The Rose Of England / Nick Lowe & His Cowboy Outfit Released:1985
パブ・ロック界の重鎮、英国ロックのご隠居さん的存在のニック・ロウ。
初めて聴いたのは大学生になったばかりの頃だったな。難波のタワー・レコードでベスト盤を買ったのが最初、それからすぐにこのアルバムが出たんだったと思う。
18歳、窮屈だった高校を卒業して、京都のとあるこじんまりした大学へ通い始めた。大阪にある某マンモス大学も受かりはしたのだけれど、誰も知り合いのいないところへ行きたいという気持ちもあって、その小さな大学を選んだのだ。
大学生活はとにかく自由だった。毎日のように新しい友達ができて、多分そのうちの誰かにニック・ロウのことを教えてもらったんだったと思う。或いは、会話の中に出てきて当然のように知ってるそぶりの受け答えをしてから慌てて買いに行ったのだったろうか。何しろレンタル屋には置かれていなかったからね。
当時大活躍中のプリテンダーズやエルヴィス・コステロのプロデューサー、当然気に入らないはずがない。
中でも一番の傑作だと思うのがこのアルバムだ。
1985年発表、マーティン・ベルモント(g)、ポール・キャラック(Key)、ボビー・アーウィン(ds)というメンバーの「His Cowboy Outfit」というバンドを従えての6枚目のソロ・アルバムだが、本当に80年代の作品かと思うような、50年代のロックンロールやロカビリーを意識した作品。ブリンズリー・シュワォーツでの泥臭さや、初期のソロやロックパイルでのパワフルさに比べるとずいぶんとゆるくて、後のソロ作にもつながるアコースティックな感じもあって、ニック・ロウらしい能天気かつちょっと胸キュンな青っぽさが堪能できる。
1曲目はのりのりの
Darlin' Angel Eyes 。ニック・ロウ自身によるスイングするベースラインが気持ち良い。ポール・キャラックによるオルガンのリフもウキウキする。
2曲目は、後にリトル・ヴィレッジを共に組むことになるジョン・ハイアットの作品で、
She Don't Love Nobody 。♪ドゥドゥドゥドゥッドゥ ドゥドゥドウゥドゥドゥドゥドゥ~っていうオールディーズっぽいコーラスが楽しい。
3曲目は一転、オールド・スタイルのロカビリーのカバー曲である
7 Nights To Rock 。オリジナルは
ムーン・ミュリカン という人。そしてマーティン・ベルモントのギターがのどかなインスト・ナンバーの
Long Walk Back で和んで、ニック・ロウらしいカントリーっぽさの匂う
The Rose Of England 、溌剌とした
Lucky Dog と続くA面。この流れ、気持ちいいな。
B面はシングル・カットされたゴキゲンなナンバー、
I Knew The Bride (When She Used To Rock 'N' Roll) で始まる。ニックのオリジナルだけど、最初にレコーディングしたのはロックパイル時代の盟友、デイヴ・エドモンズ。バックを務めるのは当時人気絶頂だったヒューイ・ルイス&ザ・ニューズで、
50’sっぽいアレンジだったエドモンズのバージョン に比べてもろに
彼ららしい陽気でガッツがありつつキッチリつかみどころを心得た演奏 。
ここからB面はしっとりほっこり系が続く。
エルヴィス・コステロが『King Of America』でアコギ一本で演っていた せつな系のバラード、
Indoor Fireworks 。これはもう、意味もなくうるうる来る(笑)。
カントリー調の
(Hope To God) I'm Right 、
I Can Be The One You Love 、そして
Everyone 。なんとなくしみじみとセンチメンタルな気分になってしまうこのB面の流れもまた絶妙。
そして最後にちょっと照れ隠しのように、ちょっと泥臭くてユーモラスな
Bo Bo Skediddle で〆。これは
ウェイン・ウォーカー というロカビリー歌手の1957年のヒット曲だそうだ。
いいなぁ、ニック・ロウ。5月の爽やかな季節には特によく合う。
青筋張らないゆとり感がいいんですよね。
ユーモアたっぷりで余裕綽々な感じ。
自分自身はちまちま細々と些末なことにこだわってしまう性質なだけに、こういうおおらかというかアバウトな感じのゆとり感に憧れてしまう面がなきにしもあらずです。
ゆとり、楽しさ、朗らかさ、大事ですよね。
ただ、そのこととテキトー、いい加減、大雑把とはちょっと違うとも思う。
たくさんのバックボーン、いろんな引き出しがあって、その中から緻密に組み立ててこだわりはこだわりとして細部まで譲らずに、それでも尚且つ出てきたものにはその苦心を感じさせないポップさがある、これこそが職人の仕事ではないかと思うわけで・・・まだまだその境地に至るまでは修行が必要だな、なんてね、思うわけです。
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デイヴ・エドモンズとエヴァリー・ブラザースのハモリ。それは良さ気ですね!
そういえばこのアルバムの前後で、コステロとシュレルズの“Baby,It's You”を演っていた30cmシングルがありました。
このところニック・ロウはずっと独りで演っているようですが、ほんとはこういうのが大好きなはずで、もっと演ってほしですよね!