矢野顕子さんの2008年の作品“akiko”は、なんだか冬のはじまりの気配がする音楽だ。 どんより曇った空からひっそりと雪が舞い降りてくるような演奏で始まる“When I Die”。 いつもは朗らかで包容力にあふれた矢野さんの歌もどことなく控えめ、いつになくブルージィで、冬の薄い色の空や少し力をなくしたお日様のようだし、ピアノの音もどこかひんやりと冷たくきりっと尖った印象がする。 “Evacuation Plan”“The Long Time Now”“Song for the Sun”と、静かで重いテーマの曲が続き、5曲目はなんと、レッド・ツェッペリンのカバー“Whole Lotta Love”。 まるで和太鼓のようにどどんどどんと鳴るドラムはジェイ・ベルロウズ。 季節はずれの雷のように遠くでフリーキーに鳴っているギターは、奇才マーク・リボー。 基本たった3人での演奏なのに、いや、だからこそか、音楽にはとても濃密な空気が充満している。 穏やかで、同時にとても獰猛で、ゆるやかで、同時にとても張りつめた緊張感がある。 その、穏やかさと獰猛さ、ゆるさと緊張感の入り混じった感じが、とても冬のはじまりっぽい気がする。 これからやってくる長く暗い時期をやりくりしなくちゃという不安と覚悟が入り混じったような感じ、とでもいおうか。
Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。 “日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。 自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。
このアルバム、今までの矢野顕子さんのアルバムとちょっと毛色が違っていて不思議な魅力を感じます。全部聴いてるわけでもないけど。
ライヴ、いいですね。レポートを楽しみにしています。