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♪THE PRETENDER -My Vintage(11)-

プリテンダー
The Pretender / Jackson Browne

Released:1976

 荒れた風が空を横切り
 枯葉が千切れて飛んでゆくのを
 僕はじっと見ていた
 取り繕えるものならば取り繕いたいけれど
 できはしないことを悔やんでいるんだ
 ほんのひとつかふたつ
 あなたに言った不親切な言葉を
 父さん あなたはどう思っていたのでしょうか?
 どうしてあなたとそんなに話しづらかったのだろう
 僕の怒りはもうとっくに通り過ぎていったのに

ジャクソン・ブラウンの『プリテンダー』に収録されているDaddy's Tune という曲。
今になってみればもうどうすることもできないけれど、とても思い当たる歌詞だと思う。
父親と息子のコミュニケーションのすれ違い、これはきっとどこにでもあるものなのだろうな。
親は自分の通ってきた道を振り返って、我が子には同じような失敗をさせたくないと願う。子供にとってはそのいちいちがひどくうっとおしい。
いくらお説教をされたところで結局は、自分で転んで痛みを知らない限りは転ばないための術は身につかないものなのだろう。形だけうまく生きようとするのではなく本当によりよく生きるためにはその方がいい。
それがわかっていたから僕は家を出たし、父もある時期からは態度を変えた。言葉には出さなかったけれどそのことはお互いよくわかっていたのだ。
なぜなら父も同じようなことをしてきたのだし、そもそも同じ遺伝子を持つ相似形の二人だったのだから。

父が亡くなってもうすぐ1ヶ月。
慌ただしい毎日が続いて、なかなかしんみりとする時間もない感じ。
雪国のようなどんよりとした冬空の毎日が、どんより感を加速させる。
こんな気分の時に必要な音楽は、ハイ・テンションなものより、少しグレイなもののようだ。

 時々ふと、真夜中に目が覚めて思う
 僕の人生は僕をどこへ導いて行こうとしているのか
 暗闇の中で眠りにつき、静かな門をくぐるのを待っている
      (Sleep's Dark And Silent Gate

『プリテンダー』に収められた8つの楽曲にはどれも、キシキシとするような深い痛みが刻み込まれている。
いつもいつも聴きたいレコードではないけれど、一年に一回とかそのような頻度で無性に聴きたくなり、その深い溜息のような音楽に委ねることで癒されることがある。
絶望ではない、無常感でもない、嘆きや絶叫ではない、ひたひたと悲しみに身を浸すような静かで穏やかな感情。
プラスかマイナスかで言えば圧倒的にマイナスなのに、最後はとても穏やかな気分になることができる。救われた気分になることができる。
どの曲にも、生真面目に物事を真っ直ぐに捕らえようとするジャクソンの真摯な姿勢がある。マイナスだけどネガティヴではない。
本当に救いの手がほしいとき、心に響くのはポジティヴなメッセージ・ソングではなく、痛みを受け止めてくれる何かなのだと思う。

それにしても、このジャクソンの表現姿勢をしっかりとサポートしているバックのメンバーの、確かな技術とそれに裏打ちされた表現力は見事と言う他はない。
盟友デヴィッド・リンドレーはThe Fuseの1曲にしか参加していないものの、Your Bright Baby Bluesでグッと染み入る素晴らしいスライドを披露してくれるリトルフィートのロウエル・ジョージや、後に再結成フィートに参加することになるフレッド・タケットの控えめながら味わいのあるギターは超一級品。 Here Come Those Tears Againにはジョン・ホール、 Only Childにはアルバート・リーのクレジットもあります。
リズム隊はラス・カンケル&リー・スクラー、ジム・ゴードン&ボブ・グラウブ、ジュフ・ポーカロ&チャック・レイニーといった名うての面々、ピアノとオルガンには、クレイグ・ダーギー、リトルフィートからビル・ぺイン、そしてEストリート・バンドからロイ・ビタン。
これらの楽曲たちが例えば弾き語りで歌われたものだったとしたら、痛みの感情はもっとストレートに響くのかもしれないけれど、癒される感情やふつふつと湧いてくる力強さはむしろ後退してしまうのだろうな、という気がする。

アルバムを締めくくるThe Pretender

 きっと変わると信じていたあの変革はどこへ行ってしまったのか
 僕たちが待っていた、愛がもたらすものは、だだの気まぐれな夢だったのか?
 それとももっと大きな目覚めなのか?
 誰もが「時はまるでウインクみたいにあっという間に過ぎてしまうものだ」というように
 時間がただ過ぎていくのをじっと見つめている

男は静かにあきらめ、プリテンダーとしてこの愚かな社会を受け入れながら静かに暮らそうと呟く。
生真面目で皮肉屋のジャクソン・ブラウンらしい表現だ。
でも、おそらくそんなことはできるはずがない。
歌詞で歌われた絶望感や無常感とはまるで逆の意味を、ミュージシャン達のすばらしい演奏に語らせているような気がするのだ。

ちょっと疲れ気味、でもまだまだ疲れている場合じゃない。
もうちょっとがんばってみよう、例えば音楽の力を借りたりしながら。


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[C1744]

おぎてつさん、こんにちは。
僕はジャクソン・ブラウンのことを初めて知ったのは、映画のサントラでちょっとヒットした"Somebody's Baby"、それから「愛の使者」が出たのだったか。
その後、「孤独のランナー」から順にさかのぼりました。
「Lives in the Balance」もけっこう聴いたのですが今手元になくって、""For America"が好きだったけど、ベスト盤には入っていませんね。

おぎてつさんとジャクソン・ブラウン、なんとなく意外な感じもしますが、歌と演奏のクオリティの高さはやはり誰しもをうならせるものがありますよね。
  • 2013-02-10 11:04
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C1743]

ジャクソン・ブラウンは初めて日本に来日した時から、それ以後3回ぐらいまで観に行った覚えがある。
このプリテンダーは、かなり重い感じがするので、人によっては聞き辛いと言われてましたが、僕は昔からのファンなので、好きな歌も有りました。

次ぐらいでしたっけ? Hold On、Hold Outが出たの? これは少し違和感が有りました。で、聞かなくなってしまったけれど、ブッシュ(父)が起した湾岸戦争の時に、Life in The Balance聞いて、また聞き出しました。

でも、昔からのファンとしては、ノンビリしたムードの時に、”Something Fine"を聞くのが好きだったりして。

オギテツ

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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