FC2ブログ

Entries

♪IF I SHOULD FALL FROM GRACE WITH GOD -My Vintage (9)-

If I Should Fall From Grace With God
If I Should Fall From Grace With God / The Pogues

Released:1988

ロックンロールのルーツはブルースとカントリー。
そして更にそのルーツになるものはアイルランドの古い民謡だと言われている。
大量にアメリカに渡ったアイルランドからの移民が持ち込んだフィドルやバンジョーなどの弦楽器を使った音楽に、アフリカから連れて来られた黒人たちのリズムが出会ってブルースが生まれたのだ。

では、なぜたくさんのアイルランド人がアメリカに渡ったのか。
それは貧しかったから。
1800年代半ば、アイルランドは主食作物のジャガイモの病気による大飢饉に襲われた。
それは未曽有の大飢饉で、しかし領主たちは苦しむ民衆をさしおいて数少ないジャガイモをイギリスに輸出し、結果全国民の2割以上が飢えて死んだという。
生き延びる術を求めて人口の2割近くの人々が、当時新天地だった自由の国アメリカに渡った。
しかし、遅れてきたアイルランド人たちに与えられた仕事は、鉱山や大陸横断鉄道の工事現場など危険で厳しいもので、事業を興して成功する者などほんの一握り。多くの人たちが貧しい暮らしを強いられながら故国に帰ることすらできなかった。
労働の疲れを癒やし、遠く離れた故国を思い、アイルランド人たちは週末になると故郷の音楽を奏でては歌い踊り飲んだくれたのだろう。
そしてその音楽は、過酷な労働を共にした黒人たちや貧しい南部出身の白人たちに伝わり、ブルースやカントリーになっていったのだ。

ザ・ポーグスの“If I Should Fall From Grace With God”。邦題は「堕ちた天使」というタイトルがついているけれど、原題の意味するところは「もし私が神の恵みから見捨てられているならば」。そんなタイトルの通り、今日をしのぐのですらやっとの貧しく落ちぶれた社会の底辺で喘ぐ人々の物語が歌われている。

   もしも私が神の恵みから見捨てられているならば
   私の不安を取り除くことができる医者などどこにもいない
   私が芝生の下に埋められる時が来ても
   天使はきっと私を受け入れないだろう

   行かせてくれ
   行かせてくれよ
   川の水なんて全部干上がった泥んこの中へ
     (“If I Should Fall From Grace With God”)

とんでもなく絶望に満ちた歌詞。それをポーグスはアイルランドの伝統的なダンス・ミュージックにのせて歌う。まるでやけっぱちだ。そのやけっぱちさが、よりどうしようもなさをくっきりと浮かび上がらせる。

   「こんなはずじゃなかった。
   ポンコツ船でようやくここまでたどり着いたのに
   成功には程遠く 呼び名すら変えさせられた」
   あの男はそう嘆いたんだ
    
   幾千もの同胞が航海に出た
   北大西洋を渡って 幸運が待つ国へ
   けれどその幸運に恵まれないものもいる 
   北大西洋の向こうには 金がうなっているんだと
   彼らはたらふく食って 自由に生きているんだと
   貧困の鎖を断ち切って 踊り明かしているんだと
   幾千もの同胞が   
      (“Thousands Are Sailing”)

“Thousands Are Sailing”は、希望を求めて海を渡り、幸運に見離されたまま貧しい暮らしを強いられた移民たちを歌った歌。
美しいクリスマス・ソングの“Fairytale Of New York ”もそんな歌。
夢を抱いてニューヨークに来て、一瞬成功したもののやがて落ちぶれていく一組の夫婦の物語。
シェイン・マクゴウアンとカースティー・マッコールの掛け合いが胸をしめつけられるように心にしみる。


