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♪Last Great American Whale / Lou Reed

New York
New York / Lou Reed


一昨日だったかのニュース番組のヘッドラインは、南極海で調査捕鯨を行っている日本の船舶に反捕鯨団体の活動家が侵入し拘束された、という報道だった。その団体が世界中のマスコミに配信したと思しき船上での映像が映し出されていた。この団体は、環境保護NGO"グリーンピース"から分派した過激派組織、とのこと。自分たちの信じる正義の実現のための暴力の行使を正当とするのであればテロリストとの謗りは免れないだろうが、自分たちで海賊まがいの不法侵入をしておきながら「拉致された。日本人はテロリストだ!」という論理は、たちの悪いやくざみたいだ。いずれにしてもこの映像が世界中に配信されたことですでに彼等のプロパガンダは目的を果たしたことになる。
捕鯨については、さまざまな世論があろうと思う。環境保護団体の主張する「鯨は高等生物=かわいそう」的な感情論での捕鯨禁止の強制は納得できるものではない。かといって、「鯨食は日本の伝統文化」として固執するのもどうなんだろう。個人的に鯨を食べたいと思うことはないし美味しいとも思わない。昔、給食で食べた硬い肉の印象しかない。戦後の食糧供給難の時代ならともかくこれだけ世界中からたくさんの肉や魚や穀物を買い漁って贅沢三昧をしている中で「珍味」として鯨を食べるのであれば(もっとも日本が行っているのは調査捕鯨であり、食用の商業捕鯨ではないということにはなっているけれど)、世界中の批判にさらされてまでも食べる必要はないだろう、という気が個人的にはするのだが。なにしろ牛や豚は飼育できても鯨を飼育することは不可能なのだから。

怖いな、と思うのは、この手の、自分たちの理解を超えた集団に対しての全否定の誹謗中傷の数々。アメリカがかつては一番の捕鯨国だったとか、オーストラリア人だってカンガルーを食うだとか、そんな後ろ向きのベクトルでは何も解決はしない。感情で誹謗中傷を返せばそれは子供のけんかというか、自分たちも所詮同じ穴のムジナになってしまうだけなのだけれど。

1988年のルー・リードのアルバム『NEW YORK』に収められているのは、環境問題や民族問題、貧困、虐待の連鎖、エイズ、戦地に出征した兵士の後遺症…そんな数々の社会問題が歌われた14曲。ギター・ベース・ドラムというシンプルで荒野のようにぶっきらぼうな編成のバンドに、呟くような語るように乗せられてゆく、かつて同性愛やドラッグなど都市の暗部をどろっと描き出したルー・リードならではのストーリィ。
例えばこの"Last Great American Whale"では、ひとしきりアメリカ先住民や捕鯨や銃社会のことを織り込んだストーリィの締めくくりに、こんなことを歌っている。
"ものごとは多数決で決められるというのが彼等の主張
けど、見るものの半分と聞くものの全てを鵜呑みにしてはいけないよ"


Last Great American Whale

奴には太刀打ちできるものなど何もなかったらしい
奴は目を見張るほど巨大で
世界のこちら側に最後に生き残った一頭の子孫だった
奴は頭から尻尾まで半マイルもあって
銀色と黒色の力強いヒレを持っていた
山をも二つに割ることができ
グランドキャニオンはその力によって裂かれたとの言い伝えがある
ある者は五大湖で奴を見たと言い
ある者はフロリダの海岸で目撃したと言う
俺の母親は奴をチャイナタウンで見たってさ
もっとも母親の言うことはいつも信用できるってわけじゃないんだが

キャロライナでは日中 太陽が明るく輝き
夜は灯台が幽霊のようにそこを照らしている
その地方の酋長が人種差別主義者の市長の息子を殺めた事件があった
市長の息子はインディアンにつばを吐き散らかす騒々しいブタ以下の野郎で
年老いた酋長は手斧を共に埋葬した
彼の頭の中では、生は死よりももっとひどいものに思えていた
部族の兄弟たちは灯台に集まって雨嵐を乞う歌を歌った
すると港が大きく割れてあの巨大な鯨が宙に跳ね上がって
大きな津波を起こしたのだ
その波は刑務所を壊して酋長を解放し
部族は雄たけびを上げた
白人は溺れ、有色人種は自由になったけれど
もっと悲しい事件が起こることになる
田舎者の全米ライフル協会の会員が自宅にバズーカ砲を隠し持っていて
彼は酋長を発見したと思い
鉛の銛で鯨を吹っ飛ばしたのだった

だいたいアメリカ人は何にしても無頓着な傾向がある
大地にしろ水にしろ
動物たちの序列はトーテムポールの一番下
人間の命ですらイースト菌程度のもの
だいたいアメリカ人は美に対して関心がない
川で大便をし電池を小川に投げ捨てる
浜に打ち上げられた死んだねずみに
泳げないのかと悪態をつく

ものごとは多数決で決められるというのが彼等の主張
けど、見るものの半分と聞くものの全てを鵜呑みにしてはいけないよ
友人の画家のドナルドが言っていたとおりさ
「奴等のケツにフォーク突き刺してひっくり返してみなよ
もうしっかりできあがってるぜ」って



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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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