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◇すくい上げて、ほぐして、紡ぐ / 天辰保文 『ゴールドラッシュのあとで』

ゴールドラッシュのあとで 天辰保文のロックスクラップブック (CDジャーナルムック) 
ゴールドラッシュのあとで  天辰保文のロック・スクラップ・ブック / 天辰 保文

音楽について語っている文章を読むことが好きだ。
それが音楽を聴く事より好きだ、と言ってしまえば本末転倒なのだけれど、1ヶ月間話題になることだけが優先された消費されることを目的としたようなくだらない音楽を聴いているよりは、音楽への愛情のこもった文章を読んでいる方がいい。

チャボが対談している、というのに興味を持って手に取った天辰保文さんのこの評論集。といっても、そのほとんどはレコード解説や新聞のコラムで、まさに本のサブ・タイトルどおりのスクラップ・ブックなのだが。天辰保文さんという音楽評論家の名前は、今までもきっとあっちこっちで目にはしていたはずなのだけれど、実はこれまで気にしたことはなかった。で、本を開いてみて「あぁ、この人の文章は、好きでよく目を通していた!!」と思い出したのだった。
ピックアップされたアーティストは、ジャクソン・ブラウン、ニール・ヤング、ジェイムス・テイラー、キャロル・キング、ランディ・ニューマン、イーグルス、リトルフィート…といった70年代西海岸系のアーティストを中心に、U2やウォーターボーイズ、佐野元春や矢野顕子からエリオット・スミスやベン・フォールズなどなど…その多くは、僕自身の好みとも重なる部分が多いのだけれど、取り上げられた面々の共通点といえば、聴き手に媚びずに、世界と自分自身について、或いはその関わり方についてを誠実に表現しているアーティストばかり、ということではないかと思う。
そして、その彼らが真摯に世界と向き合って紡ぎ出した音楽に対して、天辰さんは誠実に向き合ってそれを言葉にしている。しかも、どの文章でも語られているのは、音楽そのものの云々ではなく、その音楽に向き合っている自分自身の姿なのだ。
つまり、“このアーティストは○年○月に○○で生まれ”といったバイオグラフ的なことや“○曲めのギター・ソロは絶品だ”といったことではなく、“その音楽から、歌からこんなことを感じ、こんなことに心動かされた”ということ。音楽を聴くことで沸き起こるさざなみのような感情を、丁寧にすくい上げて、丁寧にほぐして、を繰り返しながら紡がれた言葉。音楽によって救われた、自分自身へのメッセージ。言葉にしようとしたところで音楽が表現する感情そのものには敵うはずがないとわかっていながらも言葉にせずにはおれない、そんな思い。そのベースにある、音楽への深い愛情やアーティストへの敬意。生きることへの真剣な眼差し。

こんな人が業界の片隅で30年も地道な仕事をしてきたことに半ば驚嘆しつつ、1ページずつ音楽を楽しむように味わいながら、読み進むのがもったいないかのように、じっくりと読んだ。
それはとても幸せな行為だった。
そして、素敵な音楽がまた聴きたくなった。



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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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