さて、シリーズ第三弾<90年代以降編>ですが、まずは訂正をさせていただきます。 ここに選んだ25枚は、<90年代以降の日本のロックのベストアルバム>でもなんでもない。 B’zやグレイやX-JAPANはハナから選ぶつもりはないにせよ、このリストにはミスチルも電気グルーヴもフリッパーズギターもドラゴンアッシュも登場しない。山崎まさよしもスガシカオも宇多田ヒカルもMISIAも椎名林檎も登場しない。ボアダムズも少年ナイフもUAもブランキー・ジェット・シティも、くるりやプレイグスやミッシェル・ガン・エレファントでさえも…。 選んでみようとして改めて愕然とした。新しい音楽、とくに新しい人を、全然聴いてないのだ。いや、まったく聴かなかったわけではない。聞えてきたものはたくさんあった。でも、夢中になったり気に入って熱心に聴いたもののほとんどは、思春期に好きになった人たちのその後、だったのだ。 つまりはこのリストは、僕自身が<大人になってから聴いた日本のロックのうちのとても大好きなアルバム>のリストである、ということ。いわば、ほとんどはおっさんの呟きであるということをご了承いただきたい。 <1990年~1995年> 上々颱風 「上々颱風」 (1990)
ザ・グルーヴァーズ 「№18」 (1990)
ヒートウェイヴ 「柱」 (1990)
RCサクセション 「Baby A Go Go」 (1990)
麗蘭 「麗蘭」 (1991)
忌野清志郎 「Memphis」 (1992)
ザ・ブルーハーツ 「STICK OUT」 (1993)
佐野元春 「The Circle」 (1993)
小沢健二 「LIFE」 (1994)
斉藤和義 「Wonderful Fish」 (1995)
スピッツ 「ハチミツ」 (1995)
<1996年~2000年>
三宅伸治 「615」 (1998)
仲井戸麗市 「My R&R」 (1999)
ザ・ハイロウズ 「バームクーヘン」 (1999)
矢野顕子 「Hone Girl Journey」 (2000)
<2001年~2010年>
ハナレグミ 「音タイム」 (2002)
サンボマスター 「新しき日本語ロックの道と光」 (2003)
ソウルフラワーユニオン 「シャローム・サラーム」 (2003)
トータス松本 「Traveler」 (2003)
Chara 「夜明け前」 (2003)
佐野元春 「THE SUN」 (2004)
忌野清志郎 「夢助」 (2006)
佐野元春 「COYOTE」 (2007)
クロマニヨンズ 「FIRE AGE」 (2008)
中村あゆみ 「VOICE」 (2008)
ご覧いただければわかるように、1996年からの数年間がほとんど空白期間になっている。
僕はその当時、古いR&Bやソウル・ミュージックやブルース、それから更にジャズに興味を持ちはじめ、そういうものをどんどん遡って聴いていくのに夢中になっていたのだ。
でも、それだけが理由じゃないなぁ。うん、それだけじゃない。
90年代半ばには日本のロックはJ-POPと呼ばれるようになっていて、才能ある若い人たちがどんどん現れた。最初はとても刺激的で、たくさんのCDも聴いたのだけれど、あるときふと追いかけるのをやめてしまった。作品の質そのものとはまったく別の次元で、自分の心にガツンと響いて来なくなかったからだ。
ロックは元々若者のための音楽だった。若者という言い方がしっくりこなければ、社会的にも精神的にも未成熟で社会の中での立場はそう強くない、しかしその分自由度は高いある特定の年頃…とでも言おうか、とにかくロックはある種のモラトリアムのココロに強く作用する。しかし、30代を前にして大人になることが求められていたその当時の僕に必要な歌は、瞬間の若さを謳歌したり、若さ特有の不安を歌う歌ではなく、大人になってからもどうやってロックし続けていくことができるのかを教えてくれる歌だったのだ。新しく出てきた人たちは、青春真っ盛りの歌ばかりを歌っていて、それは僕にはとてもつまらなくなってしまった。一方、80年代にかっこよかった「兄貴」たちもほとんどの人たちはかつての自己の縮小再生産的な状況に陥って醜態を晒すことがほとんどで、誰かの新譜が出るたびに聴いてみては失望し次はもう聴かなくなってしまう…そんなことの繰り返しが続き、少しづつ何も聴かなくなっていったのだ。
大人になってからもどうやってロックし続けていくことが出来るのか。
ロックしながらちゃんとかっこよく歳を食っていくことは果たして可能なのか。
そのことを指し示してくれる音楽が聴きたかった。それはきっと今も同じだと思う。
結果的に、選んだアルバムのうち三宅伸治を含むRC関連が6枚・佐野元春が3枚・ヒロト&マーシー関連が3枚と実に25枚の半数近くを占めることとなったのは、つまりはそういうことだ。
