Return To Forever / Chick Corea 朝からセミが鳴いているのに、はっきりしないお天気が続く。梅雨明けはいつなんだろう。もはや夏が待ち遠しい歳でもないし、正直少しでも涼しい方がありがたいのだけれど、それにしてもこのぐずぐず感はいかんともしがたい。
チック・コリアの『Return To Forever』。マイルスのエレクトリック・バンドを離れた奇才チック・コリアが1972年に発表したアルバム。いわゆるクロス・オーバー/フュージョン・ミュージックのはしりと言われ、ジャズを地下室から解放したアルバムと評されているけれど、イージー・リスニング的或いはスーパーのBGM的フュージョンの“さわやかな夏”のイメージで聴くとしっぺがえしを食う。海は海でも、海水浴やサーフィンの夏の海とはほど遠い、どんよりとした色調の暗くくぐもった色の海。
キラキラしたチックのエレピと、フローラ・プリムの天使的歌声、軽やかな小鳥の羽根のようなジョー・ファーレルのフルートが表面的には爽やかで楽園的で心地良いけれど、そして全編を通じて基調音として流れているのは、低くうなるスタンリー・クラークのベースのダークさ。そして、演奏が盛り上がっていくに連れてそれぞれの楽器が歪みゆがみながらたたみかけあいながら怒涛の嵐のような展開になっていく。
一見爽やかな海のジャケットも、よく見れば空は薄曇り。
低く飛ぶカモメは、羽ばたこうとしているのか、それとも堕ちてゆく体を必死で支えて羽ばたこうとしているのか。単に餌を探してうろついているのか。
アルバムを通じて、僕にはこんな物語が聴こえてくる。
第一章:明け方もまだもう少し遠い真夜中と夜明け前の中間の頃、漆黒の闇の中を船出する船。未知の航海への希望がほんの少しとたくさんの不安を抱えながら。
第二章:曇天の中、夜が明ける。朝日は見えない。波は荒れている。航海の先行きは見えない。
第三章:晴れ間から陽が差し、緑色の風が吹く。花と陸地の臭い、天使の歌声、歓喜と安堵。
第四章:再び曇天。波荒れ、陸は遠のく。束の間の夢。さらに波は高く、先行きの見えないまま航海は続く。しかしもはや不安はない。なんであれ航海は続く。
そう、なんであれ航海は続く。航海を続けていく上ではいい日もあれば悪い日もある。近づいたと思った陸地が遠のくこともあるし、順調な航路だと思っていたらいつの間にか大きく波に流されていた、なんてこともあるのだろう。目指す進路が正しいのかすらどうかさえ実は怪しいのかも知れないけれど、もはや船からは降りるという選択肢はない。
羅針盤とクルーの腕前だけが頼りの航海。
道路のある旅はなんて便利なのだろう、と思う。地図と標識を見比べればやがてたどりつく道程。けど、僕らが今進んでいる航海には地図も標識もない。
このいかんともしがたいぐずぐず感は、実はお天気のせいなんかじゃなく、確かな道が見えない、確かな手応えがつかめない、そんなもどかしさのせいなのかもしれない。
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