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猿山


その遊園地を訪れたのは何年ぶりのことだったのだろう。

朝からせっせと出掛けていったとある県境での業務が腑抜けてしまうくらいにさっさと終わり、ポカンと時間が空いてしまったのだ。

もちろん会社に帰ればそれなりに用事はあるのだけれど、直帰するつもりで出てきたからなんだかとてもそういう気分になれず、どうしたものかと車を走らせているときに、この遊園地の看板が目に止まったのだ。

1ヶ月ほど前に、経営不振のため今年いっぱいで閉園するというニュースを目にしたところだった。親会社は売却を念頭にいろいろと交渉をすすめたものの、買い手がつかなかったのだそうだ。

小学校の遠足で来たことがあったという記憶があるけれど、それ以来だとしたら実に40年以上の歳月が経ってしまったことになる。

平日の午後ともなるとやはり人影はまばらで、がら空きの駐車場に車を止め、チケットを買ってがらんとしたゲートをくぐるとそこにはその頃とほとんど変わっていないような風景が広がっていた。

窓口のおばさんが「5時までですからね。」と後ろで叫んでいる。

一歩一歩と足をすすめるうちに、いろんなことを思い出してきた。

あの日は確か午後から雨が降った。

公園内の広々とした芝生の原っぱでのお弁当は中止を余儀なくされ、じめじめと湿った鳥小屋の端っこで、雨に混じった動物の臭いをかぎながらお弁当を食べたのだ。

鳥小屋には孔雀がいて、お調子者のMが両腕を高く広げてパタパタさせると、孔雀も羽根をはらりと広げたということがあって、Mはそのことでしばらくクラスのヒーローになっていた。

確か小学校4年生のクラスだ。


小学生というものは、ほんとうに身も蓋もなく無邪気だから、見た目から直結したあだ名をつけたりする。

悪意ではなく無邪気な故だからこそある意味タチが悪い。

メガネを掛けていたYは、メガネを掛けているというただそれだけでメガネザルと呼ばれ、少し太っていたNはNブーとあだ名され、図体がデカくてちょっと乱暴なSはSゴリラと呼ばれていた。

遊園地に併設された動物園のメガネザルの檻に向かって「おーい、Y、いつから動物園におんねん!」などと大声で叫ぶクラスのいちびりたち。「そんなんゆーたったらYくんかわいそうやん!」という女子たちに「Yに気あるんちゃうーん。」といちびりたちがはやしたてると、女子たちは「そんなんちゃうわー。」とバッサリ返し、そのやりとりをYはうつむいて聞き流そうとしていたけれど、Yの顔は真っ赤っかだった。

こうして幼いうちから、無邪気に傷つける者と、無防備なうちに傷つけられる者との格差は広がっていくんだろうな。

こういう年頃にどっち側にいたかは、その後の人生を大きく左右する。

どっちが最終的に幸せかどうかはわからないけれど、無防備なうちに傷つけられた者は、本当は通らなくてもいい周り道をさせられるのだ、と思ってしまうのは、きっと自分もそっち側だったという意識があるからだろう。

無防備な側は、連帯することをまだ知らない。自分はそっち側ではないと信じて、往々にして強い側についてしまいがちで、そのことが更に分断を深くするのだ。


そんなことを思いながらふらふらと歩いていると、ニホンザルのエリアにたどり着いた。

コンクリートでできた大きな山にジャングルジムのようなものが組み合わされた大きな猿山。

てっぺんではボス面をした大きなサルがのさばっている。

その脇には毛繕いをするメスたちと赤ん坊。

山の下のほうでは、若いオスたちが歯をむきだしていがみ合っている。

強い者はより豊かに、弱い者はより厳しく。

もし僕がこの猿山の一員だったら、間違いなく僕の位置は山の下のほうだろう。


そのとき、携帯が鳴った。

会社からだ。

「もう終わったんか?報告くらいよこせや。商談、どうやってん。」

とつっけんどんに上司。

「あ、すいません。ちょっと充電切れてて、車で充電してまして。えーっと、先方の言い分はそれなりにいろいろとあるのはあるんですが、まぁなんとか行けるんじゃないかと。」

「そんな報告でわかるかい、ボンクラがっ!明日の朝イチで報告書出してくれ。俺も専務に結果聞かれて困っとんねんわ。」

こいつはいちいちマウント取りに来る。

詳しい報告をしようとしたらしたで、「今そんな細かい話しいらんねん」とか言うに決まってる。自分を大きく見せようとすることでしか優位に立てない能なしだ。

「はい、承知しました。朝イチには必ず出しますんで、今日は直帰します。」

「はぁー、こっちはこてこてやのに、ええ身分やのぉ、ボンクラがっ!」

「は、はーい。お疲れさまですー。シツレイしまーす。」


サルたちもきっと似たような苦労をしているんだろう。

ボス猿の理不尽な振る舞いと、ボス猿に媚びへつらう取り巻きたち。

どこの社会も大して代わり映えしないもんなんだろうな、その中で上手く立ち回って行かなきゃ生き残れない。

猿山のサルたちは、とても平和そうで、仲間たちが協力しあって共同体を維持しているように見える。

彼らの心の内はここからはとても見透せない。








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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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