朝、出かけようと玄関を開けたら、扉の前にセミが落ちていた。 思わず踏んづけそうになって拾い上げようとしたら、、かろうじて翅をバタバタさせて、でももう飛び上がる力もない。 七年土の中にいて迎えた最後の一週間の最後。 ジージーと啼きながら、翅をバタバタさせているセミ。まるで巧妙な作り物みたいだと思う。 このセミは幸せだったのだろうか、と考えて、いや馬鹿げていると思い直した。セミに感傷はない。プログラムされたとおりに生まれて、プログラムどおりに啼ききっただけなのだ。 啼ききることにすべてのエネルギーを注いで、命を全うする。ある意味とても潔い。 このところ、何となく心が閉じている、何となくそんな気がしている。 何があったというわけでもない、ショッキングな出来事や深刻な事態があったわけでもない、ただ何となく、今ひとつ張りがないような気がしている。 ある人から「最近ラクしてるんじゃないか、って言われてるで。」って言われた。 「えっ?誰からっすか?」「現場。」 …ラクはしていない。残業削減の号令の元、時間内に片付くよう、今までよりぎゅっと圧縮して仕事してる。これはこれでけっこう疲れる。長い時間働いている=頑張ってる、早く帰ることができる=頑張っていない、でもないだろう。まして何もわかっちゃいない人にそんな言われ方されたくはない。 でも、一方で、どこか不完全燃焼感もあるのは確かで、ちょっとギクッとしたのかも知れない。 そんな感じの最近、妙に心地よいのがこんな音たち。 Van Halen/Van Halen Heavy Metal Be-Bop/Brecker Brothers Fragile/Yes Now's the Time/Charlie Parker Couldn't Stand Weather/Stevie Ray Vaughan ハード・ロック、フュージョン、プログレ、ハード・バップ、モダン・ブルース…並べてみるとかなりバラバラだけど、自分なりには共通点がある。
即ち、卓越したテクニックとスピード感で聴くものを有無を言わさず圧倒してしまうような音楽。
ジグザグと縦横無尽に飛び回るギターやサクソフォン、壁のリズム隊が生み出す太くて尚且つしなやかなリズム。
聴いている、というのはひょっとして正しくないのかもしれない。
聴いているというよりは、音のカタマリに埋もれる、音の雪崩に流される、といった感じか。
ものすんごいスピードのリズムの波の中を息も尽かさず右へ左へと旋回するサーファーみたいに完璧なアンサンブルを披露する超絶技巧のミュージシャンたちは、生き物というよりは巧妙な作り物のようだ。まるで今朝のセミみたいに。
そしてセミに感傷がないように、聴こえてくる音楽にも、いじいじした感傷などまるでない。
今吹いている風、今襲ってくる波を受け止めて乗り切ることにだけ100%のエネルギーを注ぐこと。それはある種の快楽で、その快楽に浸りきる潔さにただただ圧倒される。
そびえ立つ壁のような、怒涛の雪崩のような轟音の中で、一旦思考回路を停止して、バカテクとスピードの快感に身を委ねる。
不完全燃焼の燃えカスを、ここで全部燃やし尽くしてしまうことにする。
あえて、心を閉じて、何も感じない、何も考えない…そんなときもきっとたまには必要なんだろう。
プログラムされたとおりに啼ききるセミに潔さは感じるけれど、僕は人間で、だから感情があって、それがときどきめんどくさくなるから、たまには閉じる。それもありということにしておいてほしい。
凪、みたいなもんだ。そうこうしているうちに、次の風が吹く。
次の風が吹いたら、ふわふわと次の風にのっていけばいいのだ。
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思考回路一旦停止にするには浴びるように聴くのがいいですね。からっぽになれます。
僕はどちらかというと"テクニックよりもスピリットだぜ"派(笑)ではあるのですが、やっぱり上手い演奏がツボにはまった気持ちよさには抗えません。とくにキモはリズム、ここに挙げた5枚もとにかく全部リズムが気持ちいいいのです。