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◇科学の扉をノックする

「この世界で人間が一番賢いわけではない、ということをいつも私に教えてくれるのが科学です。そう教えられると、なぜか心が安らかになって、空気を深く吸い込めるような気分になります。」 (文庫版あとがきより)

科学の扉をノックする (集英社文庫)
科学の扉をノックする  / 小川 洋子


先週たまたま本屋で見かけて何となく買って、予想以上におもしろくって読みふけっていたこの本は、小川洋子さんが、天文・鉱物・遺伝子・電子・微生物・解剖のそれぞれの研究者とプロ野球のトレーニングコーチにインタビューし、科学の世界の魅力に迫った、というもの。
宇宙の神秘や、生命の不思議さについて、とてもナチュラルに、素朴な感動を伝えてくれるところが好感が持てる。

いくつか引用してみよう。
「我々の身体の炭素や窒素は、50億年以上も前に、どこかの星でできたものなんです。しかもその星は爆発して、今はもうなくなっているんです。」
ネアンデルタール人かクロマニヨン人か知らないが、とにかく自分の先祖がいることはなんとなく認識していた。精一杯頭を振り絞ってイメージするならば、海に誕生した単細胞生物まで遡ることも不可能ではない。しかし、50億年以上昔の宇宙に、自分の起源があるなどとは思ってもいなかった。
        (1章 宇宙を知ることが自分を知ること)

「大腸菌から人間まで、すべて同じ遺伝子暗号、同じ遺伝子暗号解読表を使っているんです。これはすごいことでしょう。人類は皆兄弟だと言う人がいますが、それどころかすべての生き物がDNAでつながっている。」
        (3章 命の源 “サムシング・グレート”)

私がおもしろいと感じたのは、進化が決して、栄光に彩られた勝利の賜物ではないということだった。生存競争を勝ち抜き、全生物の頂点に立ったかのように見える我々ヒトでさえ、その進化の歴史は失敗に彩られているらしい。偶然や勘違いを無数に経て、転んだり道に迷ったりしているというのだ。その結果、進化の“当初の狙い”と最終的に出来上がったものの役割が異なる事態も決して珍しいことではなく、むしろそれこそが進化の常道となっている。
        (6章 平等に命をいとおしむ学問 “遺体科学”)


理系の話を理系の人がするとなんだかとても小難しくなってしまうのだけれど、小川洋子さんならではの純朴な視点から入ればこんなにも深く心に入ってくるものになるのだな。


思い起こせば中学1,2年の頃までは、理科は嫌いな科目ではなかった。
図鑑を見たり、星座を探したり、顕微鏡をのぞいたり、天気図を書いたりすることはとても大好きだったのに、いつの間にか嫌いになってしまったのは、科学という学問が持つ大いなるロマンを語ってくれる先生がいなかったからだと思う。「この数式は覚えておきなさい」だの「ここが試験に出ます」だのそんな目の前の小さなことに対処する方法だけをチマチマ言うばっかりの勉強というものに僕はあるときからすっかり興味をなくしてしまったのだ。
勉強はそもそも、試験に通る事が目的だったのではないだろう?試験に通る事を通じて得ることが出来る幸せの可能性のために試験はあったはずだろう?手段が目的化されて本来の目的が見失われた時、物事はあやしくなる。
科学者なんて人たちも、そういう枝葉末節のどうでもいいことばかりをシコシコとやっている人たちという偏見があったのだが、この本を読んで改めてそれは偏見だったと思い知らされた。
この本に登場する7人の専門家の方々がとても素晴らしいと思うのは、目の前で起きている事象にワクワクして、それをもっともっと知りたいと思う好奇心と、その積み上げられた事象からはるか古代のことやはるかにミクロな世界のこと…つまり目で見る事ができない世界に対して想像力。
そして何よりも、科学を通じて人の暮らしや営みや生命について思いを馳せられていること。
読みながら、心が安らかになって、空気を深く吸い込めるような快い気分になることができた。冒頭に挙げた小川洋子さんの言葉と同じように。

