トレードマークのバンダナ、ギョロッと見開いた大きな目玉。まるで獲物を狙う精悍な猛禽類のようなこの男こそ、スプリングスティーンの良き相棒としてEストリートバンドを支えた、リトル・スティーヴンこと“マイアミ”・スティーヴン・ヴァン・ザント。 スプリングスティーンがアコギ一本で『ネブラスカ』を録音している間に開店休業になったバンドのメンバーはそれぞれにソロ活動を始めた。ピアノのロイ・ビタンはダイアー・ストレイツの『Tunnnel of Love』のレコーディングに参加し、サックスのクラレンス・クレモンスは自らバンドを結成し、残されたマックス・ウェインバーグやギャリー・タレント、ダニー・フェデリチは、スティーヴンをフロントマンにしthe Disciples of Soul を名乗ってアルバムを発表した。Disciples of Soul -魂の使人たち-の名前どおり、スティーヴンの魂というか男気というか、矜持に満ちた力作だ。 スティーヴンのヴォーカルは荒っぽくてぶっきらぼうだけど、気合バリバリでパッションにあふれ、スプリングスティーンとはまた違った意味で圧倒されてしまう。「あんたの理屈が正しいかどうかはともかく、あんたがそこまで言うのならOK、わかったよ。」なんて気にさせられてしまうような、そんな圧倒的なパワフルさとでも言おうか。後にフォークやカントリィに傾倒してゆくスプリングスティーンの持つ自省的なテイストよりも、もっと赤く燃え滾るようなエネルギーに満ち溢れていて、なりふり構わず突き進んでいくようなところがスティーヴンの持ち味。そんな二人のテイストが絶妙に絡み合って、スプリングスティーンとEストリートバンドは最高のロックンロールを弾き出していたのだ。 そして、手法こそ違えど、彼らの表現は、その核心部分は見事にそっくりだ。 それは、一番心が何もかもを吸収してゆく時期に彼らが共に過ごし、同じものを見て同じようなことを考え、時には夜を明かして議論したり言い合いしたりしながら共に成長してきた証なのだと思う。
Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。 “日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。 自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。
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