Mitakuye Oyasin Oyasin~All My Relations / The Neville BrothersReleased:1995
音楽の都、ニューオーリンズ。
ジャズの発祥の地でもあると同時に、アメリカの他の都市とは異なる歴史的背景から来る独特の文化が育まれ、たくさんの音楽が生まれ、熟成されてきた街だ。
そんなニューオーリンズを代表するバンドとして君臨するのがネヴィル・ブラザーズだけど、正直、若い頃に初めて聴いたときにはピンと来なかった。なんかモコモコして焦点の定まらない感じ、ファンク、ニューオーリンズという言葉からイメージしていたキレや暑苦しさがなく、あら、こんなものなの?という印象だったのだ。名盤といわれる89年の"Yellow Moon"も、最初はモコモコでへにゃへにゃな音楽にしか聴こえなかったし(苦笑)。
それがじわじわと好きになってきたのはこの数年のこと。
そもそもニューオーリンズを開拓したのはフランス人の移民。1700年代初頭に開拓され、1803年にアメリカに売却されるまではフランス領だった。スペイン人も多く、またアフリカ各地からも多くの奴隷が連れて来られ、比較的黒人奴隷に対して寛容だったこの土地では黒人たちとの混血もすすみクレオールと呼ばれる文化が育っていったのだ。
例えばアングロサクソン人たちは奴隷たちが持ち込んだ打楽器を禁止している。アフリカでは複雑なリズムの組み合わせを通信手段としていたため、反乱などの計画を奴隷たちが企てるのを阻止するためだったそうだが、フランス人たちは打楽器を禁止しなかったため、ニューオーリンズの音楽には豊かなリズムがあふれるようになったのだとか、同じくフランス領だったハイチからアフリカ源流の呪術的宗教・ヴードゥーが流れ込んで混ざり合い、独特のニューオーリンズ・ヴードゥーとも言われる土着文化が育ったとか、どちらかといえばアメリカ本土よりもカリブ諸国との文化的共通点も多く、ネヴィル・ブラザーズの音からもそのような背景が伺える。
このバンドの出している音やメッセージは、類型的なファンクやニューオーリンズという狭い枠組みでは捉えられていては聞こえない、もっとグローヴァルでワールドワイドでヒストリックな深みを踏まえたものだったんだな、と気づいてはじめて、このバンドの奥深さがわかってきた気がした。
演奏の中に組み込まれたいろんな要素・・・ソウル、R&B、ブルース、ジャズ、カントリー、ケイジャンにザディコ、レゲエにルンバにメキシコ民謡、アフリカ的ポリリズムやチャント。それらの要素を丁寧にブレンドしてぐつぐつとごった煮にし、過去と歴史を集約することから未来への方向性を見つけ出そうとする手法はむしろワールド・ミュージック的であり、そのカテゴライズすることさえ無意味とも思えるほどの幅の広さでいろんな要素の呑みこむやり方はむしろロックに近い質のものだ、と。
アルバム・タイトル“ミタケ・オヤシン・オヤシン”とは、ネイティヴ・アメリカンのスー族の言葉で、「私につながるすべてのもの」という意味。
なるほど確かに、「私につながるすべてのもの」が演奏の根っこにある。端々からいろんな様相が顔を出す。
お爺さんも、そのお爺さんのお爺さんも、そのまたお爺さんのお爺さんも、彼らの音楽ならば時代を超えてみんなが踊ることができるのかもしれない。
そういう意味で彼らの音楽は、単に同時代的な世界音楽のつまみ食いというだけでなく、民族のルーツを掘り下げ、時代の隔たりまでをも越え得る、ワールド・ミュージックという言葉本来のワールド・ミュージックなのかもしれない。
のっけから長兄アート、三男アーロン、四男シリルが入れ替わり歌う
Love Spoken Here がめちゃくちゃかっこいい。アートの力強さ、アーロンの柔らかさ、太くてワイルドなシリル。コーラス、リズム、オルガン。そしてスコンとかっこいいソロを吹く次男チャールズ。さすが兄弟!とうなってしまう完璧さです。
2曲目
The Sound はカリプソっぽいリズムに乗せて歌われる音楽へのリスペクト。
神が私たちに音楽を与え給うた
私たちは音楽を作り出す
そうして世界が周り始める
日が昇り、花を咲かせ、鳥が一日中さえずっている
雨が降り、世界中の森が育っていく
メキシコ湾から吹く強い風
祝福された音色は人々の目を覚ましていく
