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♪HOME GIRL JOURNEY -My Vintage(53)-

Home Girl Journey
Home Girl Journey / 矢野顕子

Released:2000

先日読んでいたあるエッセイ。
「ほしいもの」というテーマの文章で「一番ほしいものは“勇気”」という言葉があった。
「勇敢でいたいと思っているわけではない。勇敢でいなくてはならないと思っている。だって、日々を生きるのに、勇気はどうしたっている。」
「勇気は消耗品なのだ。どんどん要るので、どんどん供給しなければならない。そこが度胸とは違うところだ。度胸は発揮しても減らない。」
「勇気の供給には、いろんな方法がある。本を読んだり、友達と会ったり、おいしいものを食べたり。」
「幸福な瞬間をたくさん持つと、人は勇敢になると思う。自分の人生に対する信頼、しか勇気にはならない。何かに護られて在る、ということ。」
うん、わかる、その感じ。
幸せが少ないと臆病になる。
日々をタフにくぐり抜けていくためには、臆病ではやってられない。
自分の人生を自分で生きるためには“勇気”がいる。

“勇気”という言葉で思い出したのは矢野顕子さんのピアノだ。
少しニュアンスは違うのかもしれないけれど、矢野顕子さんのピアノにはいつも「あたしはこう思うのよ!」という意志があって、何にも臆することなくパンっと演奏してみせてくれる。
「こうじゃないかと思うんですけど・・・」とか「これであってますか?間違っていませんよね?」といった感じがまるでない。もちろん高飛車に「こうなのよっ!何か文句あんの?!」というふうでもない。
「あたしはこう思うのよ。」
そのことを率直に表現することは、簡単なようでとても難しい。
とんちんかんで笑われちゃうかもしれない。馬鹿にされるかもしれない。生意気だと頭ごなしに怒鳴られるかも知れない。誰だってそういうのは嫌だからつい遠慮してしまう。一歩引いてしまう。それでつい、当たり障りのないとりあえずの答を導き出してしまいがちになってしまう。
「あたしはこう思うのよ。」と表明することにはけっこうなエネルギーが必要で、そのエネルギーの質は“勇気”と呼ばれるものに近い気がする。
矢野さんのうたやピアノにある、ある種のたくましさや力強さは、“勇気”の賜物で、その“勇気”はきっと、たくさんの幸福の瞬間でできているのだと思う。

このアルバムは、矢野顕子さんがピアノひとつで矢野さん自身の琴線に触れた曲をカバーした作品集。
92年に『Super Folk Song』、95年には『Piano Nightly』いう素晴らしいピアノ・カバーのアルバムを発表しているけれど、それよりも更に音質もよく、楽曲も演奏もより充実している。
山下達郎の初期のファンク・ナンバー「Paper Doll」 や、大貫妙子の「会いたい気持ち 」 、RCサクセションの 「海辺のワインディング・ロード」 、自身もコーラスで参加していたムーンライダースの 「ニットキャップマン」、パール兄弟の「世界はゴー・ネクスト」 といった矢野さんと交遊の深い人たちの曲から、少し下の世代の槇原敬之の 「雷が鳴る前に」、オリジナル・ラヴの 「夢を見る人」、宮沢和史の「遠い町で」 、奥田民生の 「さすらい」、元詩人の血の渡辺善太郎のユニット Oh!ペネロープの“Photgraph”
前作でも採り上げられていた小室等の 「赤いクーペ 」 の作詞は谷川俊太郎、その谷川俊太郎の息子さんである谷川賢作のバンド、DiVaの「さようなら」 。
変わったところではSMAPの大ヒット曲「しようよ 」 。
セルフ・カバーの 「在広東少年」 。
実は半分以上は原曲を聴いたことがないのだけれど、この素晴らしい演奏を耳にすれば原曲と聴き比べることなどおそらく無意味だろうと思われる。
だって、ほとんどが矢野さん自身のうたになっているから。

