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♪Daddy's Tune / Jackson Browne

プリテンダー
The Pretender / Jackson Browne


結局今年の正月も実家に帰らなかった。仕事柄なかなかまとまった休みが取りにくいとはいえ、帰る気になればいつでも帰れる距離なのではあるのだが。昨年はこちらへ足を運んできた両親も、今年は「どうも寒くて体の調子が良くない。また暖かくなったら寄せてもらうわ。おせちとかも食べ物の制限とかあるしなかなか食べられへんし。」なんてことを言っていた。ずいぶん老け込んだ印象が年々加速度的に強くなってゆく。

周囲で親の不幸ごとを耳にすることが増えてきた。そんな年頃に差し掛かってきたということなのだろう。父も母も、世間の平均寿命からすればまだまだ先は長いはずだけれど、それでもあと二十年も三十年も生きるわけではない。自然界のシステムからすれば次の世代に子孫を残す役割は充分に終えているのだから。ひょとしてこれが親父との最後の会話になるんじゃないだろうか、なんて気持ちが、電話を切り終えた後にふっとよぎったりもした。
両親とは仲が悪かったわけでもないけれど仲良くなんでも分かり合える親子ではなかったし、お説教もたくさん食らったし喧嘩もしたしそれなりに反抗もした。今でこそそれも含めて子への愛であり責任だということはわかるけれど、思春期の頃、やっぱり反発すべき対象だったし、その後はっきりした形で親への感謝を口にしたことはない。親孝行は生きているうちにしなさいよ、なんて言われるとまったくごもっともとは思いはするのだけれど。

ジャクソン・ブラウンの1976年作品『プリテンダー』は、どんよりと雲った冬空のような内向的な指向のアルバム。これといって盛り上がる曲もなく淡々とすすんでゆく、悲しみや懺悔や赦しを乞う8つの物語。
過ぎてきたすれ違いの後悔を受け止め、諦念や無常を装いつつ、その底に流れる尊敬や愛情の念が溢れ出てくるような"Daddy's Tune"がこの歳になって浸みる。

いずれ両親が天に召される日は僕にもやって来るのだろう。そのときにどんな思いになるのかは今は分からない。ただひとつ言えることは、両親の血は確かに自分自身の中に流れていて、彼等はこれからも僕の中で生き続けるということ。心の中で生き続けている、みたいな比喩ではなく、彼等から受け継いだDNAが確かに自分の中にある、それは彼等が僕の中で生きていることと同じことなんだと思える、良くも悪くも僕はあなたたちの子供だと胸を張って言える、ということだ。


Daddy's Tune
荒れた風が空を横切り
枯葉が千切れて飛んでゆくのを
僕はじっと見ていた
取り繕えるものならば取り繕いたいけれど
できはしないことを悔やんでいるんだ
ほんのひとつかふたつ
あなたに言った不親切な言葉を
父さん
あなたはどう思っていたのでしょうか?
どうしてあなたとそんなに話しづらかったのだろう
僕の怒りはもうとっくに通り過ぎていったのに

だらだらと僕は街路にたどり着き
真実と栄光を捜し求める愚かな奴等にたくさん出会って
ドラムの周りで立ち尽くして
僕らの鼓動がひとつになるのを聴いていた
それから少し年をとって
日々をつつがなく過ごしています
計画はすぐに修正され
失敗するか立ち消えになってしまうとはいえ
立ち去る前には言いたいことがたくさんあるとはいえ
父さん
あなたにどうにかして伝えたい
あなたが言っていた事を今もはっきりと覚えている
ページをめくりなおすように
時は後戻りを許さないけれど
綻びはあっという間に広がっていったんだ

どこかで何かがおかしくなったんだ
それとも僕らが歌を忘れてしまったから?
僕の45回転のレコードを
あなたの78回転のレコードの隣に並べてみてほしい
そこにあったものはいずれは朽ちてゆく
それが僕らの生き方なんだろう



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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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