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♪Twelve / Patti Smith

Twelve
Twelve / Patti Smith


久しぶりにニュー・リリースのCDを買った。パティ・スミスのニュー・アルバム。たくさんのベテラン・アーティストの新譜が出るたびに「もう次のアルバムは買わない」と思うことが増えてゆく。その作品が今までの作品より新しく発表される意味合いを失っている、というような意味で。
そんな中でパティ・スミスだけは、96年の[Gone Again]で94年の最愛の夫フレッド・スミスの喪からの復帰以降、全作品がコンスタントに素晴らしい。過去の自己模倣に陥らず、今の時代・今の自分自身を投影した作品を毎回送り出してくれている。しかも、リリースのたびに力強くさえなっていくような気さえする。
そのパティの今回のアルバムはいわゆるカヴァー・アルバム。と言っても「ロックの名曲をパティ・スミスが歌いました」的なものではない。今の時代にこの歌をパティが歌う必然性が感じられる12曲。ストーンズやジミヘン、ディラン、ニール・ヤング、ドアーズなどの曲はさもありなん、って感じだけれど、そのうちで一番意外かつぴったりはまったのが85年のティアーズ・フォー・フィアーズのEverybody wants to rule the world。なじみのカフェで世界情勢について考えていた朝にラジオから流れたのがこの曲だったらしい。


(拙訳:Everybody wants to rule the world)

あなたの人生へようこそ
もはや後戻りはできないのよ
眠りについている間ですら一番適した振る舞いをすること
それを演じているあなたの姿を見ることができるわ
母なる自然界にはもう戻れない
誰もが世界に規範を求めている

それは自分自身で描いたもので
自分自身の責任によるもの
決心の手助けをしてほしいの
少しでも多くの手助けを
自由も楽しみも
全ては永遠に続きはしないのよ
そして誰もが世界に規範を求めている

部屋の中で壁が倒れてくるのを必死で手で押さえている
そんなあなたに光が届かない世界
私はそんなあなたのすぐ後ろに立っていたのね
世界のほとんどを私たちの手で作り上げたことへの感謝
それが衰えゆくことへの悲しみ
誰もが世界に規範を求めている

その優柔不断さが我慢できないの
ヴィジョンが不足したまま結婚するなんて
誰もが世界に規範を求めている
そんなもの絶対絶対絶対必要ないとあなたは言い張るけれど
じゃあどうしてそのヘッドライン・ニュースを信用するのかしら?
誰もが世界に規範を求めている



映像で見たパティはさすがに60も過ぎ貫禄のある顔つき・体つきになっている。まるで、ロック界のマザー・テレサか瀬戸内寂聴かというような面持ちだ。
けれど一方で彼女は今も現役で、決して老け込んではいない。
パティは、カバー写真のタンバリンについて、アルバムに寄せたコメントの中でこんな風に書いている。
「このタンバリンについて。ロバート・メイプルソープに会ったのは1967年の夏だった。収録曲12曲のうち4曲がリリースされた年。ロバートは山羊の皮を伸ばして、その表面に私の星占いの星座を刺繍し、リボンをつけてくれた。そしてこのタンバリンを1967年12月30日、私の21歳の誕生日にプレゼントしてくれたのだった。」
写真家ロバート・メイプルソープはパティと同い年で、1989年に42歳でエイズで亡くなった。ゲイだった。
パティのこのコメントの向こうに、21歳のパティとまだノーマルだったロバートの若き日の夢と野望に満ちた姿が見える。60歳を過ぎた今もパティの中ではそのときのことが昨日のことのように呼吸をしているのだと思う。美しい過去の思い出としてではなく、今自分がここに在ることにつながる重要な事実として。40年も前のことが、ですよ。それはものすごいことだし、とっても素敵なことだと思う。
そしてそんな彼女だから、自己模倣に陥ることなく今も現在を呼吸した作品を生み出し続けることができるのだと思う。


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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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