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♪The Inflated Tear / Rahsaan Roland Kirk

Inflated Tear
Inflated Tear / Rahsaan Roland Kirk


誰の著書だったか忘れたけれど、自らの書物の嗜好についてこんなことが書かれていたのを読んだことがある。
自らの書物の嗜好を把握するのに有効な方法はとにかく手当たり次第に読むこと。面白いものと感じたものはより深く、その関連作品にも手を伸ばしてみる。読んでみて読み進まなかったものは、自分に合わないか、まだそれが吸収できる時期ではないので一旦パスする。その手順はまるで暗闇に弓矢を射るようなもので、手当たり次第に読み飛ばしていくうちに的に当たったものだけが残って嗜好の輪郭が姿を現す、といったような内容だった。音楽についても同じことが言えるけれど、特にジャズの奥深い深遠な森のような世界の中で自分の嗜好を知るにはこの方法が一番。
そんなわけで片っ端からいろんなジャズを聴き漁ってはみたけれど、そもそもがロックやソウル好きの僕にとって、僕の心の琴線に触れるジャズは、どうも少し好みは偏っているらしい、ということがわかった。いわゆるモダンジャズの大きな流れの中ではこぼれおちてしまうような人が好きだ。
その一人がこの人、ラサーン・ローランド・カーク。
幼い頃に視力を失った盲目のホーン奏者。一度に3本ものホーンを咥えて吹き鳴らすとか、晩年は半身不随になりながらもステージに立ち続けただの、異能の人めいた伝説ばかりが残っている人、そしていわゆるジャズの正史には出てこない人だけれど、この人の鳴らす音はとにかく黒い。
ジャズが輝いていた時代には、常にその時々の最新型の表現方法があった。その時代の一番ヒップなミュージシャンがそこへ集まると、次はその一番最先端だったスタイルにカウンターを打つようにしてもっとクールでヒップなスタイルを作る…そんなふうにして進化してきたのだけれど、その過程で忘れ去られてしまった、黒人音楽としての本質=ブルース、がカークの音楽の中では失われていない。例えばこのアルバムの一曲目“Black and crazy blues”。400年前に奴隷商人によってアフリカからアメリカへ連行されてきた人々が、ほそぼそと語り継いできたわらべうたのメロディーや太鼓のリズムをそのまま受け継いできたかのような黒さ。そしてリズムの確かさ。
時代と共に移り変わる最先端の表現方法とはまったく別の場所で、自らの心のうちから湧き出てくる、音楽でしか表現する方法がない思い。ジャズであれロックであれソウルであれ、本当に心が揺さぶられるのはそんな音楽だ。それが、暗闇に弓矢を放ち続けた結論。そしてそこに浮かび上がる輪郭は、単に嗜好の問題ではなく、僕自身の輪郭でもあるのだと思う。



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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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