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♪I guess that why they call it the blues? / Elton John

Too Low for Zero
Too Low for Zero / Elton John


このブログを書き進めるにあたってたくさんのアーティストの歌詞を訳してみているけれど、中でも特に、深いなぁ、ブンガクテキだなぁ、と思わされるのは先のポール・サイモンとこのエルトン・ジョン。
直接的な言葉を使わずに、ちょっとした言い回しで微妙な心のひだのような部分を見事に表現してしまうようなスパイスの効いたフレーズ。それから、映画のワン・シーンみたいな世界がふっと頭の中に浮かんでくるようなイメージの喚起。物語のすべてを語らない情景の切り取り方。もちろんそこに素晴らしいメロディーと表現したい世界を忠実に再現する演奏があってこその音楽であって、詞だけをとらまえて音楽を語るつもりはないけれど。
例えば、この歌、淡々としつつも味のあるバラード“I guess that why they call it the blues?”はこんな感じ。


(拙訳:I Guess That's Why They Call It The Blues)

拭い去ろうなんて思わないで
ずっと長くは続かないよ
すべての物事はよい方向へすすんでいくのだから、って
心のそこから本当にそう言える
僕が離れている間に
心の内の悪魔がいなくなればいい
そんなに長くはかからないよ
僕らの心の隠れ場に逃げ込めるまでは

こんな気持ちを人がブルースと呼ぶ訳がわかった気がするよ
僕が手持ち時間が全部、君と過ごす為にあればいいのにな
子供たちのように笑い
恋人達のように暮し
雷みたいに激しく秘密を分かち合う
こんな気持ちを人がブルースと呼ぶ訳がわかった気がするよ

どこかの空を見つめて
僕の顔を描いてみてよ
躊躇せずに一秒一秒を大切にしてほしい
そして僕のことを決して忘れないでいて
僕を待っていてほしいんだ
それが救いになるなら夜中に泣きはらしたって構わない
自分で思っているよりもずっと君のことを愛してるみたい
僕の人生よりももっと

こんな気持ちを人がブルースと呼ぶ訳がわかった気がするよ
僕が手持ち時間が全部、君と過ごす為にあればいいのにな
子供たちのように笑い
恋人達のように暮し
雷みたいに激しく秘密を分かち合う
こんな気持ちを人がブルースと呼ぶ訳がわかった気がするよ



邦題は確か「ブルースはお好き?」なんてまぬけなタイトルが付いていたけれど。「君を心から愛している」とか「僕は今打ちひしがれているんだ」みたいな直接的な表現ではなく「自分で思っているよりもずっと君のことを愛してるみたい」とか「こんな気持ちを人がブルースと呼ぶ訳がわかった気がするよ」というような微妙な気持ち、微妙な言い回し。
この歌に描かれた二人に、何があったのかはよく分からない。確かなことは、今この瞬間、二人は一緒にいないこと。一緒にいたいと思いながら一緒にいられない。先のことは分からない。そのことが悲しいとかどうしたいとかではなく、そんな状況の何ともいえない微妙な気持ちがそのまま描かれている。

この歌の作詞は、エルトンの長年の相棒であるバーニー・トーピン。バーニーとエルトンのつきあいはエルトンのデビューの前に遡る。
60年代末、音楽出版社に作曲家としてなんとか入り込んだ若者レジナルド・ドワイトは、その出版社に作詞家志望で作品を送り続けていたバーニー・トーピンという若者と組んで曲を作ることになる。その偶然の出会いが花を開き、レジナルドはエルトン・ジョンとして、バーニーを専属作詞者としてレコード・デビューする。
そして二人は70年代のヒット・チャートを見事に駆け上り№1ソングを連発する。二人はずっとバーニーが一方的に詞を書いてエルトンがそれに曲をつけるスタイルでやってきたのだそうだ。
けれど、表舞台でスーパースターの脚光を浴びるエルトンと裏方のバーニーの間の溝はやがて少しずつ深まり、エルトンが引退をほのめかした1976年にコンビを解消。
その後エルトンは違うパートナーと曲作りを行うが、期待通りヒットせず、やがてドラッグや酒におぼれてゆく。バーニーは自分のバンドを組んでソロ・アルバムを出したりしたもののやはりパッとしない。
二人がコンビを全面的に再開させたのは、7年後の1983年、この曲が収録されたアルバム「Two Law for Zero」。そしてエルトンは再びスーパースターの座に返り咲いた。

その二人のコンビネーションでないとスパークしないサムシング。そのコンビでないと成し遂げられない事っていうのが、世の中にはきっと確かにある。当事者たちですら、その理由が分からない、まるで魔法のような何か。それは本当に奇蹟なんだと思う。
ふと思う。「エルトン・ジョン」という芸名は、作曲家・歌手のレジナルドと作詞家バーニーのコンビに名付けられた人格なのではないか、と。



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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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