知れば知るほどに、この世界は不思議で、謎に満ちていて、深い。
自分が今生きているということは、50億年来連綿と続いている長い長い時間の流れの中を繋がってきた奇跡のひとつなのだ。そしてその奇跡は、偶然を伴う絶妙の配分よって保たれてきたものであって、とても危ういもの、まさに奇跡的なバランスの上に成り立っているものなのだ。
自分の力をはるかに超えた宇宙のとても大きな力の中で今ここにある生命。
そのことを考える時、僕は世界に対してとても謙虚な気持ちになる。
それは、とても大切なことだ、と思う。




「大飯原発再稼動決定」の報道。
原子力をなんとしても維持したい人たちの言うことには、「この数式は覚えておきなさい」とか「ここが入試に出ます」とか言っていた教師に感じたものと同じ種類の嫌悪感がする。
人の営みへの謙虚な思い、つまりは宇宙の大きな力の奇跡的なバランスへの敬意ってものがまるで欠落したまま、目の前の金勘定や辻褄あわせだけに終始しているように見える。
そんな人たちのやることを、信頼する気にはとてもなれないな。




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コメント

[C1345]

花マロリンさん、こんにちは。
こういう話はとてもワクワクしますよね!
エクトプラズマ?よくわからないけどおもしろそう。
「気」というものは確かにあって、相互に影響を与えあっているような気がします。
小川洋子さんの小説は実は僕もちゃんと読んだことがないのですが、エッセイはとても素直な文章であまり気負わず自然なところが魅力的です。


  • 2012-06-19 08:38
  • goldenblue
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[C1344]

こんばんはーーー

こちらの本 かなり読みたいです!!

小川洋子さん 何冊か読んだことあるような気がして検索したらぜんぜん読んでなかった(汗)

妊娠カレンダー と博士の愛した数式が
有名ですね

私は ヒトの意識って
つながってると思ってるんです

イメージとしては 頭の先から
エクトプラズマみたいなモヤが
ひとつのでっかい心臓みたいなものにつながっている感じです

たくさんの人々が意識を高めてくことによって
どこかにスイッチがはいって進化する、という妄想


goldenblueさんのお話
すごく共感しました

眠る前のひととき ちょっとワクワクしてます

ありがとうございます!
  • 2012-06-18 23:35
  • 花マロリン
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[C1343]

konomiさん、おかえりなさい!
なんかねー、原発の報道を見る度に、なんか違うんじゃないかという気がしてて、結局それは自然への謙虚な気持ちの欠落なのかなぁーと思っていたのかなぁということがこの本を読んでそうか、と思ったわけです。
こういうことをもっと知りたいな、と今更ながら思ったりしています。
こちらこそこれからもよろしくお願いします!
  • 2012-06-18 20:52
  • goldenblue
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[C1342] ごぶさたです

興味深い本の紹介をありがとう。

今までの文明の進化も、ある意味人間の傲慢さが引っ張ってきたのかもしれませんが、
それを黙って許してくれてた地球にそろそろ恩返しをしないと、
きっと強烈なシッペ返しを食らうはずです。実際、起きてますしね。

何ができるんだろう?
その答えを知る為にも科学の話を理解する必要があると思います。

でも、たまに読む科学の本、すげー面白い。
子供の頃ってそうでしたよね、科学的な不思議さと上手に遊んでた。

数学の問題を解くのに、読解力が必要なように
科学の話を伝えるのにも文章力が絶対に必要。
理系と文系と分ける事自体が、受験勉強の罪。

受験に関しては積年の恨みがありますから(笑)


久々で長文コメントごめんなさい。
これからもよろしくです。
  • 2012-06-18 10:55
  • めれんげkonomi
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[C1341]