一番大好きなのは、遠くへ旅立ってしまう好きな人を見送るために自転車を走らせる 「会いたい気持ち 」 かな。
弾むピアノの音に、どうしても会いたいというドキドキ感や、間に合わないかもしれないという切なさが余すところなく伝わってくる。
ふとしたことから仲良くなったひとりの浮浪者との物語である「ニットキャップマン」 も大好き。悲しい結末のお話なのに、どこかコミカルで、人間の営みの哀しみと滑稽さが、やんわりと愛情に包まれて歌われる。
しようよ 」 も、こんなに素敵なうただったのかとほろっとしてしまうし、圧巻はやっぱり「さすらい」 かな。
悲壮感なく飄々と穏やかな笑みを浮かべながら、しかし強い決意を秘めて旅立ちに向かう様は、とても凛々しい。
うーん、この音の素晴らしさは、言葉ではやっぱり伝えようがないな。
このひりひりしつつふっくらとした空気感。
言葉にできない感情を、感情のかたちのまま伝えてくれるのが音楽の良さなのだから。
意味や理屈や刺激や興奮を通り越して、ダイレクトにテレパシーのように感情を伝えてくれる音楽。
それは演奏者自身が“勇気”を持って演奏し表現しているからこそ。
この“勇気”は矢野さん自身が自分の人生を信頼しているからこそ。
そのために大切にしていることがたくさんあるからこそ。
そして、そのことがまた、聴き手に新しい“勇気”を供給してくれる。

僕が僕の人生を信頼するためには、大好きなことや大好きな人の存在はとても大切なこと。
心に響く音楽や心に響く言葉、おいしいものや心地よい空間、ゆったりした休日ややりがいのある仕事、信頼できる友人や仲間、家族も含めて大好きな人たち。
あなたと話したり触れあったりすることが僕の“勇気”になるように、僕の存在があなたの“勇気”になればいいな。
そんなことを思ったりしながら、この“勇気”にあふれたレコードをもう一度リピートしてみる。





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コメント

[C2150]

つき子さん、ありがとうございます。
47歳になってしまいました。
今日はわりと暖かかったですね。
勇気の補充、よろしくお願いします(笑)。

[C2149]

3月、まだ寒い日も多いですが、春はもうそこまで来てるはず。お誕生日おめでとうございます。勇気がどんどん補充されますように。
  • 2014-03-04 00:27
  • つき子
  • URL
  • 編集

[C2148]

GAOHEWGⅡさん、こんばんは。
このアルバムは音質もよくてすぐそばで矢野さんが弾いているような気分になれます。
料理の仕方が巧いですよね。素材の持っている味わいを見事に引き出す、というか、もと歌の世界を骨組みにして自己流の表現をするという意味では矢野さんのするカバーは全部手法としてはジャズだと思っています。

[C2147]

golden blue様
こんばんは

このアルバムは未聴でしたが聴きたくなりました。
この方は
最近出した
矢野顕子、忌野清志郎を歌う
もそうですが、料理の仕方がうまいので。

>谷川俊太郎の息子さんである谷川賢作のバンド、DiVa

なんだかドラマティックな選曲ですね。

[C2146]

名盤さん、こんばんは。
うん、確かに、勇気が出せる場面と尻込みしてしまう場面、紙一重ですね。僕もしょぼしょぼになってしまうときもあります。
がんばっている皆さんに顔向けできなくならないよう、なんとか勇気振り絞る感じ。
多分みんなそうですよね。

矢野さんのうたの解釈はほんと絶品ですね。
いくらでもうたの世界に浸っていたくなるし、聴く度に発見があります。

[C2145]

Okadaさん、こんばんは。
おかげさまで、一緒にいるだけで勇気をもらえるような人たちに恵まれていて、ほんとラッキーだと思います。
ブログで関わりのある皆さんもそうですよ。
同じような思いで日々を過ごしている人が日本中にたくさんいると思えることは、とても勇気の源になります。
いろいろあるけど、みんなそれぞれの場所でがんばっているんだから、もうちょっとがんばってみようかな、と。
ストーンズ、皆様によろしくー。

[C2144]

勇気は消耗品。
それ分かります。
勇気を出せる時と出せない時がある。
同じ自分なのに別の人間であるかのように。
矢野顕子のカバーはいつも素敵ですね。
オリジナルアーティストのヴァージョンでは分からなかった、その歌の意味が矢野顕子のヴァージョンで分かったことがあります。

[C2143]

「勇気は消耗品」かぁ。
なるほど。
一歩前に進む為の起爆剤、発破のようなものかな。
いや、そこまで激しいものでもないか。

しかし、友達・人から貰える勇気っていうのは素敵ですね。
例えば「頑張れ」って激励されなくても、ただ一緒にいて何てことのない言葉を交わすだけで勇気が貰えるとしたら。
そんな関係を築けたら幸せだと思います。

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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