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◇遠い朝の本たち

がんばりすぎてとうとうダウン(笑)。
ちょっとめんどくさいトラブルの目処がたってほっとしたせいか、金曜日の朝から脳みそがまるで働かなくなってしまい、早々に帰って爆睡。12時間寝てちょっと回復、遅れた分を土曜日に一日かけて取り戻しました。
やらないといけないところまでやれて、ちょっとスッキリした気分。
宿題を持ち越して、また週明けからへとへとなのも嫌だったので。

今日は思いっきりだらだらする休日。
こういう疲れたときに癒やしてくれるのは、落ち着いた語り口の文章なのです。

遠い朝の本たち (ちくま文庫)
遠い朝の本たち / 須賀 敦子


須賀敦子さんは、1929年生まれ。
学生時代にイタリアに惹かれ、29歳のときにイタリアに渡り、翻訳などで活躍された後、帰国。50代の後半からイタリアでの経験を主軸にした随筆で作家となり、69歳で98年に亡くなるまで、多くはないが素敵な著書を残された。
この本は、イタリアがらみではなく、少女時代からの本にまつわる思い出を中心にしたもの。本への思い出と共に、厳格だった父親や、仲良しだった妹、戦時中に共に疎開した幼なじみや、学校の先生や旧友、そして幼い頃の自分の事が語られている。



春だな。それが、最初に私のあたまにうかんだことばだった。そして、そんなことに気づいた自分に私はびっくりしていた。皮膚が受けとめたミモザの匂いや空気の暖かさから、自分は春ということばを探りあてた。こういうことは、これまでになかった。もしかしたら、こんなふうにしておとなになっていくのかもしれない。論理がとおっているのかどうか、そこまでは考えないままに、私はそのあたらしい考えをひとりこころに漂わせて愉しんだ。
だが、その直後にあたまをよぎったもうひとつの考えは、もっと衝撃的だった。それは、「きっと、この夜のことをいつまでも思いだすだろう」というもので、まったく予期しないまま、いきなり私のなかに一連のことばとして生まれ、洋間の暗い空気の中を命あるもののように駆けぬけた。「この夜」といっても、その日の昼間がごく平凡であったように、なにもとくべつのことがあったわけではない。それでも、ミモザの匂いを背に洋間の窓から首をつき出して「夜」を見ていた自分が、これらのことばに行き当たった瞬間、たえず泡だつように騒々しい日常の自分からすこし離れたところにいるという意識につながって、そのことが私をこのうえなく幸福にした。たしかに自分はふたりいる。そう思った。見ている自分と、それを思い出す自分と。



須賀さんが女学校二年生の頃の体験を思い出して書いた「『サフランの歌』のころ」という随筆より。
たくさん書き出しちゃったけど、この文章、好きだなぁ。
穏やかで透明感があって、明晰だけど静かな感情の流れがあって。
遠い日の、キラキラしたものを思い出す。
素敵な音楽のようなこういう文章に触れると、心の奥底で元気がふつふつと湧いてくるような気がする。

雪がちらつく今日、寒さはまだまだ厳しいけれど、心の中、すこしだけ春の兆し。
また明日からもがんばれそうな気がしてきた。




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コメント

[C1730]

mono-monoさん、こんばんは。
>文章の美しさにうっとり
>深いところに降りていく
まさにそんな感じですね。
早くに亡くなられたのが本当に惜しい方でした。
サイン本も、この先増えることがないので貴重なんでしょうね。
  • 2013-01-28 23:25
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C1729]

須賀敦子さん、私も大好きです。
読むたびに、文章の美しさにうっとりしています。
ぐったり疲れていても、むしゃくしゃしていても、須賀さんの本を手にとると、すっと読めて言葉が深いところにおりていく気がします。

私の野望は、須賀さんのサイン本を入手することです。

[C1728]

まりさん、こんにちは。
調べてみたら向田邦子さんも1929年(昭和4年)の生まれですね。まりさんのお母様はもう少し上だったでしょうか。
茨木のり子さん、石牟礼道子さんなどあの世代の女性作家には共通して、凛として高潔な感じがあって素敵です。
女への偏見が強い時代をたくましく乗り切ってきたパワフルさと自律度の高さ、そして女性ならではのやわらかく細やかな視点。
読んでいて心地よく、充電されます。

  • 2013-01-28 08:22
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C1727]

なんかドラマでも見てるような文章ですねえ。
向田邦子のドラマみたく、あの時代の女学生って 無垢で冷静な観察眼があって 日本が日本らしかった昭和のはじめのマジメさがいいですね。
goldenblueさん ダラダラして疲れをとって下さいねえ。
  • 2013-01-27 16:13
  • まり
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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