1987年、スプリングスティーン、38歳。 23歳の時に、街の裏通りを疾走する若者を描いて労働者階級のヒーローになったスプリングスティーンは、35歳の時のモンスター・アルバム"Born in the U.S.A"でアメリカを象徴する英雄に祭り上げられた。大金も入り結婚もし、だがやることなすこと解釈を曲げられ、自分の言葉も行動の真意と世間の受け止めに齟齬が生じ、歯車が確実にずれてゆく…そんな、成功から始まる新たな苦悩を見据えるために、あえて独りになったスプリングスティーンの姿がここにある。 そしてこのジャケット写真は、このアルバムで表現される世界を見事に現していると思う。
「愛のトンネル」=Tunnel of Loveは、遊園地にある、いわゆる「お化け屋敷」のことらしい。トロッコみたいなものにのって暗闇を移動していくといろんなアトラクションがあって、来場者を驚かせたりハラハラさせたりするあれだ。そもそもは子供向けなんだろうけど、実際のところ若い恋人たちがキャーキャー言いながらお互い近づくきっかけを狙ったりするのでそう呼ばれるのだろう。 もちろん、単に遊園地のアトラクションを歌ったわけではない、男と女の間に起きるいろんな感情は確かに、「愛のトンネル」みたいに先の分からない迷宮なんだろう、という気がする。お互いの姿が大きく見えたり歪んで見えたり、手を握りあって共に歩んだかと思えばお互いの姿を見失ったりもするドキドキハラハラのお化け屋敷。
Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。 “日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。 自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。
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