる。
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ogitetsuさんとジョイ・ディビジョン、ogitetsuさんとPILというのは、ちょっと結びつかない感じで意外ですが、あの時代のイギリスのロックには確かにひりひりとした差し迫ったような、ちょっとやばいくらいの魅力がありました。