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◇通勤中にはお薦め出来ません / 忌野清志郎 『瀕死の双六問屋』

瀕死の双六問屋 (小学館文庫)

瀕死の双六問屋  / 忌野 清志郎

通勤用のカバンにはいつも何か一冊は本が入っている。
今読んでいるのは、『瀕死の双六問屋』という本。作者・忌野清志郎。
2000年頃にTVブロスという雑誌に連載されたコラムを集めたものだが、そんなものが出版されていることは実は全く知らなくて、先日たまたま寄ったタワーレコードで売っているのを偶然発見して迷わず購入したのだった。2000年といえば、ちょうど国歌の法制化の是非が問題になっていた頃で、ロック・バージョンで歌った『君が代』がメジャーのレコード会社から発売を拒否されてインディーズからリリースした頃だ。そのせいか、とてつもなく辛辣で皮肉の効いた、清志郎の歌のようにたったひとことで真実を目の前に鮮やかに描き出すような、そんな痛快な言葉があっちこっちに散りばめられている。清志郎らしい、真っ直ぐな、しかもとびっきりのユーモアにあふれた言葉たち。
小心者でいつも周りに合わせてばかりで窮屈だった幼い思春期の頃に清志郎たちの音楽と出会って「あぁ、もっと自由に思いのまま振舞って、思ったとおりのことを話せばいいんだ。」と気がついた僕のような者にとっては、いわば恩師からの贈り物のような本だった。

清志郎曰く…

「本当に必要なものだけが荷物だ。そうさ。これは俺みたいな旅人だけに言えることじゃない。全ての奴らに言えることだ。」
「クルマをやたら洗うな。たま~に洗ってやる方がいい。洗うことは傷つけていることでもあるんだぜ。外見をきれいにして何になる。中身をみがく方が大切なことなんだ。それは世界の平和の第一歩なんだよ。」
「今の大人は不細工でかっこ悪いけれど、それは音楽を愛していないからだ。でも、若い奴らも決してかっこ良くはないぜ。つまり同じ穴の狢ってところさ。対立もできなきゃリスペクトも贈れない中途半端な関係だ。」
「俺みたいに君に恋をしているようなイカシたやつは一人もいない。俺はとてもイカシてるんだ。いつもゴキゲンなんだ。圧倒的な自信に満ちあふれている。そうさ、君に恋しているからさ。」
「安心しろ。君はまだ大丈夫だ。全然平気のヘーザだ。へっちゃらもいいところさ。何しろ俺がここにいて、君と同じ時間を生きているんだぜ、こんなに心強いことはないだろう。」
「これだけは言っておきたいんだ。ブルースを忘れない方がいい。上っ面に惑わされるな、ブルースを忘れるな。」

どうだ、この圧倒的な存在感の言葉たち。


つい先日、些細なことで直属の上司に喧嘩を売ってしまった。つい最近我が部署にやってきた野郎だ。
経緯はたいしたことじゃない。通りすがりのどうでもいいような場所で、仕事の方向性の転換に関わるような重要な提案をそいつ、いやその上司が、ぼそっとした口調で言ってきたんだ。その上その提案は、あまりにも身勝手で、とてもすんなり納得いくものではなかったので「もうちょっと詳しく経緯を説明してもらわないとその指示には従えません。」と訊いたけれども「そうか。」とだけでろくすっぽ説明もないまま「とにかくそれでいくから。」とぬかしやがる、いやおっしゃったので、「人を動かすには合意と納得が必要なのが当然でしょう。何年責任者やってはるんですか。」と言い返したら黙られてしまったのだ。
あぁ、またしても、うるさい、めんどくさい、素直じゃない、扱いにくい奴だと思われてしまったぜ。
でも、納得できない仕事をアンタの命令だからってハイハイそうですか、と尻尾振ってついていくほど俺はヒマじゃないし、まだまだ飼いならされてはいないし、第一アンタにそんな恩義はねぇってことだ。今までそんな調子で仕事をすすめてきていたとしても、そんなことは俺には通用しねぇぜ。だって俺はへそ曲がりの頑固者だからな。俺を動かしたけりゃそれなりに俺を動かせるだけのものをもってこいってんだ。
・・・などとすっかり清志郎口調になりながら、実はほんのちょっとだけ「あぁ、またやってしまったようだ。」と思っていた。
あぁ、朝読んだ『瀕死の双六屋』のせいだ。
どうやらまた、作らなくても良い敵を作ってしまったようだな。
まぁ、やってしまったものは仕方がない。
それでも俺が必要なら奴だって考えるだろうし、俺が不要だっていうのならそれまでのことだ。
そもそもそんなことはどうでもいいんだがな。
どっちにしろこの俺を動かすことができるのはこの俺だけなんだ。


清志郎自筆の漫画もあったり(そういや、『MARVY』のジャケットは清志郎自作のイラストだった)、語り手が清志郎本人何だか誰なんだかよくわからなかったり、小説のようなエッセイのような日記のような詩のような、そして清志郎の歌のようにリズム感のある、なんだかちょっと不思議な構成のこの本。そこここに清志郎ならではの卓越したセンス(上等のユーモアを含んだブルース魂…とでも呼ぼうか…)が満載だ。ぜひたくさんの方に手に入れて読んでほしい。
ただし、通勤中に読むことはおすすめできません。実生活に確実に悪影響を及ぼします。



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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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