非双子さん、こんにちは。
そうですね。暮らしのありとあらゆるところで科学の知識は役立ちます。特にお料理は科学ですねー。水分と熱量のバランスひとつでこんなにもうまくもまずくもなるものか、と(笑)実感すること多いです。
  • 2012-06-18 08:42
  • goldenblue
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[C1340]

LA MOSCAさん、こんにちは。
そうですね。思うのは、人間も宇宙を構成する一部分だということです。人間はつい何でもできると思ってしまいがちですが、宇宙全体にしてみれば明日には潰れる出来物みたいなものかと。そもそも持っている時間の流れのケタが違いすぎます。
  • 2012-06-18 08:38
  • goldenblue
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[C1339]

megumickさん、こんにちは。
ラジオは聴いたことないですが、小川洋子さんには天然というか、小説家らしくない素朴な感じがあって、その天然なところが専門家の方々のお話をうまく引き出しているように思いました。
息子さん、すごいですねー!僕も理系のことは興味こそあれ実際はチンプンカンプンです。
  • 2012-06-18 08:31
  • goldenblue
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[C1338]

まりさん、こんにちは。
未来は明るく物事は常に進歩し続けていくと疑う余地もなく育ってきた40代、50代と、今の10代、20代の人たちの未来観はずいぶん隔たりがあるのでしょうね。
なかなか明るい未来像が描きにくい今の世の中ですが、だからこそ絆やつながりといったものが大切にされるのでしょうか。
  • 2012-06-18 08:26
  • goldenblue
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[C1337]

リュウさん、こんにちは。
科学の話、興味は尽きないです。ゆうべもNHKスペシャル“宇宙の渚”を見て感動していました。
現実的反核。科学の話のあとで原発のことを考えると、やっぱり人間の手に負えるものではないと思います。安全を論議すること自体が傲慢ではないかと。
  • 2012-06-18 08:20
  • goldenblue
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[C1336]

科学って生活の中で意識せずに役立ってますよね。最近は台所で実感。

煮物は温度変化で浸透圧効果高めて、糠漬けは発酵作用、
食器の洗い物は洗浄効果を考え油汚れは後回し・・・・

理系な主夫業が身についてます。

でもキッチンドランカー(笑
  • 2012-06-17 22:55
  • 非双子
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[C1335]

何でも人間中心に考えちゃいけないですよね。
地球は人間だけのモノじゃない。
壊す権利なんかない。
と言いつつ、俺も自分の目先の小さいことに大騒ぎするエゴイストなんですが(苦笑)
でもたまに思い出さなきゃいけないよね。

[C1334]

こんばんは!
私も科学は子供の頃から大好きでした。
特に人体百科事典は毎日のように眺めてました(笑)
息子も小学生の頃から本気でタイムマシーンを作るという夢を持ち、今は大学で時間と数の研究をしてます。
私にはさっぱりわからないけど・・・

小川洋子さんって、FMラジオの日曜の午前中に番組やってますが優しい口調で本の紹介をしてくれていいです。
この本もとても良さそうですね!
  • 2012-06-17 21:46
  • megumick
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[C1333] 明るい未来を信じてました

「人類の進歩と調和」の大阪万博世代の私
当時は 21世紀はバラ色の未来がくると信じてましたね(笑)

なんで こんな貧乏してんのかとか ときたま不思議な気がする。

進歩とか調和とか 何だったんでしょ!?
ケータイ電話だけは 進歩してると思います(*^_^*)
  • 2012-06-17 17:54
  • まり
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[C1332]

今日は♪
科学もの、普遍的に書かれたもの自分も好きですよー♪良く図書館で借りて読んでます♪
難しい事は要らない、こういう切り口が逆に染み渡るんですよねー♪
そして、自分も嫌いでした、学校の理系…。ロマンのかけらも無いと言う^^;

そしてロマンのかけらも無いトップ達が、ロマンのかけらも無い再稼働を…。
自分は現実的反核者、再稼働は廃炉ありきの話です…
  • 2012-06-17 12:39
  • リュウ
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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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