70年代その天才ぶりをいかんなく発揮したスティーヴィーの集大成的なアルバム、1976年発表の“Songs in the Key of Life”。このアルバムには世界のすべてがある。 ゲットーの惨状を歌うVillage ghetto land や、アフリカ系の民族学校の歴史の授業をモチーフに同族を鼓吹するようなBlack manといった民族系のメッセージや、Love's in need of love today のような人類愛の呼びかけや、現在社会を憂うPastime paradise や、誓いのようなメッセージが続くAsや、コミカルでいながら人類の未来を暗示するようにどっきっとさせられるSaturn 、などの大きなメッセージもあれば、偉大なるデューク・エリントンを讃えたSir Duke、少年時代を回顧する I wish 、生まれた長女に捧げられた Isn't she lovely 、繊細なラブソングのKnocks me off my feet やプリティでキュートなラブソングEbony eyes のような日常生活に根ざしたテーマの歌まで実に多種多様。音楽的にはファンクありジャズありベーシックなR&Bあり、ラテンやアフロっぽいリズムあり、当時流行っていたと思しきフージョン風のインスト、更には弦楽四重奏までとこれもバラエティ豊か。まさに一代音楽絵巻というか音楽曼荼羅というか、あれもこれもぶちこんでごった煮にしたような、そんな魅力にあふれている。そしてそんな雑多な世界の隅々の風景やメッセージを描きながらも全体として見事な統一感がある。100年後の人間が20世紀後半の人類のことを知りたければこれを聞けばすべてがわかる、とでも言いたいような。
さて、訳してみたのはオープニングの”Love's in need of love today ”。このアルバムの全体の根底を貫く、現在社会への憂いと人類愛といったテーマを象徴している。スティーヴィーの願いとは裏腹に憎しみはあふれんばかりに増殖してしまったけれど、愛の力も捨てたものではないこともまだ信じたい。
Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。 “日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。 自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。
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