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♪ON THE BEACH ‐My Vintage(28)‐

渚にて
On The Beach / Neil Young

Released:1974

活動期間が長く、あれこれといろんなことをやってきたニール・ヤングのアルバムは当たり外れがかなり大きい。
一般的にニール・ヤングの名作としては『After the Goldrush』、そして名曲“Heart of Gold”が収録された『Harvest』がまず挙げられるのではないかと思われる。あとはパンクに大きく刺激を受けてバリバリにロックする『Rust Never Sleeps』か。
もちろんそれらも大好きなんだけど、なぜか僕の心に一番ひっかかるのはこの『On the Beach』なのです。
大名盤とは思えない、誰にでもおすすめできるわけではない、でもどこかひっかかる。

一番大好きなのは二曲目のこの曲、 “See The Sky About the Rain”。
今にも雨が降り出しそうな空を見上げながら、近しい人や愛する人、遠く離れてしまった人との心の距離に思いを馳せるような、息が詰まりそうにぐっとせつない歌。
この歌をはじめ、このアルバムに収められた歌は、明るくポジティヴな響きのある歌は一曲目の “Walk On”以外は皆無で、ドロドロと沈んでいきそうな重い歌がほとんどなのだ。
荒々しくニール節が炸裂する“Revolution Blues”。古いカントリー・ブルースのような“For The Turnstiles”。鈍い音のオルガンがダルな雰囲気を醸し出す“Vanpire Blues”。
そしてLPではB面に当たる後半3曲はさらに重い。
どんよりと暗い縁に引きずりこまれてしまいそうな“On the Beach”。単音で紡がれるギター・ソロが痛々しい。アコギとハーモニカの響きが深い後悔の匂いを漂わせる“Motion Pictures”、約9分にも及ぶ物語、“Ambulance Blues”。

どの曲にも共通しているのは、死の影。死と向かい合った中から紡がれたような言葉と音。
そんな風に書くと、それだけでとても重苦しい気分になりそうだな(笑)。
ただ、通して聴いたあとに残る印象はそれほど暗澹とするものではない。
不思議な言いようかもしれないけれど、どこか清々しいような気さえしてくるのだ。
何ていうんだろうか、ニール・ヤングの歌を聴いていると、孤独を感じたり、虚無感を感じることはむしろ生きているなら当たり前のことだよ、と歌われているような気がしてくるんだな。
そうなんだろうな、実は当たり前のことなのだ。いずれみんな死が訪れることも含めて、当たり前のこと。
淡々と、そこに今あるものを受け止める。わめきも嘆きもしない、あるがままを受け入れていけば、実は人生は人が言うほどにはしんどくも辛くもないものなのかもしれないな、みたいな気も少ししてくる。
ただ誰もいなくなった海辺に吹く風のように、ただほんの少しせつない。

と、そんな気分になった後でウォークマンのリピート・ボタンを押せば、違和感ありありにポジティヴな一曲目の“Walk On”が、なんだかとてもせつなく聞こえてくる。
そして、なんとなく吹っ切れた清々しい気分になって、とりあえずもうちょっと頑張ってみるか、って気持ちにさせてくれるのだ。

   あぁ、何にも変わりはしないのかもしれない
   この気持ちを何て伝えたらいいのかよくわからない
   あるものはぶっとんでしまって、あるものはおかしなままで
   けど、遅かれ早かれそれは全部実現されるのだから
   歩いていこう
   歩いていくんだ  
  



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コメント

[C1971]

mono-monoさん、こんにちは。
そう、暗い曲だらけなのに不思議に明るいんですよね。
がさつと繊細の同居がニール・ヤングっぽいと思います。
Old Waysは、大昔に一度聴いたことがありますが、ジジくさくて「なんじゃこりゃ?」って感じでしたが、今聴くとけっこう違って聞こえるような気がしてきました。

[C1970]

私も大好きなアルバムです。
湿度が高いというか、妙な明るさがあって不思議に魅力的です。
録音もリハーサルスタジオに一緒にいるようで生々しい気がします。
これは、ジャケットのダサさからなかなか手が出ず後回しにしてしまいました。
代表アルバムでもないので期待しないで聴いてあらビックリ、素晴らしいじゃないですか。
ジャケットってのも大事ですよね(笑)
タイトルロゴも微妙だし。

地味なアルバムといえば「オールドウェイズ」なんていう85年のカントリーアルバムもお薦めいたします。

[C1969]

OGITETSUさん、こんにちは。
売れなかったでしょうね、これ。
元々は“Tonight the Night”が先に録音されたけど、あまりにも暗いのでこの“On the Beach”が先に発売されたという話を聞いたことがあります。
“Walk on”の浮いた明るさもそう考えると理解できます。A1だけポップ、というアルバム、この頃はたくさんあったように思います。僕が中学生くらいなら「金返せっ!」って叫んでるかも(笑)。
ニール・ヤングはとらえどころがないのですが、やっぱりずっと気になる人です。

 

[C1968]

”Tonight's the Night"とかこのアルバムは、売れなかったそうです。俺は買いました。
ニールヤングはやはり若い頃から、どこかおかしい、というか老成したところがあって、”Old Man"とか”Old Laughin' Lady"とか、爺とかお婆を題名にした歌なんかも歌ってる。
ところが、自分が爺になってもまだ元気に19歳の時に作った”Suger Mountain"なんか歌ってるんだから、ますますわけが分らん、ので、僕の中でわけが分るまで、聞き続けようと思ってます、のじゃ。
  • 2013-09-04 04:34
  • OGITETSU
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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