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♪'80のバラッド -My Vintage(21)-

80
80のバラッド / 泉谷しげる
Released:1978

暑い。
じとっとこもった湿気と熱気。
じっとりと噴き出す汗、体力消耗、疲労蓄積、意識朦朧。
でも仕事は山盛りにある。
こんなとき、聴きたいのはさわやかなサーフィン・ミュージックやリゾート・ミュージックなどではない。そんなものでその場をごまかしてみたところで少しも心地よくなどなりはしないのだ。
ザラザラした音が聴きたい。
心の中の野生を荒れたアスファルト・ジャングルに解き放つような。
沸々と熱く、そして醒めたやつ。

そんなわけで今日のチョイスは泉谷しげるです。

なんて言えばいいんだろうか、このアルバムに閉じ込められた音にある、醒めた熱気、狂おしいばかりに心の奥から噴き出してくるような熱さと、したたかなまでにクールで落ち着いた肚の座った感じ。
この作品を名作たらしめている一番の要素は、泉谷の声だ。
ヤスリのようにざらついた、しかしながらドスが効いただけではない深み、闇ではない深みを持った泉谷の声。


火力の雨降る街角
なぞの砂嵐にまかれて
足とられヤクザイラつく午後の地獄
   (翼なき野郎ども

この歌の詞の意味するところが何なのか、実はいまだによくわからない。
圧倒的にパワフルで、しかしそれはただパンチがあるということではなくむしろ心の奥底で沸々と煮えたぎっているマグマを抑えきれないようなパワフルさで、なぜだかはまるでわからないけど自分の心の内にエネルギーが湧き出てくるような気持ちにさせられてしまうのだ。
デトロイト・ポーカー”も然りだし、また“裸の街”でのざらつきや、“エイジ”での祈るような遠吠えのような歌い方や、“波止場たち”での揚々としたうねりのある声もそう。
脳みそに直結して伝わってくる感情や情景がある。
言葉からではない。論理を通じて理解納得した上でのそれではなく、むしろ生理。
やはり声、なのだ。
フォーク・シンガーとして独りで歌っていた頃の泉谷の声は、もっと凶暴で暴力的ないらだちを持っていた。わかりやすく目の前にいる相手をぶちのめし、自分を恥ずかしさを自虐するような声だった。
ややもすればひとりよがりになりがちなそんな歌い方から、押し引きや起伏のある表現方法を獲得するまでには一体どんなことがあったのか、そのことに少し興味がわく。
それは、今の自分にとって重要な手がかりになるのではないだろうか、という気持ちがうっすらとするのだ。
へこたれずにタフに生き残っていくために、生き残るための生き残り方を自分自身で切り拓いていくために。

そしてもちろん、バンドの演奏のしなやかさがより泉谷の声を際だたせていることは間違いがない。
泉谷の声の持つ原始と野生の部分に呼応しているのが、島村英二の豪快で引き締まったドラムス。クールで研ぎ澄まされた部分に呼応しているのが、加藤和彦や柴山好正、和彦兄弟のギター。独特のうねりやある種のセクシーさと響きあうのが吉田建のベース。そして中西康晴のピアノが泥臭さのエッセンスを盛り込む。
柴山和彦と吉田建はこの後、沢田研二のエキゾチックスに参加して脚光を浴びることになるのだけれど、一見似ても似つかぬジュリーと泉谷が、彼らの音を通じて繋いでみると意外にも共通点があるような気がしてくる。
それはつまり、都市化された社会で暮らすいらだちとその中でタフにやっていくためのスタンス、その過程に生まれるある種の艶気。
逆説的かもしれないけれど、都市で暮らすことのいらだちから生まれるある種の艶にこそ生きていることの魅力があるのだとすれば、僕たちは結局都市で暮らすことから離れることなどできっこないのかも知れない。

だからこそ、このクソ暑い真夏の都会を乗り切るためのBGMは、さわやかなサーフィン・ミュージックやリゾート・ミュージックなどではない。
ザラザラした気持ちを抱えたまま、醒めた熱気の中で吠えるのだ。
なんていいながらホントはちょっと木陰でのんびりやり過ごしたい気持ちにも心惹かれるのだけれど(笑)、今はまだ。それに、そーゆーのってどうせすぐに飽きちゃうでしょ。
もうしばらくは踏ん張りたい。
だからこそ、こんなふうにエネルギーがマグマのように湧いてくる音楽が、今は必要なのです。



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コメント

[C1919]

非双子さん、こんばんは。
自分に正直な生き方、それはそれでリスクもあるでしょうけど、泉谷さんみたいに楽しそうにやっている人を見ると元気がでますね。
やっぱり周りを省みず、とことんやっちゃったものがちなのかもなぁ、なんて。

[C1918]

「黒いカバン」や「春夏秋冬」をリアルタイムで聴いてました

フォーライフレコード設立時のニュース番組も見た記憶が有ります(当時にしては画期的出来事!)

今は、イカした爺さんになってるようですね(笑

自分に正直な生き方されてるんで、好き!!




  • 2013-07-24 21:57
  • 非双子
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[C1915]

ezeeさん、毎度です。
泉谷のおっさん、かっこいいですね。
特にこのアルバムは、スプリングスティーンやルー・リードを連想させるような男前ぶりです。
関西は引き続き暑いよー。

[C1914]

まいどです。きばってはりますか!
泉谷って汚い声で全然歌上手くないけど、ぶるっとさせてくれますね。
歌うときの目つきも好きです。コザック前田と演った曲も良かったなぁ
  • 2013-07-20 23:42
  • ezee
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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