10代の半ば、その頃流行っていたいわゆる“ニュー・ミュージック”(今更ながらすごいネーミングだな、しかし)とはまるで違う“ロック”という音楽があることを知って、あっという間に虜になった。 モッズ、ハウンドドッグ、ルースターズ、アナーキー・・・かっこよかった。 RCの音はそれらのバンドの音に比べるととてももっちゃりしているように思っていた。刺激、という意味でなら明らかにビート系のバンドの方がかっこいい、と。でも、RCの音には、そして清志郎の歌には、それらのバンドにはない何かがあった。 その何か、それは深く静かに横たわる、ブルースとしか言いようのない心の形だったと気がつくのはもう少し時間が経ってからのことだった。 清志郎が亡くなったとき、マスコミではいろんな陳腐な表現が踊った。 新聞だと“反骨のロック歌手”とか“反原発のロック歌手”、或いは音楽雑誌なんかでも“キング・オブ・ロック”みたいな表現でもてはやされた。何を言ってんだ、こいつらは?と思った。 反骨や反体制、或いは奇抜なファッションや発言、立ち居振る舞い、清志郎が日本のロックに果たした功績もとても大きいけれど、そういうことは清志郎の魅力のほんの一部分でしかない。 僕にとって清志郎が特別だったのは、清志郎が“ブルース”を知っていたからだ。 忌野清志郎の10曲、その(2)は、喜怒哀楽の「哀」。 「哀」だけではなく「鬱」や「憂」も入ります。1・ 世間知らず 2・エンジェル 3・まぼろし 4・お墓 5・いい事ばかりはありゃしない 6・ぼくの家の前の道を今朝も小学生が通います 7・共犯者 8・ヒッピーに捧ぐ 9・サラリーマン 10・夢を見た
どの曲も重く、暗い。歌の向こうに「死」が見え隠れしている。
誰も向き合いたくないような孤独や絶望や悲しみを、清志郎は「ほら。」と差し出してくる。
些細なことに激怒し、甘い愛を歌ったその口で同じように、重いテーマの歌を歌う。
でもだからこそ、清志郎の歌はとても信用できるのだ。
心の底から相手に何かしてあげたいと思う気持ちも、自分さえよけりゃいいと思う気持ちも、普通に生きてりゃどっちもあって当たり前だなんだもの。
忌野清志郎の10曲 「哀」編1・ 世間知らず ♪苦労なんか知らない 怖いものもない あんまり大事なものもない そんな僕なのさ 92年、ブッカーT&MG’Sとメンフィスでレコーディングしたソロアルバム「MEMPHIS」より。 ひとりぼっちの世界。どうってことない自分自身のどうってことのない毎日の生活。 でもそれを肯としようとする強い意志を感じる。2・エンジェル ♪歩道橋渡るとき 空に踊るエンジェル お月様お願い あの娘を返して せつなくて泣けてくる。初めて聴いた時から、今でも。 80年「RHAPSODY」。3・まぼろし ♪ぼくの理解者は行ってしまった もうずいぶん前の忘れそうなことさ 81年、新生RCの2nd「BLUE」のB面1曲目。昔は重すぎてなんだかあまり好きじゃなかったのだが、なぜか耳にこびりついて離れない。引きずり込まれるような強い磁力を持っている。 (この76年のライヴ音源、しばらく立ち上がれないくらいすごいです。)4・お墓 ♪僕はあの町に二度と行かないはずさ 僕の心が死んだところさ そしてお墓が建っているのさ 83年「OK」より。もっと古くからライヴでは演奏されていた作品のようだ。 あの当時、「お墓」なんてタイトルの歌を作るなんてそれだけでかなりヘンだった。 すっとぼけたレゲエとヘヴィな内容の歌詞のミスマッチがより悲しみを際立たせる。5・いい事ばかりはありゃしない ♪昔に比べりゃ金も入るし ちょっとは幸せそうに見えるのさ だけど忘れた頃にへまをして ついてないぜと苦笑い 80年「PLEASE」。 アルバイトの帰り道、ヘロヘロになりながら♪金ェが欲しくてェ~働ぁ~らいてェ~、ねむーるだけェ~、なんて口ずさんでいた、月光仮面が来ないの、の意味もよくわからないうぶな少年だった頃。警官に職質で呼び止められて清志郎の真似して悪態ついていた馬鹿。もう25年以上も前のことになってしまった。6・ぼくの家の前の道を今朝も小学生が通います ♪イタズラやケンカもしたし 毎日があたらしくて 平和だったような 気がします 今はあまり覚えていないけど 確かにぼくにも あの頃があった 鼻みず たらしながら うたぐったりごまかしたりなんて どこにも 無かったのです CDとしてはリリースされていないこの歌、僕はYoutubeで知りました。 少年時代の思い出と、失った風景、自分が失ってしまったもの。 無職だった頃、こんな気持ちに沈んでいたこともあった。7・共犯者 ♪わけもわからずに追い掛け回されて逃げ回らなきゃならないとき、かくまってくれるかい? 88年の作品「MARVY」の中でもとてもヘヴィな一曲。8・ヒッピーに捧ぐ ♪お別れは突然やってきて すぐに済んでしまった いつものような何気ない朝は 知らん顔して僕を起こした 朝のラッシュアワー、ときどきこの歌がふっと頭の中をよぎる。 清志郎のシャウトに、胸がつぶれそうになる。 76年「シングルマン」。9・サラリーマン 94年のソロシングル。 ♪子どもじゃなけりゃ誰でも二つ以上の顔を持ってる、ってフレーズが好き。 生きることは、映画のようにはすぐには終わらないんだもの。10・夢を見た ♪君の事を夢に見たのさ 目が覚めて僕は 悲しい 鏡の前で君を呼んでも 泣き出しそうな僕がいるだけ 84年「FEEL SO BAD」収録のソウルナンバー。
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ゴールデンウィークはすっかり清志郎三昧の日々になってしまいました。
そうですね、この人は永遠です。
「よそ者」も当然候補に入っていたのですが全キャリアからをまんべんなくを配慮した結果、「まぼろし」に譲ってしまいました。ま、それでもやっぱり『RHAPSODY』から『FEEL SO BAD』まではどっさり偏っちゃうのですが。