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♪時刻表 / 中島みゆき

寒水魚(紙ジャケット仕様)
寒水魚 / 中島みゆき


家に帰ったら、6歳の娘が最近書けるようになったカタカナで、「メタミドホス」「ジクロルボス」と記した絵を描いていた。脇には「どくタイプ」「はがねポケモン」の文字。どうやら、その響きから悪者ポケモンを連想したらしい。思わず笑ってしまったけれど、6歳の子供も興味を示すほど、中国製餃子による中毒事件は日本中を震撼させている、ということなのだろう。
テレビはこの一週間、興味本位に不安を煽るかのような、あることないことの報道。コメンテーターと称する芸能人の好き勝手なコメントは、「私は中国産は絶対に買いません!」とのヒステリックな叫びや「中国品の輸入をすべて禁止すればいい」なんていう乱暴な提案や、「そもそも餃子なんて昔はみんな手作りだったんだよ。」といった的外れな戯言に終始する。今週になっての週刊誌では「毒ギョーザ」「中国殺人餃子」の見出し。悲劇のドキュメントに仕上げられた被害者家族の記事、食べてはいけないあれこれをご丁寧に紹介し、中国の水や農産物がいかに汚染されているかを「中国の金持ちは日本の農産物を輸入して食べている」「中国では年間2万人が農薬中毒で死亡」などと書き立てている。それから行政やメーカーや商社や販売者の対応の不備。事が起きてからならば、なんとでも書けるわな、と鼻白んでしまう。

火のないところに煙は立たない。そういう意味では報道されていることはある断片としては事実なのだろうし、メディアが書き立てることによる自浄作用の効果は必要だろうと思う。けれど、今回の問題を、ただ騒ぐだけではなく、一体どんな方向へ導こうとしているのかがわからない。
外食用冷食や国内加工品のパーツだけを生産する「隠れ天洋食品製の加工品」はまだまだあるという。そもそも中国は水も農薬も汚染されているという。中国には反日感情を持った人間がたくさんいて輸出物を使ったテロも考えられるという。だからもはや「中国産品は“避ける”のではなく“買わない”の時代に入ったのだと。一方で検査体制はまだまだ不備だという。今のJAS法では加工品の原材料まで表示の義務はないという。日本の国内自給率はわずか39%、輸入に頼らざるを得ない状況の中で国産品の価格上昇は必至だという。でも、なぜそうなったのか、それから、その状況を踏まえてこれからどうすればいいのか、その答えはどこにもない。記者やコメンテイターのあんたがたの冷凍庫にだって、第二の餃子爆弾が仕込まれているかもしれないんだぜ?

昔聴いた中島みゆきの歌に確かこんなフレーズがあったのを思い出した。

“誰が悪いのかを言いあてて どうすればいいかを書きたてて
 評論家やカウンセラーは米を買う
 迷える子羊は彼らほど賢い者はいないと思う
 あとをついてさえ行けば なんとかなると思う
 見えることとそれができることは 別ものだよと米を買う”

そのことを真に受けた消費者は、牧羊犬に誘導される憐れな羊の群れみたいに柵の中へ追い込まれてゆく。ただ追い立てられるパニックの中で、自分の頭でモノを考えることを次第に奪われてゆき、それはやがて怠惰な習慣になってゆくのだろう。

仕事柄、今回のことでたくさんの消費者と話す機会がある。
小さなお子さんを抱えて本当に不安でたくさんのことを質問してくる若いお母さん。怒り口調であるべき論を振りかざす中年男性。「中国産だなんてどこにも書いていなかったわよ!」と憤る主婦。
彼女が返品しようとした商品のひとつはタイ産。「それならいいわ。」と彼女が言ったので「どうしてタイ産なら問題ないんですか?」と逆に聴いてみた。
「タイも水は汚かったけれど、タイの人はまじめだし日本に好意的だもの。中国の人はどうしてあんなにも日本人を敵視するのかしら?」
僕はついこう言ってしまった。
「日本人は戦争でたくさん中国で人を殺していますから。」
すると彼女は言った。
「あれは、だって、戦争じゃない。日本人はアメリカをそんなに恨んでいないのに。」
そんな彼女のおめでたさに、僕は黙ってしまうしかなかった。



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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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