かっこいいっ! プリテンダーズのMiddle Of The Road。 出だしのドラムから、ドスの効いたクリッシー・ハインドのヴォーカル、荒っぽいギターソロ、ブレイクの“1,2,3,4”のカウント、硬質でシャープでタイトな音の質感から、ハイテンションの疾走感から、ラストのクリッシーのハープのソロまで、もう完璧にかっこいいロックンロール。 キメのフレーズがまたかっこいいのだ。 「あたしを猫みたいに扱わないで 子供もいる33才の女なのよ」 高校生のとき初めてこれ聴いたときはめちゃくちゃしびれたねぇ。
アルバムからの最初のシングルだったBack On The Chain Gang。サム・クックからの引用を交えつつ「あたしたちはまた、鎖につながれた囚人の列に戻るのよ。」と呟く歌詞が深い。初期のKidsやStop Your sobbingと同系統のフォークロック調のShow Meもその後シングルカットされてそこそこヒットしたはずだ。 聴き始めた高校生の当時は、3曲目のTime The Avengerや4曲目のWatching The Clothes、B面頭のThumbelinaみたいな、疾走感のあるハードな高速ロックンロールが好きだったのだけれど、大人になってからはむしろB面の4曲のような、ずしっと重い手応えの曲の方がずいぶんとしみるようになったなぁ。 「オハイオへ帰ったら 故郷は何もかも変わっていた」と歌う、ベースのリフがソウルフルなヘヴィーなナンバー、 My City Was Gone、続くThin Line Between Love And Hate。この曲はパースェイダーズのカバー。そして「あなたを傷つけたわ。だってあなたが私を傷つけたから。」という詞がひりひりするようなI Hurt You。 この辺りはベスト盤では味わえない、キリッとシャープでかっこいいクリッシー・ハインドの、キリッとかっこつけた裏にある苦悩する横顔、という気がします。
このアルバムのタイトル、「Learning to Crawl」、直訳すれば「はいはいを覚えているところ」。 ファースト、セカンドと順調にヒットを飛ばしていたプリテンダーズは、セカンドアルバム発表後に、ベーシストのピート・ファーンドンが脱退。その直後ギタリストのジェームスがオーバードラッグで死亡。私生活では少女の頃の憧れだったキンクスのレイ・デイヴィスと結婚したもののすぐに破局。と、崖っぷちに立たされ、そんな中でクリッシーは一からやり直してこのアルバムをレコーディングしたのだ。その再スタートの決意が、このタイトルに込められている。 あんなにクールでかっこいいクリッシーも、実はもがき苦しんで地べたをはいまわっているんだ、ということを知った時は軽く衝撃を感じたけれど、だからこそクリッシーはあんなにかっこいんだ、ということもだんだんとわかってきた。 自分は何にも出来なくて自分よりキャリアのある人は聞けば何でも教えてくれると思っている小娘たちにはピンと来ないかもしれないけれど、平然とクールに仕事をすすめているように見えるお兄さんお姉さんたちも実は毎日苦悩だらけなのだよ。 正しい答え何てどこにも転がってなんかいないから、真剣に向き合って、考えて悩んで自分なりのすすみ方を導き出すしかないのだよ。 もがきながら前へ進んでいくしかないのだよ。 そこ、わかってほしいところなんだけどなぁ、とまたアルバムの感想から離れていく自分に苦笑しつつ、プリテンダーズ、リピート。
Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。 “日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。 自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。
そうか、そういわれると今はもうわざわざ“女性”ロッカーなんていう呼び方はしなくなりましたね。
わざわざ“女性”がついていたこの時代、媚びない姿勢を貫かないとやってられなかったのかもしれませんね。