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♪Red Army Blues / The Waterboys

A Pagan Place
A Pagan Place / Waterboys


朝からの雪はぼたぼたと降り続いた。まるで、学校の社会科の副読本に載っていた北国の冬の暮らしの写真のように、一日中降り続いていた。関西で雪が降り積もることはとても珍しい。積雪自体が何年ぶりだろうか?ぼたぼたした雪が一日中降っていた、という記憶がほとんどないのだけれど。
日が暮れて、雪はやみ、はしゃいでいた子供たちの姿も消え、真っ白な世界だけが闇に浮かび上がる。明日の朝には、カチンコチンに凍りついた世界が現れるのだろう。

スコットランド出身のマイク・スコット率いるザ・ウォーターボーイズは、大好きなバンドのひとつだった。まるで少年向けの神秘的な冒険物語みたいに幻想的かつほのぼのとした感じの3rd[Thisi is the Sea]や、アイリッシュ・トラッド・フォークに原点回帰してゆく4th[Fisherman's Blues]も美しいけれど、このセカンドアルバムで描き出される、冷たく凍てついた風景が僕は好きだ。
荒れた手触りのサックスが氷河を渡る風のようにこだまし、ヴァイオリンが冬の月のように鋭利に輝き、その中を、まるでブリザードの中に閉じ込められたはぐれ狼の遠吠えみたいにマイクの声が響きわたる。それは、一日中降り続くぼたぼたした雪みたいに世界を真っ白く染めてすべてを覆い尽くしてゆく。


Red Army Blues

家族を残して故郷を離れた時、お母さんは僕に言ったんだ。
「何人のドイツ人を殺すかじゃないのよ、たくさんの人民を解放するのよ。」って。
そして僕はブラッシングされた帽子をかばんに詰め込んで、世界に足を踏み入れた。
17歳。まだ女の子キスをしたことすらなかった。

ヴォロネシ行きの列車に乗った。とても遠い道程を越えて、
防寒対策を施され、制服に着替え、母なるロシアに祈った。
1943年の夏。
自分たちがドイツ人を追い払うと信じていた。本当に信じていた。
そんな神様の声が聞こえた気がしたんだ。

僕たちはベルリンで暴れ尽くした。
粉塵をあげて建物は崩れ去り、赤い旗を高く掲げ、すべてを茶色く燃やし尽くした。
そこで初めてアメリカ人に会った。
彼は僕らとそう代わり映えのない男で、農夫の顔つきをしていた。
テネシー州のハザードって土地の出身だと言っていた。

やがて戦争は終わった。
僕にも解放指令が届いた。
僕と200名近くの仲間は列車に乗せられステッティナーへ連れて行かれた。
そこで僕らは人民委員からキエフ行きを命じられた。
けれど、僕らがキエフにたどり着くことはなかったし、故郷に帰り着くこともなかった。
列車はタイガを越えて北へ向かった。
僕らは切り離されて行進させられ、遠く遠く遠く遠く離れたシベリアの広い広い道の上で、縞のシャツを着て死ぬまで働かされたんだ。
同志スターリンが、西欧化された僕らを怖れた、ただそれだけの理由で。

かつて愛していた祖国
かつての若かった日々
かつて信じていた素晴らしき人生
まるで歌で歌われるような

僕は1945年、祖国のために死んだ。
たったひとつの心残りを遺して

生き残るのは野蛮人ばかり


“Red Army Blues”は、祖国の正義を信じた若者が、祖国にいいように使われた挙句に、ゴミのように扱われて死んでゆく物語。
国家は人民のために存在するのか。それとも国家のために人民が存在するのか?
それは、決して「戦争があった頃」のテーマ、なんかじゃない。
それは、形を変えて、今も、僕らの暮らしと隣りあわせだ。
多くは望まないけれど、想像力のない誰かの無責任な振る舞いで人生を損ないたくはない、と願う。


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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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