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♪歌われるべくして歌われた歌 / 槇原敬之『Listen to the Music 2』

Listen To The Music 2 

Listen To The Music 2/槇原敬之

夏川りみの「歌探し」以来、カバー集が気になっていろんなのを聴いてみたけれど、その多くは極論すればカラオケ集にすぎなかった。まぁ、それはそれで予想通りだったし、それなりには楽しんだのだけれど。
そんな中で槇原敬之のこのアルバムだけは印象が違っていた。
なんというのだろうか、槇原敬之にとって歌う必然性のあった歌、歌われるべくして歌われた歌、とでもいえばいいだろうか。

1. Smile / Nat King Cole
2. Your Song / Elton John
3. 野に咲く花のように / ダ・カーポ
4. traveling / 宇多田ヒカル
5. I Will Be Here For You / Michael.W.Smith
6. Forget-me-not / 尾崎豊
7. 島育ち~人の歩く道~ / 山弦
8. Time After Time / Cyndi Lauper
9. 言葉にできない / オフコース
10. ヨイトマケの唄 / 美輪明宏
11. ファイト! / 中島みゆき
12. ごはんができたよ / 矢野顕子
13. 見上げてごらん夜の星を / 坂本九


芸術家にはさまざまなタイプがいる。
至高の表現を追い求めて、それが支持されようとされまいと自らの極限を常に追い求める人、時代のニーズをうまく吸い上げて時代の求めるものを上手に作り上げていく人。
槇原敬之の表現は、そのどちらでもない。自分自身の思うことを率直に表現したいという思いと、そのことを受け止める側にちゃんと受け止めてほしいという願いの両方の間で揺れ動いている。これだ!と思って作った作品が世間に受け入れられなければそれは彼にとって無意味であり、だからといって「世間が求める槇原敬之像」と演じてしまうことを良しとしない。彼の作品は、あくまで自分と聴き手の間の理想的な位置の中に存在している。
ただ、そんな表現を続けることは決して容易ではない。だから、そんな苦しみの中で大麻に溺れてしまったりもしたのだろう。普通はたいがいそこで立ち直れなくなってしまうものだけれど、彼はそのことさえも真摯に受け止めて、復帰後も痛々しいくらいに素直に自分の心の中身をさらけだしている。しかもそれが押し付けにならないように、丁寧に調理して味付けをして、自分自身の痛みを普遍的な痛みに昇華させながら作品を発表し続けている。ぶっちゃけ槇原敬之なんてただのポップスシンガーだと思っていた僕が、この人だけは何かが違う、と感じたのはその頃からだ。

アルバムを通じての、慈しみにあふれた声。自らの心の内にある痛みや愛をなんとか誰かと共有したい思いがその声から滲み出てて、そのことが彼の歌を心の底の深い部分まで届かせる。自分自身のどうしようもなさを知ったうえで、それでも受け止めてくれる人の存在をとても愛おしく思いながら、そのことへの言葉にならない思いのありったけを込めて歌われる歌。そんな思いのある唄だからこそ、ちゃんと聴き手の心の内側までストンと落ちてくるのだと思う。

優しさに満ちた「Smile」や「Your Song」、祈りのような「I'll be here for you」(この歌の元歌は知らなかったが、ネオ・ゴスペルのシンガーらしい)や尾崎の「Forget-me-not」、ちょっと受け狙いも垣間見える「野に咲く花のように」(裸の大将、山下清!)や宇多田の「Traveling」、それぞれ言い味を出しているけれど、圧巻なのは「ヨイトマケの唄」「ファイト!」の2曲。
こんなどろどろとした救いようのない思いをさらけだす歌の中さえ、ほんの一筋の灯りにすべての希望を託すような歌い方で聴き手に希望の光を残してくれる。




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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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