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♪空缶と白鷺

気がついたらいつの間にか4月になっていた。
けれど、まるで春が来ているという実感がない。
実際気温も低いし、近所の河原では日曜日に「桜まつり」があるそうだが桜なんてまるで咲いてやいないし、でも、それだけが春らしさを感じない理由ではないだろう。
いろんなことがにっちもさっちもいかないお手上げ状態になっているのに、暦だけがするすると勝手に動いていく、そんな印象。

流通系の仕事をしていると、消費者のいろんな声が聞えてくる。
そのほとんどは被災地への励ましの声なのだけれど、先週くらいから少しずつ、ひどくがっかりしてしまう声が混ざるようになった。
「いつまでこんなにモノ不足が続くのか。被災地でももう水やお茶は余っているとテレビでやっていた。」
「被災地支援も大事だろうけれど、あてにしているものが届かないのは困る。私まで被災しているような気分になる。」

そうなんですよ、今回の震災とその後の事故については、実は日本中が被災者なんですよ。
飲み込まざるを得ない、そんな言葉。

「福島の生産者がかわいそう。食べて問題がないのだったらぜひ販売してほしい。」
「東日本の農産物は取り扱わないでほしい。政府の言うことはいつでも後手後手で信用できない。食べてしまったあとで「実は…」などと言われても取り返しがつかない。」

どちらの言い分もわかる。でも、どちらの言い分も、感情に突き動かされているだけのある種のヒステリーでしかないのです。


震災から3週間。テレビもずいぶんと普通に戻った。
極度の緊張、或いは強い感動が持続できるのはせいぜい3週間くらいが限界なのだろう。
「怖いね」「かわいそう」「助けてあげて」…泣ける映画を観終わった後みたいに、自分で勝手に感動して、「少しでも出来ることを」なんてわずかな募金で免罪符を手に入れて、あとはいつもと同じいつもの暮らし。

あぁ、でもそれは僕も同じなのだ。
本当のことを言おう。被災地がいくら困っていても、自分の暮らしが困らなければそれでいい。
本当のことを言おう。本当に被災者のためを思って泣いているのじゃない。同じ事が自分の身に起きたと想像したらとても辛くて泣いているだけなのだ。
被災していない自分が何かを言えば言うほど、自分が偽善者に思えてくる。

いや、そうじゃない。誰でもそうだ。誰だって自分と自分の身の回りさえ幸せならばそれでいい。
それは、生き物として当たり前のことだ。
かわいそうって泣いて、被災した方へがんばれって言って、それでなんとかなるならそれはそれでいい。
でも、今起きていることは、そんなレベルじゃない。
被災していない地方は自粛しないでしっかり経済を回さないと日本が倒れてしまうと経済学者は言う。
でも、今はとてもそんな気分じゃない。
走り続けなきゃ回らない自転車操業みたいな経済的発展を未来永劫続けていけるとは思えないのだ。
原子力に頼らなくてもいい程度の便利さでじゅうぶん満足じゃないか。
過剰なまでに豊かで快適な暮らしを求めてきた代償を、僕らは支払わなければならない。



震災の直後、しばらくは音楽が聴けなかった。
それから、ボブ・ディランやルー・リードやパティ・スミスばかり聴いていた。
それから、スティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイやダニー・ハサウェイなんかを聴きながらのうのうと愛について共感し、一方で重くのしかかる不安な感じをイギー・ポップやラモーンズを聴いてぶっとばそうとしたりしていたけれど、なんだか不安定な行ったり来たりの繰り返しで自分の中でバランスを崩してしまった。
落ち込んだり悲観的になったりしても何にも解決しないことなんてわかっている。だからといってしゃあしゃあと善人ぶって高いところからあるべき論を振りかざしたりもしたくない。
おそらく僕は、少し疲れているのだろう。
普段は聴くことのない、こんな歌が妙にしみる。


さだまさし / 空缶と白鷺

 白鷺が一羽 一輪の白菊の様に
 汚れた河のほとりで空缶に埋もれ静かに水をみつめてる

 かくれんぼを知らない子供が増えたって誰かが話してた
 ひとり暮らしの老人達が増えたって誰かがつぶやいた
 僕がこんな風にお前を抱きしめている時に
 どこかで誰かがお腹を空かせて死んでゆく
 ああ いつだって彼らを追いつめているのは僕だった
 そう そのくせに手を差しのべるふりするのも僕だった
 それが時代の正体だと嘘を
 承知で笑えるほどに大人を演じ
 ふと気がつけば僕は卑怯な顔になった

 世論調査では国民の九割が中位満足してるって
 何かとひきかえにこの国も一流の服だけ手に入れた
 僕がこんな風にお前を抱きしめている時に
 どこかで誰かがピストルに射たれて死んでゆく
 ああ いつだって失いたくないものたちが多すぎて
 そう そのくせに失くしたあとで気づくものばかり
 それが幸せの証しだと嘘を承知で
 悲しみながら 迷いながら それでも
 精一杯に 誰もが 今を生きている








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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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