世の中は今、どんどん経済格差が広がっているのだという。
能力や努力の差ではなく、生まれた時代によって仕事の内容は同じでも(場合によってはより過酷でも)低い賃金で働かざるを得ない人たちがいる一方で、窓際でろくに仕事もしないくせにがっぽり給料をせしめている奴もいる。
そういえば先日ある講演会で、「貧困の装置化」という言葉を聞いた。
「貧困の装置化」とはつまり、ある特定の層の人たちにとって、貧困は利益を生む装置、システムなのだということ。貧困があるほうが儲けるのに都合がいいということ。
そもそも資本主義経済は、別の場所で収穫なり製造なり加工なりしたものを動かすことで成り立っている。
経営者にとっては、その前の段階のものを安く仕入れれば仕入れるほどたくさんの利益がでる。
安い原料、安い人件費を求めて経済はグローバル化する。
アメリカは1800年代半ば、貧しい人々を安い賃金でこき使って産業を大きく発展させて国力をつけた。その力を背景に、産業のない国にモノカルチャー経済を押しつけて、コーヒーやバナナや綿花を作らせて安く買い叩いた。その貧困は装置化され、今も続いている。
人件費の安い中国やベトナムに日本では到底コストが見合わない作業を委託したりすることで手にすることができる良質で安価な商品の数々は僕らの暮らしを取り巻いている。あなたの家の猫が食べているペットフードは、そのペットフードよりも遥かに安い人件費で働いている外国人の少年少女たちの労働によってできているのだ。
そのことで確かにその現地の経済が幾ばくかは潤う。けれどパートナーシップなどという綺麗な言葉で飾られたくびきから逃れることができなくなる。地域の主導権を根こそぎ奪われる。
これは決して外国の話ではなく、沖縄の基地も、福島をはじめとする原発立地自治体も同じ構造の中にある。
そして、そういう僕の仕事とて、派遣会社や委託会社からのパートナーシップという名の搾取抜きにはもはや成り立たないのだ。
だからといって今すぐにどうすることもできないけれど、自分は世界中の大多数の人々から見れば実は搾取する側にいる人間だということは認識しておきたいと思う。


重い気分になってしまった。
このアルバムで一番大好きな曲“Fiesta”でも聴いてぶっとばそうか。

世間は 忘年会シーズンも追い込みの時期。
繁華街の賑わいの中にいると、景気が悪いなんて嘘みたいな気がする。昔から変わらない歳末の光景。大声でわめく酔っぱらい。陽気なのか、それともよっぽど普段鬱屈しているものがあるのか。
ポーグスの音楽はやけっぱちの酒盛りががよく似合う。
ロックンロールの古いルーツであるアイルランド民謡を再びロックンロールと融合させたその音楽には、怒りと悲しみとひとときの享楽の楽しさと虚しさがある。そしてやけっぱちのエネルギーを放っている。時代を越えて今も生々しく心の深いところまで響き渡るだけの強さがある。




このアルバムには収録されていないけれど、このアルバムの後に出たシングルをおまけに。
めちゃくちゃかっこいいんです!

Yeah Yeah Yeah Yeah Yeah
Honky Tonk Women



スポンサーサイト



この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://goldenblue67.blog106.fc2.com/tb.php/754-7fdf739e

トラックバック

コメント

[C1667]

Okadaさん、こんばんは。
この12月はなぜかポーグスとユーリズミックスばっかり聴いています。

モータウンのソウルナンバーみたいな“Yeah,Yeah,Yeah,Yeah,Yeah”と、まさに酔いどれの“Honky Tonk Women”、かっこいいでしょ。
『The Rest of Best』という続編的ベスト盤に入っていたのですが、今は廃盤で、『Love and Peace』というアルバムのボーナストラックに収録されているようですよ。
  • 2012-12-23 00:09
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C1666]

このアルバムは大好きです。
久々に今夜聴いてみよう。
最後のシングル曲、知りませんでしたが、カッコいいですね。

“どん底やはみだした場所で生きている力強さ”
確かにそんなエネルギーはヒシヒシと感じますね。

豊かな暮らしから生まれる音楽と
貧しい暮らしから生まれる音楽
という分け方ができるかどうかはわかりませんが、
ぼくらが共感する音楽は
きっとハードな暮らしから生まれたものが多いのですよね。

[C1665]

まりさん、こんばんは。
そうか、今の日本の音楽がどうも心に響かないのはそういうことなのかもしれませんね。
沖縄の音楽や関西ブルース、80年前後のパンクやニューウェーヴに今も力があるのは、やっぱりどん底やはみだした場所で生きている力強さがあるからなのかも。
今の日本人も大多数は裕福ではないのに、はみださずにこじんまりとしがみついている感じがありますもんね。。。
  • 2012-12-19 21:28
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C1663]

ケルト音楽は大好きですが これはちょっとやさぐれて
酒場の匂いがプンプンしますね!

貧しいものが生んだ音楽って いつの時代でも
胸を打つ力があります!

この力強さが 日本の音楽に欠けているんですよね(*^_^*)
  • 2012-12-19 17:47
  • まり
  • URL
  • 編集

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

Profile

golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

Calendar

09 | 2020/10 | 11
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

Gallery

Monthly Archives