子どもたちに新しい歌を教えよう
高らかに、明確に
暗闇の終わりには光があるはず
どんなに夜は長くても、朝の光は必ずやってくる
3曲目、
Holy Spirit 、5曲目
Whatever You Do もシリルを中心としたスピリチュアルなメッセージがぐっとソウルフルでカラフルなサウンドで、アルバム全体の色合いとしてもカリブ/アフリカ的なポリリズムとバック・トゥ・ネイチャー的なものが強く感じられる。
ネヴィルズのメンバーの中でもこの色合いを特に特徴的に出しているのは四男のシリルのようだ。
4曲目のゴスペル的なR&Bスタイルの
Soul To Soul 、や、このアルバムの製作中に故人となってしまったグレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアに捧げられた
Fire On A Mountain での初期ネヴィルズ的なリズム、いずれもシリルのちょっとワイルドなヴォーカルとパーカッションが効いていて、ネヴィルズの身体的屋台骨を背負っているのは実は彼なのだということがわかる。
長兄アートは表に立つ出番は少ないが、そんなシリルの成長を後ろで精神的に支えている感じか。
一方、60年代からずっとソロ・シンガーとして活躍してきたアーロンは情緒面の担当。
アーロンお得意のカントリー風ソウルの6曲目
Saved By The Grace Of Your Love ではさすがの存在感で、あのいかついガタイといかつい顔からは想像もつかないスゥィート&テンダー&ウォームなヴォーカルで“あなたの愛の恵みが僕を救ってくれるんだよ”なんて歌われると、もうね、ウルウルですよ。
自分の中になんとかよりよいものを見つけよう
なんとか頑張っても落ちていってしまうとき
でもだいじょうぶ
僕は僕のままでいいって、あなたが教えてくれるから
あなたの愛の恵みに僕はいつも救われているんだよ
続く
You're Gonna Make Your Momma Cry は、不良少年たちに宛てたメッセージのようで、途中に入るラップはアーロンの息子、ジェイソン・ネヴィル。
そしてもう一曲はビル・ウィザースのカヴァー、
Ain't No Sunshine で、粘っこくファンクなリズムでビシッと決めてくれる。
アルバムを締めくくるラストの2曲は、サックス奏者の次男のチャールズをフィーチャーした曲。
4人兄弟の中でも一番地味な存在ではあるけれど、その飄々としながらも凛とした雰囲気は、バンドのスピリチュアル的な要素を担っているようだ。
Orisha Dance のオリシャとは、西アフリカのヨルバ族たちの神々のこと。そして、チャールズがフルートを吹く
Sacred Ground で、アルバムタイトルでもある"All my relations"という言葉が出てくる。
私と血をわけたすべての者
風に乗せて彼らの声が聞こえる
私と血をわけたすべての者
彼らは聖なる地で踊った
先祖たちの精神は、ここにいて私と共に歩んでいる
私たちはひとつのもの
永遠の円環の中で、私たちの精神は育まれる
この聖なる地の上で
そもそも先祖だとかルーツだとかそういった宗教的なものにはうさんくささを感じて育ってきた。
でも、父親が死んでからは少しそういう考えが変わってきたような気がする。
自分の命が大きな命の循環の中のひとつだ、と。
そもそも自分自身なんていうものすら実はどこにもなくて、あるとすればAll my relations、私を取り巻く関係の中に浮かんでいるものなのではないか、と。
そう考えることで、少し安心するというか、落ち着きを取り戻すことができる気がするのだ。
そういう意味でも、ネヴィル・ブラザーズの音楽は、これからも自分の中でより重みを増してくるのではないか、そんな予感がしています。
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全てのアルバムを聴いたわけではないのですが、名作「Yellow Moon」よりも統一感がない分、メンバーそれぞれの個性がよく見えるのがお気に入りの理由かも。
アーロンの声は好きなんだけど、気分によっては受けつけないときもあり(笑)。
ジャケットのテイストもこのアルバムの濃さをよく表していると思います。