【 90年代以降の日本のロック25枚を選ぶに当っての個人的なMEMO 】 ・やっぱりRCだった。3人になって録音した「Baby a GoGo」。まさかこれがラストアルバムになるとは思わなかったけれど。しかし、RCが終わりになってもやむを得ない、と思わせるくらいチャボのこの頃の活動はかっこよかった。ずっと№2で誰かを支える役割をこなしてきた男が、敢えて踏み出した新しい一歩はとても力にあふれていた。 清志郎は「ただ好きな歌を好きなように歌うだけさ」と新しい仲間たちと飄々と歌っていた。二人のそれぞれの活動を見ながら、30代はどんどんと友達が減っていくけれど40代になれば新しい友達ができるものなのだなぁ、と思っていた。それは、実際そのとおりだった。 ・佐野元春のよさは、もはや彼の通ってきた道を俯瞰してからでないとうまく伝わらないのかもしれない。たくさんの「かつてかっこよかった人たち」が、いつの間にかかつて自分が作ったものの呪縛に捕らわれて、自己の縮小再生産的なことを繰り返しては落ちぶれていくのを見てきた。誰かの新しいアルバムを聴くたびに失望を繰り返した。佐野元春は最初から「そうはならない」という強い意思を持って常に新らしい自分の音楽を追求してきたのだけれど、正直90年代は迷っていたと思う。昔の元春のかっこよさを求める人たちからも、最先端の音楽を求める人たちからも支持されない中途半端な作品が続いていた。佐野さんでさえももうダメなのかな、と思った頃に、自ら立ち上げたレーベルから発表された「THE SUN」・・・これがめちゃくちゃかっこよかったのだ。熟成や老成とはまた違う、力まず、無理せず、ありのまま、自然体で、とても力強く今を肯定する姿勢にずいぶんと勇気をもらった。 ・そしてブルーハーツ。若い世代に絶大な支持を得てバンド・ブームの火付け役になり、形だけを真似た青春パンク・フォロワーが横行する中で、まるでインディーズのバンドかと思うようなひねりなしの直球パンクばかりのアルバム「STICK OUT」をリリースしたのが93年。あれは、大御所にはならない、いつまでたってもチンピラのままでいるんだという意思表明だった。それからもう20年近く、彼らは無邪気にロックンロールごっこを楽しんでいる。まったくすごい人たちだと思う。 ・ソウルフワラーユニオン、トータス松本、Chara。世代の近いアーティストたちの中から選んだのは、いちばん華々しい頃ではなく比較的地味なものばかりになってしまったのは偶然か。ある程度の才能のほとばしりを出し尽くしたあとに来る迷いの時期を乗り越えて、それでも歌うことを選んだ時期の歌が、今の僕には一番深く響いてくる。 ・自分より若い世代で選んだのは結果的にはハナレグミとサンボマスターだけだった。表面的にはほんわかしつつ深いところでは虚無的な歌を歌う人たちが多い中で、彼らの音はちょっと違った。ロックが培ってきた歴史的財産をしっかり消化した上で、前を向いて行こうという意志を感じた。 ・最後の中村あゆみ「VOICE」。70年代~90年代の誰でも知ってる大ヒット曲のカバー集。どう考えてもこのアルバムが、1990年からの20年を代表するアルバムだとは思えない。それでも選んでしまったのは、小便臭い歌ばっかり歌っていたちょっとはみ出した女の子が、こんなにも魂こもったかっこいい大人の歌を聴かせてくれるシンガーになったことへの共感、そして同世代へのエールなのだ。この時期カバー・アルバムは山ほど発売されたもののそのほとんどは懐メロカラオケ大会か歌唱力ひけらかし大会でしかなかった。でも、彼女の歌には魂があった。彼女が通ってきた紆余曲折とそれをちゃんと受け入れた上で開き直るパワーを感じたのだ。思い入れ+αがあるから、誰もがそう感じるかどうかは自信はないのだけれど。 まぁそもそも、1990年からの20年分を25枚にまとめることなんて少し無茶だった。 更に、蛇足と知りつつ、とてもロックとは呼べなかったので本編では選ばなかったアルバムを3枚。 彼女たちの素晴らしい歌声にも、ずいぶん助けてもらった。 綾戸智絵 「LOVE」 (1999)
古謝美佐子 「天架ける橋」 (2001)
夏川りみ 「歌さがし」 (2007)
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そうですね。ガツンと来ない感じ、あります。若い頃に聴いたらきっとのめりこんだのかな、と思うアーティストもいるけれどやっぱりのめりこまない。それはやはり我々が歳をとって、若い頃と同じような刺激ではガツンと来ない、ということがあるのでしょう。
あと、文化も人間と同じで、草創期から成熟期を経て安定しながら衰退していきますから(落語だってやっぱり上方四天王の時代が一番すごいし、ジャズだってマイルスの変遷とともに年老いていったでしょう…)、そういう意味では我々の世代は、60年代~70年代の一番美味しいところは逃したかもしれないけど、ロックが一番豊かに実っていくところを体験できたのでしょうね。