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♪DREAM OF LIFE -My Vintage(48)-

Dream of life
Dream of life / Patti Smith

Released:1987

パティ・スミスの作品の中から一枚を選ぶのはとても難しい選択だ。
ファースト“Horses”、パティ・スミス・グループ名義の“Wave”までの70年代の4枚はいずれもキレキレだし、夫の死後にシーンに復帰した“Gone Again”は儚くも美しく力に満ちていているし、翌年の“Peace and Noise”のシャープで硬質なサウンドも、近作の“Trampin'”や“Banga”のある種の高みに達したような崇高さも言葉を失うくらいに素晴らしい。
そんな中で敢えて選んだのは80年代の唯一の作品、1987年の“Dream of Life”。
リアルタイムで初めて聴いたパティ・スミスということもあって個人的にも思い入れが深い。

シカゴの貧しい家庭に生まれ、十代の頃はしみったれた工場で働きながらランボーやケルアックを耽読していた彼女は、詩や表現に憧れて、考えもなく産み落としてしまった子どもを里子に出してニューヨークへ出る。
ストリートで詩の朗読を始め、トム・ヴァーレインやレニー・ケイと出会ってロックンロールを歌い始め、75年にデビュー。「ニューヨーク・パンクの女王」と呼ばれるようになったが、79年の“Wave”を最後に、夫フレッド・スミスとの家庭生活に専念するために引退を表明する。
そして二児の母親になっての8年の沈黙を破っての復帰作が、この“Dream of Life”だった。


 砂漠があった場所に
 クリームのように泉が噴き上がるのが見えた
 そして私たちは歩いた
 豹と羊が
 笑いながら共に横たわるのが見えた
 かつて見つけたものをもう一度思い出してみたい
 神のみぞ知る清らかな光景
 眠りに身を任せ
 あなたの夢を委ねよう

 人々は力がある
 夢を見る力
 統治する力
 愚か者たちの行いを贖う力

 私は信じている
 すべての夢は実現できると
 団結を通して
 世界を変え
 地球の革命を方向づけることもできると
 私たちにはその力がある
 人々には力がある 

8年ぶりの作品の一曲目が、このPeople Have The Power
力強いドラムの連打で始まる力強いサウンド、凛として意志に満ちたパティの声。
「人々には力がある」
どこぞのアホな若造がこんなことを歌っても鼻で笑われてしまうのがオチだけれど、パティ・スミスが歌うとガツンと来る。
ほんとうに、人々の力が集まれば、世界は変わるのかもしれない。
そんな力が湧いてくる。
繰り返し繰り返し聴きたくなる。

当時を振り返ってのインタビューでの言葉。
「長い年月がたって、私自身に関していえば強くなったと思う。母親になったからね。子供が2人もいるんだから。それは私にとってはとても大きなことだわ。だって社会的に大きな責任を負うことになるんだから。
でも私は同時にアーティストでもあって、毎日作品と取り組んでいる。その作品も以前に比べればずいぶん成長していると思う。
やっぱり大事なのは人間なのよ。私たちはもっとポジティヴであるべきだと思う。だって2人の子供がいるってことは、私の血が、私の子孫がこの先ずっと続いて残っていくってことでしょう。ロックンロール・ヒストリーを考えるよりも、その子たちの未来を考えることの方がずっと大事だと思うわ。環境問題や、エイズや、そういう問題。地球レベルで考えるべきなのよ。子供たちのためにね。アーティストとして、より良い世界を、といつも考えてるわ。」

そんな言葉通りに、このアルバムの作品群は、力と明るさに満ちている。
以前のギスギスと尖った鋭さは影を潜め、柔らかく穏やかでふくよかさすら感じられる。
そのことには賛否両論あるだろうけれど、僕は好き。
Going UnderUp There Down ThereWhere Duty Calls といった以前のスタイルに近い曲では、いかにも80年代的な音づくりがやや物足りない感じもあるのだけれど、Dream Of LifeLooking For You (I Was)といった曲では、ふっきれたような、開き直ったような、いや違うな、生きていく上での大切なものを見つけてそれ以外のものにこだわることがなくなったような、という感じかな、そんなポジティブなエネルギー、その明るさと力強さを感じることができる。そしてそのポジティブなエネルギーはもちろん、僕の心にしっかり届いてプラスのエネルギーに変換される。

