日曜日の朝に限って、割と早くに目が覚める。 起きなきゃいけないときにはいつまでも眠っていたいのに、起きる必要もない朝に限って早く目が覚めてしまう。まぁ、世の中そんなもんだ。 家族がまだ起き出してくる前に、コーヒーを入れてトーストを焼いて、ハムやレタスをはさんで食べながら新聞を読むのが好きだ。 静かな朝に新聞を読んでいると、まるで自分一人だけが遠く離れた異国に住んでいて、はるか遠くの故国の出来事を懐かしさ混じりに振り返っているような気分になる。 日曜日の新聞の中でもお気に入りなのは書評のコーナー。 割りと熱心に読む。 だからといって、その中の気になった本を購買するということはほとんどなくて、それどころか30分後にはどんな本についてどんなことが書かれていたかすらすっかり忘れてしまうのだけれど、それでも割りと熱心に読む。 紹介されている本を楽しまずに、紹介文そのものを楽しむというのは、ひょっとしたらその文章の趣旨そのものからも逸脱している不適切な行為ではないのだろうか、という気もするのだけれど、単に好きなんだろうな。誰かが表現したことに対して、別の誰かがどう捉えたのかをその人なりの切り口で表現する、ということそのものが。 ああいうものはできるだけ個人的な方がおもしろい。 音楽やレコードについて書かれた本もたくさんあるけれど、『ロックの名盤100選』だとか『ジャズ名盤入門編』みたいに、歴史的に名作とされるものばかりをカタログ的に並べたものは、それはそれで参考になったりはするし今までもたくさん読んできたのだけれど、いまひとつつまらない。 例え書かれている対象がとてもマニアックで読み手が共有できにくいようなものであったとしても、思いっきり個人的な視点でセレクトされたものの方がおもしろい、と感じる。 例えばこの人のこの本。 ぼくが愛するロック名盤240 / ピーター・バラカン 前書きに「レッド・ゼペリンも出てこない、ディープ・パープルも出てこない、デイヴィッド・ボウイも出てこない、クイーンもマーク・ボランもピンク・フロイドも出てこない。」と書かれているとおり、王道の名盤に混ざって、半分くらいは名前こそ聞いたことはあっても音は聴いたことがないアーティストのレコードが、自身の個人的な経験も交えながら紹介されていく。決して文章はうまいとは言えないのだけれど、書かれている対象への愛が感じられるんだな。
この本もそんな感じ。
文体はあまり好きじゃないけど、ついつい引き込まれてしまう。
ブラックミュージック この1枚 / 印南 敦史 それから、本に関してならこのやっぱりこの人。
完全版 池澤夏樹の世界文学リミックス / 池澤 夏樹 紹介されている作品のうち読んだことがあるものは『ライ麦畑でつかまえて』とか『路上』とか、本当に数えるほどしかないのだけれど、従来に名作とされてきたヨーロッパ中心の世界文学ではなく、南米やアフリカまで含めた視野の広さとバランス感覚に満ちたセレクトから、学校で習ってきたり世間では当たり前とされている世界観とは別の世界観が立ち上がってくるような気がするのだ。
(一部をWEBで読むことが出来ます→
Cafe Impala )
書評欄にもそういうところがあるのかもしれない。
政治面や経済面や、スポーツ欄や三面記事から見える今の世の中とはまた別の角度、別の視点から見た世界の縮図があの欄にはあるのだ。
蛇足ですがもう一冊紹介。
この毎日新聞の『今週の本棚』のコーナーが20周年であることを記念して本として出版されるのだそうだ。
こういう本が出版されるということは、書評そのものが文学の一ジャンルとしての居場所を持っている、ということなのだろう。意外と好きな人が多いのかな。高いから買わないけど、図書館に並んだら借りてこよう。
愉快な本と立派な本 毎日新聞「今週の本棚」20年名作選(1992~1997) / 丸谷 才一、池澤 夏樹 他
スポンサーサイト
http://goldenblue67.blog106.fc2.com/tb.php/703-c2f817c4
トラックバック
その記事、ゆうべ読みました。書評者の署名入りで、本の内容だけでなく評者がどう受け止めたのかまでを記した書評は、当時は画期的だったのですね。
新聞記事といえば、ゆうべの夕刊にあった斎藤環さんの記事にとても感銘を受けました。脱原発は戦いではなく交渉、相手を全否定しているうちは交渉のテーブルにつけない、というお話。我が意を得た思いがしました。