フラッグスタッフからアルバカーキ、エルパソ、サンアントニオ、ヒューストンと、バスを乗り継いでニューオーリンズへ向かう。少し前までの旅の憂鬱なんていつの間にかすっかり吹き飛んでしまっていた。荷物をバス・ディーポのコインロッカーに預けてその日一日その町をぶらつき、夜行バスでまた次の町へ移動するということを繰り返すこと4日。我ながらタフだったと思う(笑)。 ヒューストンを越えたくらいから今までの乾いた空気が突如湿気を帯びはじめ、ニューオーリンズに着くとそこはもうまるでサウナ。大阪・京都も蒸し暑さでは負けない自信があるけれど、6月のニューオーリンズは今まで経験したことがないくらいの蒸し暑さだった。立っているだけでべっとりとにじむ汗。じっとりと湿った空気、まとわりくつシャツ。でも、気候が変わるからこそ、風土が変わり人が変わる。そのことを知るだけでも旅はおもしろいものだ。 さて、ニューオーリンズといえば音楽の都。 実際ここは本当に音楽の街だった。 オープン・カフェではピアノやアコーディオンを持った弾き語りのおっさんが客からのリクエストに応じて歌い演奏し、街路のあっちこっちにもストリート・ミュージシャン。そしてフレンチ・クォーター地区、有名なバーボン・ストリートでは、まだ日が暮れる前から、あちらこちらの店から生演奏の音楽が鳴り響いている。 生演奏を聴かせる店は、当然扉が閉まっていてお金を払って中に入らないといけないのが普通だけれど、この通りではどの店も扉も窓もフル・オープン!あっちではラグタイム風の粋なジャズ、こっちではルイ・アームストロングみたいな陽気なトランペットを擁するファンキーなジャズ・バンド。そして向こうではではオーティスみたいな歌い方をするお兄さんとアレサみたいな歌い方をするお姐さんがサム&デイヴみたいないかしたR&Bを演っている、という具合で、どの店も街路にいてもバンバン聴こえてくるわ覗けるわの大盤振る舞い。さすが、南の街は違う。豊かな財産をみんなで分け合うのか、独り占めして隠しこんでしまうのか、これは絶対気候風土と関連したものだと思う。 そんなわけで気が向いた店を2、3ハシゴして大いに盛り上がった。バーボン・ストリートなんて所詮は観光客向けのリゾート・ミュージックだという批判も後々耳にはしたけれど、ここで演奏しているバンドの人たちの観客を喜ばせようとする「プロフェッショナル」の仕事ぶりはさすがだったな。実際僕は、とても楽しんだのだ。 さんざんいい気分になって酔い覚ましに街路で、夜通し繰り広げられそうな陽気なパーティーをとても幸せな気分で眺めていたら、ホームレスみたいな風体のじいさんがそばに寄ってきた。この旅の途中、僕はずっとヒゲぼうぼうでしかも日焼けして真っ黒で小汚い格好をしていたものだから、ホームレスの方々からは同じ穴のムジナだと思われていたのに違いない。案の定タバコを催促される。一服終わったら、このじいさん、なんだか手を引いて街角の売店に連れて行こうとする。なんなんだと思いつつもこちらも酔っぱらい、よくわからないままついて行ったら、なんとバドワイザーをおごってくれた。そしてわけがわからないまま路上でじいさんと乾杯したのだった。 いや、さすがは南の街。音楽の都。 Havinh a Good Time / Huey“Piano”Smith & His Clowns ニューオーリンズといえばディキシーランド・ジャズにラグタイム、ゴスペル、ブルース、R&B、ファンク、ケイジャン、ザディコ・・・いろんな音楽があるけれど、僕がいちばん「ニューオリンズらしい!」と感じるのはこの人、ヒューイ“ピアノ”スミスさん。熱くて開放的でまとわりくつように湿気が高くて、泥臭くてとびきり陽気なニューオリンズの風土そのままのファンキー・ミュージック。
土産物屋で買ったニューオーリンズ音楽のオムニバスのカセットテープに入っていたのがこの曲だった。
Don't You Just Know It - Huey "Piano" Smith 20年前、ニューオーリンズの音楽はボ・ガンボス経由でせいぜいDr.ジョンを少し聴いてみたことがあるくらいで、いまいちピンときていなかったのです。プロフェッサー・ロングヘアもネヴィル・ブラザースも全然知らなかったし、今思えば惜しいことした。探せばそういうのを演っている小屋もきっとあっただろうに。
もう一度ニューオーリンズに行く機会があれば、今度はずっぽりセカンド・ラインのリズムに酔っぱらってへべれけになりたい。うん、そうすべきだ。いつかそのうちね。
スポンサーサイト
http://goldenblue67.blog106.fc2.com/tb.php/298-8332870e
トラックバック
そう、ぜひお会いしたいですね!
でも、海外放浪というとちょっと畏れ多いです(笑)、ルートも考えたしいろいろ下調べもしたし。言葉はかなり適当でしたが、長年英語の音楽を聴いていたので、ビビることはありませんでした。これはロックのおかげです(笑)。