とても美しい響きと輝きを持つPaths That Crossでは、遠い未来をポジティブに捉えたこんな歌詞が歌われる。

 私に話して 心を込めて
 やわらかく雲を渡る橋を架けてほしいのよ
 知りたいの 
 
 崇高な優しさに包まれたあの日
 私たちのステップや私たちの通ってきた道のりは
 光に溶け込んで再び結びあう

 私たちはまたいつか、きっと出会えるでしょう
 私たちの道は、いつかきっと交わるでしょう
 再び

未来への祈りのような、願いのような言葉。
しかしその願いには、確信した力強さがある。
叶わない可能性など1%もないような確かな思い。
その思いは、やはり家庭を持ち、自分自身の確かな居所を見つけたからこそ生まれたものなのだろうと思う。

最終曲は、生まれたばかりの息子に捧げた曲、The Jackson Song

 お眠りなさい
 リトル・ブルー・ドリーマー
 互いに目を閉じて
 深い場所で意識を重ね合わせましょう
 まどろみの国へいざなわれ
 リトル・ドリーマーたちが跳ね回る

 私の手を取って、そしてお行きなさい、リトル・ブルー・ボーイ
 あなた自身であればいい
 小さな青い翼を広げて
 小さな青い靴で天空を駆ける

 進む道は自分で決めなさい
 だいじょうぶ、私はいつも共にいるから

賛美歌のような美しいメロディーにのせて歌われる子守歌。
我が子への深い愛情。
それも、一方的な溺愛ではなく、母としての強さを持った愛。
これが聖人君子の言葉なら響かない。
けれどこの歌がとても心を満たしてくれるのは、満たされない思春期を過ごし、世界中に唾を吐きかけていた少女が、こんなにも深い愛を歌うようになった歳月が、とても愛おしくかけがえのないものなのだと思えるから。


やっぱり大切なものは「愛」なんだな。
愛すべき人がいるということ、そして自分自身が愛されていると感じられること。
そのことが力になり、強さになる。エネルギーになる。
その強さがあるからこそ、ありのままの自分自身でいることに揺るがないでいられる。
ジョン・レノンや清志郎が歌っていたことも、突き詰めればそういうことだった、ということはつまりロックは愛なのだ!・・・なんてね(照)。
そんなふうにどんどんと思いがふくらんでいくのは、やはりこのアルバムのパティの歌が素晴らしいから、なのです。
愛すること、愛されること。
昔はそんなことは恵まれた一部の人たちの戯言で自分には関係がないと思っていた。
でも、実はそんなに難しいことではないのかもしれない。
自分の身の回りにある小さな無数の愛を感じることさえできれば。





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コメント

[C2127]

ふくさん、毎度です。
うーん、そう聞くと尚更行くべきだったか、と(笑)。
2003年のときもぎりぎりまで段取り考えていて、結局行けなかったんですよねー。
次の機会があるのならばぜひ!
  • 2014-02-12 23:58
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C2125] いや、

誘えばよかったね。私の中では数本の指に入るライブでしたよ!
  • 2014-02-11 19:08
  • ふく
  • URL
  • 編集

[C2120]

LA MOSCAさん、こんばんは。
長年のパティ・スミスのファンからはこのアルバムは評価高くないのはわかります。
音のかっこよさでは断然70年代と90年代ですもん。
僕はこれが入り口だったのですんなり聴けたのですが、最初にファースト聴いてたらそりゃがっかりしただろうと思いますよ。
でもこの『今の自分に正直に変わり続ける』感がパティの言うパンクなのだろうと改めて思うんですよね。

昨年の来日、それに96年も、なんでライヴ行かなかったんだろうとプチ後悔です。。。今生きている人で見てみたい人はあまりたくさんはいないけど、パティ姐さんは見たいです。

[C2119] 長くなってごめんなさい(笑)

このアルバム、俺のような悪しきファンには当初、不評だった記憶が。
憑き物が落ちたみたいにあっさりしてて俺も物足りなかったです。
歳食ってきてからですね、ホントにいいなと思うようになったのは。
で、それ以前っぽい曲より「PHTP」とか「ルッキング・フォー・ユー」、タイトル曲の方が好きになって。
俺は、パティはその時その時の正直な自分を表現してるから違和感や白々しさがないのかな?と思います。
地に足が着いてるんですね。
此処から四半世紀を経た昨年の来日公演も素晴らしかったです。

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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