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♪マラッカ -My Vintage(81)-

マラッカ【SHM-CD/リマスター/紙ジャケット仕様】
マラッカ / PANTA&HAL

Released:1979

8月3日の朝刊の一面にあった記事に恐ろしい記事が掲載されていたのをご存知でしょうか。
『有事に民間船員「徴用」 防衛省検討 戦地輸送で 予備自衛官に』
要は、有事の際には自衛隊員を戦地へ運ぶため民間フェリーの船員を徴用する方向で案が練られている、ということ。
もちろん決めるのは本人で強制はされない、とされている。
でも、実際現実的に断ることなど可能なのだろうか。断った瞬間に、世論から叩かれ、非国民と後ろ指を指されるのは目に見えているのではないか。
太平洋戦争ではそうやってなし崩し的に多くの民間船員が徴用され、6万人が亡くなったのだそうだ。
なるほど、こうやって戦争に巻き込まれていってしまうのだな。
子どもの頃、どうして当時の人たちは戦争に反対しなかったのだろうと素朴に疑問だったことがある。
そういうことなんだな。だんだんと少しずつ巻き込まれていく。いつの間にかNOと言えない状況に追い込まれていく。
いじめだってブラック企業だって、根っこのところではそういう人間の弱みをつつきながら膨れ上がっていく。誰にも止められないくらいにまで膨れ上がってから人は気づくのだ、どうしてあのときNOと言えなかったのか、と。
キナくさい。誰かがどこかで企みを企てている。
巻き込まれたくない、威勢のいい言葉に乗っかってはいけないと思う。

頭脳警察の時代から、キナくさい企みを暴き権力や体制に反逆する歌を歌い続けてきたのがPANTA。
このアルバムは、頭脳警察を解散してソロになったあと改めてHALというバンドを立ち上げた一作目の作品。
今となっては古臭さすら感じてしまうクロスオーバー系の洗練されたサウンド、一音節一語のもっちゃりしたメロディーではあるのだけれど、それでもこのアルバムに込められた熱気は今もって冷めてはいないし、ここにあるメッセージさえ、むしろ近未来を予言していたかのように今も有効だ。いや、むしろ今だからこそ有効なのかも知れない。

 叩きつけるよなスコールを
 ものともせずに海を引き裂く
 ずぶ濡れの巨体揺さぶって
 20万トンタンカー
 腹にたらふく詰め込んだ
 アラビアン・ミディ
   (マラッカ

日本の生命線であるオイルロードでの「有事」を想定したコンセプト・アルバムということだけれど、具体的に戦争のシーンが描かれるわけでも直接的にメッセージが叫ばれるわけではない。
カット・アップされたそれぞれの物語が、キリキリした緊迫感とどこかどすんと重たい重圧感の中で大きな物語としてつながっていくような感じというかな、HALというバンドのピンと張った迫力ある演奏が、歌の世界に色褪せない現実感と生命力をもたらしている。
例えば、サンバ・ホイッスルで高らかに始まるマラッカなんかは、パーカッションの怒涛のリズムと合わせてギターもキーボードも含めてバンド全体が細かいリズムを刻みながら退廃的かつ祝祭的なリズムの嵐を作っていて、それがとても心地よい。
どっしりタイトなブリキのガチョウココヘッドネフードの風 でも、そのリズム感は圧倒的だ。スロウの裸にされた街 ですら、痛々しい感傷の中に、命のリズムが息づいているし、フォーク・ロックっぽい 北回帰線 も、屈強なリズムがあるからこそ凡百のメッセージ・ソングよりずっと深いところまで届いてくるのだ。
そして圧巻なのは、ガムランみたいなイントロからタイトなレゲエのリズムがグルーヴィーな つれなのふりや

 俺の船に乗たいか
 俺の船に乗りたいか
 俺の船に乗りたいか
 俺と海を渡れるか Yeah,Yeah
 
ずっしりとしたレゲエのリズムに合わせて真っ直ぐと相手の目をのぞき込むよう歌うPANTA。
ビリビリとした緊迫感と強い意志。
俺はここにいる、という確かな主張。

 風を起こして Yeah,Yeah
 海を逆立て 
 波をかきわけ Yeah,Yeah
 さぁ、出かけるか
 Sailin!

どんよりと黒い予感が漂う時代、今できること、しておかなければいけないことは何なのだろう。
気がついたらすっかり取り込まれて手遅れになってしまう前に。
できることなんてたかが知れているし、ひとりひとりは弱いからついつい声の大きなものの言い分に流されてしまうけれど、だからこそひとりひとりが感じたことを主張するべきなのだろうと思う。
奴らは、ひとりひとりの命を、記号や単位で把握してとりまとめてしまおうとする。ひとりひとりの心の軋みをいとも簡単に切り捨てる。
それに対抗するためにはひとりひとりが顔をもち名前を持ち、日々の暮らしをささやかながらも大切に営んでいることを主張し続けていかなければいけないのだ。
PANTAの意志のある声とHALの力強い演奏を聴きながら、そんなことを感じていました。




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コメント

[C2325] Re: マラッカ

deaconblueさん、こんばんは。
平岡正明さん、うーん、残念ながら通ってこなかったのでどんな方だったのかすらまったく。中島梓さんも知っているのは某家電メーカーのクイズ番組を通じて、著作はまるで読んだことがありません。。。
政治的思想的なものは、前の世代のうっとおしさとも相まって実はあまり好感は持っていないのですが、にもかかわらずPANTAかっこいいな、と思ってしまうのはやっぱり圧倒的な存在感でしょうか。
  • 2014-08-08 00:21
  • goldenblue
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  • 編集

[C2324]

非双子さん、こんばんは。
つれなのふりや、耳に残って離れない名曲だと思います。
僕はこの曲、初めて聴いたのは高校生の頃、「狂い咲きサンダーロード」という映画の挿入曲として、でした。
うーん、確かに30年、、、
でも、30年たってもこれがちゃんと心に響くというのは、ありがたいことであります。

  • 2014-08-07 22:13
  • goldenblue
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  • 編集

[C2323] 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

[C2322]

「つれなのふりや」

何故かこの曲だけは今でも時々頭の中で鳴ります(笑

そうか、発表は30年以上前なんだ~
歳をとったなぁ、、、
  • 2014-08-07 20:55
  • 非双子
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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