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♪1993年6月 エルサレムの印象

parestina

バスはスエズ運河を越えてシナイ半島の砂漠の中をひたすら走り、国境に着いた。
乗客はそこで全員一度降ろされて、銃を肩に担いだ兵隊が警備をしている入国管理の建物に連れて行かれる。
とてもものものしい雰囲気、だが意外にもあっさりと入国を許可される。

パレスチナ問題のことはいまひとつよくわからなくて、いろんな本を読んだりはしたのだけれど、やはりよくわからない、というのが本当のところ。
時系列として何が起きたのかはまぁある程度は理解できる。
要は2000年以上も前に追い出されてヨーロッパ中に散り散りになった民族が、宗教的伝承を実現するためにその地に戻って国を作ったということ、そのせいでそれまでそこに住んでいたアラビアの人たちが追い出されたということ。そのことに賛成する国と反対する国がそれぞれの利害を懐に持ちながら対立しあっている、ということ。
日本人にとって想像しがたいのは、2000年以上も前のことを脈々と現代に持ち込んでいるその歴史観。これは、自分たちが生き延びるために地続きの土地の奪い合いを繰り返してきた民族でないと理解できないものなのだろう、と思う。
ただ、イスラエルの中心部に着いたとき、なんとなくわかった気がした。
30分前まで砂漠がひたすら続いていた土地が、突然緑に変わるのだ。
かつてこの土地は、「乳と蜜の流れる場所」と呼ばれた土地。
地中海を渡ってくる風がここで初めて山にぶつかるため、ここでは雨が降るのだ。
ひたすら乾いたこの地域で、この土地は天からの恵みのような土地だったのだろう。

イスラエルで印象に残ったことを幾つか。

◆エルサレムはアップダウンの激しい丘の中の町で、旧市街地は城壁に囲まれている。
城壁の中はキリスト教徒地区とユダヤ教徒地区とイスラム教徒地区に分かれていて、見えない国境があるみたいに街路をひとつ隔てるだけで雰囲気がまるで変わる。イスラム教徒地区だけがスーク(市場)だらけでとてもにぎやか。キリスト教徒地区は、巡礼者らしき団体客がわさわさ。
土壁で囲まれた狭い通りをうろついていると(当然車は入って来れない)、まるで中世の世界に来たような錯覚を覚えた。

◆新市街は、開かれた普通の近代都市。アメリカの街のように華やかで賑やか。
ヤッフォ通りは一番のおしゃれな通りで、夜には歩行者天国になる。
街路の真ん中にレストランがテーブルを並べるオープン・カフェでは、若い女の子たちや恋人達が思い思いに楽しんでいる。
どこの国でもきっとよくある光景。
ただ、ひとつだけ違ったことは、彼女らの背中にごく当たり前のように銃が背負われていたこと。
イスラエルは国民皆兵で女性にも兵役の義務がある。

◆シオンの丘にあるホロコースト博物館。
見るもおぞましい悲惨な展示物の数々。
人間の油を絞って作った石鹸を見たとき、えげつなさに吐きそうになった。

◆市内を走るバスはユダヤ人用とパレスチナ人用に分離されている。
ユダヤ人用はエアコン付きの、日本で見かけるのと同じ快適なバス。パレスチナ人用はエジプトで見たのと同じ、窓枠も外れたようなおんぼろバス。
係争中の街であることがわかるものはそれくらいで、一見とても平和に見えた。
ただ、市場で話しかけてきたある男と世間話をしていたときにこんなことがあった。
別れ際に、覚えたてのヘブライ語で「シャローム(=さよなら。平和に、の意でこんにちはもシャローム)」と言ったら、それまで和やかだった男が急に血相を変えて「私はパレスチナ人だ。ヘブライ語を使うな。マッサラーマ(=アラビア語のさよなら)と言え!」と言ったのだ。

◆入国はわりと簡単だったが、出国するときにはえらいめにあいました。
出国カウンターでイスラエルに入国した動機やらなんやら質問攻めに会い、カバンは全部ひっくり返された上に、どこか怪しいと思われてしまったのか別室へ連行されてパンツ一枚になってのボディチェックまで受けさせられる始末。
この国には二度と来ない、とそのとき心に誓いましたが(笑)、これも日本の常識からはとても考えられないこと。戦争やテロがいつも隣り合わせにある国の危機感を肌で感じた瞬間でした。


イスラエルに関連する音楽というものがこれといって思いつかないので、今日の音楽はこれ。

Patti Smith -Seven Ways Of Going

ウェイヴ(紙ジャケット仕様)
Wave / Patti Smith


パティ・スミスの歌には、とても難解な歌詞のものがたくさんある。
そして時にはとても宗教的に響くメロディー・ライン。
彼女の世界を理解するためには、世界史的なもののバックボーン、そして聖書的な世界観が必要なのだろうな、という気がする。


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コメント

[C1372]

花マロリンさん、こんにちは。
海で隔てられて、ひとつの国としてのまとまりが自然発生的にできていった僕たちの国と、住んでいた人々を追い出して新しく国境線を引っ張った国。国の成り立ちそのものがまるで違うので、きっと国家観そのものがまるで違うのでしょうね。彼ら彼女らは、国を守る義務は当然のことと受け止めているのだろうと思います。
平和ぼけと言われようと、日本で生まれてよかったですよね、、、

  • 2012-07-04 08:47
  • goldenblue
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[C1371]

すごいですね
日本では考えられません

日本はダメだーーーなんて日ごろ
言ってしまってますが
中東の怖さに比べたらオアシスですね

銃を背負って恋人と会うなんて。

日本人でよかったです(^^)
  • 2012-07-04 04:03
  • 花マロリン
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[C1369]

Ogitetsuさん、こんにちは。
実は当時、1972年のテルアヴィヴで何があったかすらまるで知らないままだったのです。無知とは恐ろしいものです(笑)、今思えば。
そんな恐いところへ行ったという認識はなかったのですが、数年後ラビン首相が暗殺されたり、エジプトでも大きなテロが頻発したり、僕が行ったのはたまたま凪の時期だったのです。
  • 2012-07-02 08:29
  • goldenblue
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[C1368]

まりさん、こんにちは。
ユダヤに関してはいろんな噂や陰謀説がありますね。
真偽のほどはまるでわかりませんが、あんまりいい印象でなかったことは確かですね。
ひとりひとりはいい人なんでしょうけど。
  • 2012-07-02 08:09
  • goldenblue
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[C1367] ogitetsu

もう20年以上の前ですが、ニューヨークのJFK空港で人の見送りに行きましたら、エアラインがEl Al、つまりイスラエルの飛行機会社。
ロビーでは、ほとんど10分ごとぐらいに職務質問や身分証の提出を求められました。
やはり、彼らとしては日本人が空港に現れると、Kozo (公三)を思い出すようです。
日本人でも、杉浦畝などが居るんですけどね。

世界で一番金を握っているのは、アングロサクソン、つまり白人ですよ~。
それと裏で国境を跨いで金を動かしいてるのは、華僑でしょう? やはり。

オギテツ

[C1366] むずかしいことは分からないけど

イスラエルなんて 普段ほとんど意識してないけど
TVで見たけど 昔何人かの ユダヤ人が日本に流れついたんだって。
っで祇園祭の刺繍にユダヤ人が 描かれていたり
伊勢神宮もユダヤ人がかかわっているとか謎があるみたいです。

ヒトラーが 現れる以前から ユダヤ人ってヨーロッパ人には嫌われているし お金を動かしている; 一筋縄でいかない民族であることは確かですよね!

  • 2012-07-01 19:51
  • まり
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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