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♪旅から帰る男たち / 泉谷しげる

都会のランナー
都会のランナー / 泉谷しげる

ピッツバーグ・パイレーツの桑田真澄投手の戦力外通告から3日、退団が発表された。ジャイアンツを首になり、39歳のオールド・ルーキーとして海を渡った桑田投手の活躍は、日本中に感動の波紋を呼んだ。「40歳を目前にして」「夢に向かって」「挑戦」「ひたむき」「さわやかな笑顔」…そんな言葉がメディアに踊る。
同世代の桑田投手のことを、僕は彼が高校生1年生の夏の甲子園からずっと見てきたことになる。天才の器を感じさせた、高校生らしからぬ沈着冷静な投球。清原とのアベックホームランや涙の決勝戦、密約がささやかれたドラフト会議での巨人入り。2年めには頭角を現し、斎藤や槇原とともにエースとして君臨した3本柱時代。間違いなく200勝はすると思われたが晩年はケガに泣きリハビリに追われ、しかしサンデー桑田として見事復活。そんな一部始終を見てきた。残念ながら、お茶の間的には決して人気の高い選手ではなかった。スターとしてちやほやされた時期もあったが、どちらかといえば悪役だった。高校の時から可愛げが無かった。入団時のもやもやでダーティーヒーロー色は強まった。野球賭博疑惑や、17億もの借金だのといった汚れた話題があり、マウンドでのお祈りが気持ち悪いだの、投げる不動産屋だのと言われ、漫画ではほくろだらけの薄気味悪いキャラで描かれた。昨年の巨人を辞める時も引き際がどうだの、メジャー挑戦に期待を寄せる声なんてなかったのに、今や日本人の心の支えみたいな取り上げられ方。人の評価なんていいかげんなものだと改めて思う。
桑田投手は誰もが認める努力家だ。人に何と言われようと自らの求めるものを追求する意固地な職人。頑固な求道者。
例えば故障での手術後、ボールが投げられない期間に「ボールは投げられなくても、下半身は鍛えられる」とジャイアンツ球場の外野を芝が禿げ上がるまでただランニングし続け、桑田が走り続けた部分は「桑田ロード」と呼ばれるようになった、というエピソードがある。またプロとしては小柄な体格で戦うために、ありとあらゆるトレーニング方法の中から自分にあったものを徹底して探し、何度も何度も投球フォームを変えたりもしている。一方で頑固で理屈っぽくてプライドが高くて、自分なりの合理的な練習方法や登板に対する考え方が、サボりや首脳陣批判とも揶揄されたりもした。いわゆる体育会系的な価値観からはずいぶん離れた合理的なものの考え方は、首脳陣や仲間からは異質に映っただろうし、煙たがられもしたと思う。そして、自分が周囲から異質であることをよく知っているからこそ、彼は躍起になって結果を残そうとしたし、残し続けてきた。その結果が、持ち上げられたりバッシングされたり、そんな繰り返しの野球人生。そのたびに世間の評価は揺れ続けたけれど、今、退団を表明する彼のインタビューから感じられるのは、本当に単純に野球が好きで、野球が上手くなりたくてずっとやってきた、ただそれだけの想い。他人から見て「すごい努力」も「頑固な理屈」も、自分にとっての価値ある行為をただやってきたに過ぎないのだと思う。
世間の評価を気にしないといえばウソになるけれど、どっちを取るといえば迷わず自分の信じる方、自分がそうしたいと感じる方を選ぶ。それが桑田投手の生き方。そして、そんな姿勢に、少しシンパシィを感じるのだ。


雨に打たれ風にも
人にさらされ顔も変わる
遠くに浮かぶ街並みも
今はただ怠けてる
深く長い夜に紛れ
目も奪われ人も変わる
新しい力さえ
信じないでひとりになる旅を

長い旅から帰る男たちがいる
旅を超えて帰る男たちがいる

   (旅から帰る男たち / 泉谷しげる)



桑田真澄と泉谷しげる。何の接点も無いけれど、異質な世界の中で頑固に自分の立ち位置を作ってきたこと、そしてその中で自分のパブリック・イメージと戦ってきたこと、剛速球へのあこがれを持ちながら繊細でクレバーなところが実は持ち味であること、そんなところに少しだけ共通点を感じたのだ。
1979年「都会のランナー」収録、傷だらけの戦いの果てにひとまず旅を切り上げる男の風景。いずれまた別の旅は始まるけれど、それは、若き日の、自分がどこへ転がっていくのか自分でも解らないような途方もなくスリリングな旅とは異質なものになるのだろう。


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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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