アメリカ行きを決めたとき、絶対行ってみようと思った場所のひとつがニュージャージー。 その頃の僕の一番のロックンロール・ヒーローはなんといっても“BOSS”ブルース・スプリングスティーンだったからだ。 そのことを書こうと思っていた矢先に飛び込んできたボスの片腕、クラレンス・クレモンズ氏の訃報。 まだ69歳、脳溢血で倒れたまま帰らぬ人となったのだそうだ。 高校生の頃、「明日なき暴走」を初めて聴いたとき、ぞくぞくと鳥肌が立ったのを今も思えている。それはとても刺激的なサウンドだったけれど、中でも僕が興奮したのは、“BIG MAN”のサックスだったのだ。 “Thunder Road ”の果てしなき遠くを目指していくようなサックスの雄たけび、“Born to Run ”や“Night ”での疾走する咆哮、“Tenth Avenue Freeze-Out ”のボスの傍らでボスの言葉を継ぐような野太いブロウ(ゲストのブレッカー兄弟に混ざっていてもすぐにわかる音色!)、そして“Jungleland ”でボスを慰めるようにすすり泣いたあと、優しく元気づけるように高らかに夜空にこだまするようなサックス・ソロ・・・全部が全部、文句なしにかっこよかった。そのあと聴いた「ザ・リバー」の“Sherry Darling ”の延々とパーティーが続くようなハッピーなソロも大好きだったし、「青春の叫び」は何といってもガンガンにスプリングスティーンをあおりまくる“Rosalita ”のブロウ!それから“Detroit Medley ”でのスプリングスティーンとの掛け合い! だから、待ちに待った「ボーン・イン・ザ・U.S.A 」が出たときにはクラレンスの出番が少なくてなんだかがっかりしたものだった。 大好きなスプリングスティーンのアルバムを3枚挙げよと問われれば、即座に「青春の叫び」「明日なき暴走」「ザ・リバー」の3枚を選ぶ。他のアルバムは明らかに2ランクは下がるのだ。それはなぜだろうと考えて思い当たったのは、やはり他のアルバムよりも群を抜いてクラレンスの存在感が圧倒的だからということ。ひょっとしたら僕は、ブルース・スプリングスティーンが大好きなのじゃなくて、スプリングスティーンとEストリート・バンドが大好きだったのかもしれないなぁ、と今思った。 ニュージャージーを訪れたのは7月。 ニュージャージーに向かうハイウェイの上で、僕の頭の中でなっていたのはやっぱりこの曲だった。 Thuder Road / Bruce Springsteen & The E Street Band 残念ながら不案内でアトランティックシティまではたどり着けなかったのだけれど、スプリングスティーンやスティーヴン・ヴァン・ザントが育った街の雰囲気はなんとなく味わえた。大都会・大阪に対する工場だらけの尼崎みたいな感じなのかな。ニューヨークの裏側、なんとなくぼやけた灰色の街。愛だの夢だのといった絵空事よりも、今日の飯と今日の酒と今夜のお楽しみを探してうろつくような超現実的な街。華やかさなどひとつもない、最初からチャンスすら奪われているような街で、奴等は上っ面に踊らされずにしたたかに育ったのだ。ヒッピーたちがいかれた草の匂いにまかれながら歌うラブ&ピースになんて目もくれもせず、泥臭いロックンロールやリズム&ブルースを聴きながら。 そして、奴等のスピリットを後から大きく支え、包み、後押ししていたのが、クラレンスの陽気さと懐の深さだったのだと思う。クラレンスの陽気なサックスがあったからこそ、スプリングスティーンは吠えることも嘆くこともできた。クラレンスの熱いブロウがあったからこそ、スプリングスティーンは駆け抜けることができたのだ。 そう思うのはただの感傷だろうか? そうそう、Eストリート・バンドもかっこいいけど、このアルバムもかっこいいんだぜ。 Rescue / Clarence Clemons & The Red Bank Rockers Clarence Clemons -- Rock & Roll DJ とても男くさい、汗の臭いのするリズム&ブルース。曲途中のクラレンスのプリーチもかっこいい。
そういや昔、今はパン職人をやっている友人が「これは俺にとってのR&Bのレコードだ。」みたいなことを言っていたのを思い出した。うん、まさしくこれはR&Bだ。
キング・カーティスやジュニア・ウォーカーに憧れてサックスを手にした、若き日のクラレンスの姿が見えるようでなんだか微笑ましくさえもある。
ご冥福をお祈りします、なんて言葉はなんとなく似合わない。安らかになんて眠らないで、天国でも陽気にサックスを吹いて踊りまくってほしいです。
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3年もニュージャージーに住んでいらっしゃったんですか!一日で通り過ぎただけの人間が何か言うのも恥ずかしいです。
きっといろんな特別な思いがおありかと思います。またぜひ聞かせてくださいね!