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♪ART PEPPER MEETS THE RHYTHM SECTION -My Vintage(15)-

アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション+1
Art Pepper meets the Rhythm Section / Art Pepper

Released:1957

ジャズという音楽は、若い頃の僕にとっては嫌な大人の代名詞のような音楽だった。
なんていうんだろう、しかめっ面したおっさんが小難しい講釈を垂れながらお説教を食らわせるイメージ?わかりもしない若造が首を突っ込むんじゃない、みたいな敷居の高さがあった。
それと、どこかいやらしいイメージ。説教タレの脂ぎったおっさんが若い女の子を口説く時に使われるような、或いは勘違いしたバブリー女が自分をお洒落でスノッブに見せるためのアイテムとして使っているような。
・・・そんな偏見でジャズを見ながら10代・20代を過ごしたので、ジャズという音楽の魅力に触れることができたのは実は30代を過ぎてからのことでした。
初めて「ジャズってかっこええんやなぁ。」と思ったのが、アート・ペッパーのこのアルバムだったのです。

1957年1月19日録音。
AS:アート・ペッパー、P:レッド・ガーランド、B:ポール・チェンバース、Ds:フィリー・ジョー・ジョーンズ。
当時西海岸で新進気鋭のサックス奏者だったペッパーが、東海岸随一のリズム・セクションだったマイルス・デイヴィスのバンドのメンバーと録音したのがこの作品。

偏見に満ちた小難しさもあざとく小賢しいお洒落っぽさもなしの、鮮やかで堂々とした演奏がかっこいい。
ミニマムな編成で快活な演奏の中から、生き生きした躍動感や楽しさが伝わってくる。
ジャズに限らずハードロックでもブルースでも、演奏が上手い人たちっていうのは得てして「演奏のための演奏」、とにかく楽器をいかに弾きこなすかだけを披露したがる傾向があるんですよね。その結果、よくわからないぐちゃぐちゃとしたソロの垂れ流しや丁々発止のアドリブの応酬が繰り広げられる。それをまた小難しく解説するようなおっさんが大嫌いだったわけですが(笑)、この録音はそんなことはなく実に心地よいのです。
ペッパーが艶やかに吹くホーンはもちろん、リズム隊のメンバーの演奏もそれぞれの演奏に刺激を受けながら実に気持ちよく盛り上がっている。これみよがしなテクニックのひけらかしではなく、みんなでひとつの歌を歌っている感じ。演奏の中にしっかりと歌心がある。
単にメロディーが美しいとかわかりやすいとかいうことではなく、演奏の向こうにちゃんと心が見えるというのかな。
そしてまた、ペッパーの演奏はとても明るく、力強い。
明るいといっても能天気な明るさではない。力強いといってもただ馬力があるパワフルさではない。
例えば明るいお日様の光を浴びて新緑を湛えた木々の、そんなきりっとした明るさと力強さなのだ。


ヘレン・メリルの名唱でおなじみの“You'd Be So Nice to Come Home To” でアルバムははじまる。出だしのピアノからすっと入ってくるおなじみのテーマ部分だけでもうぞくっとするような、艶やかな音色。
Imagination” はしっとりとロマンチックな雰囲気のスロー・ナンバー。アルトの音色が艶やかで、コロコロ転がるピアノもいい感じ。
ブレイクのあと三拍子になるところがなんともかわいらしい“Waltz Me Blues” 。
一転、ぐいと演奏のスピードをあげたアドリブの応酬、“Straight Life” 。
そしてぐいぐいと盛り上げていくおおらかな演奏、 “Jazz Me Blues” 。
Tin Tin Deo はちょっと昭和歌謡チックなラテン・リズム。
Star Eyes も大好きな一曲。ラジオから突然鳴りだしても踊り出してしまいそうなポップなダンス・チューン、って感じ。
そして、いかにもモダン・ジャズのセッションみたいな“Birks Works” 。ありがちな感じではあるのだけれど、やっぱり一人一人の演奏に冴えを感じます。

楽曲のバリエーションの豊かさ、とくにリズムの幅の広さも、僕がこのアルバムを好きな一因かもしれません。ひとつの中にとおりいっぺんじゃないいろんな側面が見えるのが好きなんですよね。
それは人に魅力を感じるときもそうかもしれない。

まぁそれはさておき、そんなふうにしてジャズにもかっこいいものがたくさんありそうだと感づいた僕は、その後片っ端からいろんなアルバムを聴き漁った。
素晴らしいアーティスト、素晴らしい作品にも幾つか出会ったし、名盤と呼ばれていてもまるでちんぷんかんぷんでわけわからないのもいくつもあった。
そうやってたくさん聴いて自分にヒットしたものとそうでないものをふるいにかけていくと、結局好きなのは、シングル・ホーン+ベース・ドラム・ピアノの少人数編成で歌心が聴こえてくる演奏、ということが改めて浮き彫りになる。
なんだ、それってつまりはこのアルバムやんか、ということになって、それからはあまり色んなものに手を出さず、気に入った数枚をたまにのんびり聴くことに喜びを感じるようになった。
ということで僕は、ジャズの奥深い世界をあまり旅することなくスタート地点に戻ってきてしまったのだけれど、それはそれでよかったのだと思う。
だって、マニアになりたいわけじゃないもの。ただ気に入った音楽を聴きながら過ごす心地よい時間や、素敵な音楽が呼び起こしてくれるいろんな感情を楽しむのが好きなだけなんだから。
そして、心地よい演奏に身を委ねながらふと自問自答する。
大嫌いな脂ぎったおっさんにはなっていないよな?と。




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コメント

[C1855]

mono-monoさん、こんばんは。
なんだかね、今思えばああいう物言いの人たちにだまされた感じってありますよね。ハード・ロックとプログレだけでロックを語られていたのに近い感じ、もっと間口広いじゃん、って。
mono-monoさん好みのジャズは、ゆるくて楽しいのが多くて良さげ。
ウェス・モンゴメリーは素通りしちゃったのでまたいずれ聴いてみたいと思います!

  • 2013-05-15 23:47
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C1854]

リュウさん、毎度です。
ジャズ道を極めた人の前で「アート・ペッパーが最高!」なんて言うときっと、わかってない!と、とっちめられるのかもしれません。
ロック好きに「ジャーニーが一番好き。」と言うような浅い感じ?
でもそれでいいのです、極めるつもりないし(笑)。
ワクワクするのが一番ですよね。
  • 2013-05-15 23:40
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C1853]

「しかめっ面したおっさんが小難しい講釈を垂れながらお説教を食らわせるイメージ」
私も同じように思ってました。
まさかジャズを好きになるとはねェ(笑)。
私の場合、ジャズの目覚めはウェスモンゴメリー「フルハウス」でした。
ロック少年だった私にはギターが取っ付きやすかったのでしょう。

このアルバム、大好きですがしばらく聴いてませんでした。
やっぱり素晴らしいっす。
ありがとうございました!

[C1852]

お早うございます♪
jazzはそれほど聴いてはいませんが、このアルバムはお気に入りです!!
ワクワクしてくるんですよね♪
アート・ペッパーが自分に一番しっくりくるようです!
  • 2013-05-15 08:15
  • リュウ
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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