1980年代前半。世は80年代バブル、誰もがブランド物で身を固め、スポーツカーで海や街へ繰り出していたような浮かれた享楽的なイメージで語られるおしゃれでリッチで派手で軽薄な時代の端っこで、僕は10代後半で、地下室の喫茶店でなけなしの金を稼ぐしかない金もヒマも自由も女も仲間も何にもないみじめなアルバイターだった。 華やかな時代とはまったく無縁の薄暗がりの中で自分の真夏が終わってしまうかのような感覚に襲われながら、ハードロックやパンクやドアーズやヴェルヴェットアンダーグラウンドなんかを井戸の底で膝を抱えるように聴いていた。 そんな僕にも、やっぱりある種の開放感、高揚感、清涼感、爽快感、ポップでハッピーでキュンとセンチメンタル…は日々の暮らしに必要な感情であって、友人たちには粋がってみせる一方でこそっと隠れてウォークマンで聴いていたのは、例えばこんな音楽だった。 ハードロックやパンクやドアーズやヴェルヴェットアンダーグラウンドは、なかなか今の歳になって同じ気持ちで聴くことはできなくなってしまった。それらはある時期特有のカタルシスなくして聴くことはできない種類の音楽なのだろう。一方で永ちゃんやビリー・ジョエルは今も普通に素敵で普通にカッコよく、夏になると聴きたくなる。あの頃の自分に対してのほんの少しの気恥ずかしさを感じながら。 THE BORDER / 矢沢永吉 西海岸のスタジオ・ミュージシャンを起用した乾いたプロフェッショナルなサウンド、そこに描かれたリッチで洒落た世界で見栄を切る矢沢のかっこよさ。
SOUL VACATION / Rats & Star ドゥ・ワップから、ファンキーなパーティー・ナンバーから、センチメンタルな“Tシャツに口紅”まで。
スタイルの物真似だけじゃなく、おちゃらけも含んだファンキーさ、能天気さ、そして路地裏のRATSたちがSTARになるそのサクセス・ストーリーとその後の凋落、崩壊そのものがブラック・ミュージック的だと改めて思ったりする。
The Honeydrippers, Vol. 1/The Honeydrippers ソロになってからもツェッペリン的なものを守ってきたロバート・プラントが、故郷へ帰るように録音した50’sスタンダード。セクシーな“Sea of Love”に甦る甘い夏の記憶。
An Innocent Man/Billy Joel ブルース・ブラザースみたいなぶりぶりのR&Bから、ドゥ・ワップ、モータウン、フォーシーズンズ・・・輝かしき50’sアメリカン・ドリームを素直に描き出した無邪気なイノセンス。
Greatest Hits/Journey 伸びやかで美しいメロディー、天を翔るようなギター・ソロ。
産業ロックと揶揄された彼等の音楽はよくできた工業製品だと否定しつつこっそり聴いていたジャーニー。彼等の完成された音楽は、単なる感情の垂れ流しのような自称ロックとはまた別の種類の崇高な輝きを持っていることに気付いたのはそう遠くない最近のことだけれど。
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